●ロックへの旅:カンサス・シティ
    (ウィルバート・ハリスン:1959)

「むむむ、ちがう・・・」。1959年のウィルバート・ハリスンのヒット曲(ポップ・チャ
ートとR&Bチャートの両方で1位)、《カンサス・シティ》を聴いて一番最初に思った
ことです。おそらくこの曲を自らすすんで初めて聴いた人は、十中八九、同じような感想
を抱くのではないかと思います。なんといっても50年前のヒット曲です。リアルタイムで
聴けたような人は、既に60歳台の後半になっていると思われますので、日本人ではほとん
どいないのではないでしょうか。ウィルバート・ハリスンの《カンサス・シティ》に自ら
すすんで辿り着く多くの人は、おそらく、それ以前にビートルズがカヴァーしたヴァージ
ョンを聴いていることと思われます。これが十中八九同じような感想を抱くのではないか
と思われる根拠です。つまり、聴いたときに心の中で無意識にビートルズのヴァージョン
と比較してしまうのです。それが、冒頭の感想につながるというわけなのです。

”ちがう”理由も、ちゃんとあります。ファンの間では有名な話ですが、ビートルズがカ
ヴァーしたのは、大ヒットしたウィルバート・ハリスンのヴァージョンではなく、リトル
・リチャードがアルバムでカヴァーした、リトル・リチャード作の《ヘイ・ヘイ・ヘイ・
ヘイ》とメドレーになっているヴァージョンです。ウィルバート・ハリスンのヴァージョ
ンは、もちろんこの《ヘイ・ヘイ・ヘイ・ヘイ》はありません。それだけではなく歌詞も
異なっています。《カンサス・シティ》の作者は、エルヴィスが歌った《ハウンド・ドッ
グ》やコースターズの一連のヒット曲でもお馴染みのジェリー・リーバーとマイク・スト
ーラーです。歌詞を変えられて、怒らなかったのでしょうか。ちょっとイントロを足した
だけで作者と歌手の間で「歌わせない!」などと騒動になるどこかの国とは違って、おそ
らく50年前のアメリカは細かいことは気にしなかったのかもしれません。

ビートルズがカヴァーしたのもリトル・リチャードのカヴァー・ヴァージョンですが、実
は大ヒットしたハリスンのヴァージョンもオリジナルではありません。オリジナル版を歌
ったのはリトル・ウィリー・リトルフィールドという黒人歌手で、タイトルも”カンサス
・シティ”ではなく《K・C・ラヴィン》というタイトルでした。なんでもそのほうがヒ
ップだということで、レコード会社側で変えてしまったと言われています。それにしても
不思議なのは、なぜビートルズはヒットしたハリスン・ヴァージョンではなく、リトル・
リチャード・ヴァージョンをカヴァーしたのかという点です。”らしい”といわれればそ
れまでなのですが、ハリスンの《カンサス・シティ》は、いかにビートルズがマニアック
な集団であり、かつ凄いアレンジと演奏能力をもったバンドだったのかを、逆説的に証明
してくれるのが、比較して聴いてしまうしかない人間が感じる面白いところなのです。

《 Kansas City 》( Wilbert Harrison )
cover
Wilbert Harrison(vo,p)
Wild Jimmy Spruill(elg)

Written  by : Jerry Leiber/Mike Stoller
Charts      : POP#1, R&B#1
Label       : Fury

Appears on :Kansas City:The Legendary Golden Classics 
1.Kansas City, 2.Let's Work Together, Parts 1 & 2, 3.Don't Drop It,  
4.Stagger Lee, 5.C.C.Rider, 6.Cheatin' Baby, 7.Horse, 8.Stand by Me,  
9.Since I Fell for You, 10.Have Some Fun, 11.My Love, 12.1960, 13.Blue Monday,  
14.Don't Wreck My Life, 15.Why Did You Leave?, 16.Walking by the River,  
17.Da-De-Ya-Da, 18.Listen My Darling, 19.Forgive Me, 20.Pretty Little Woman,  
21.Poison Ivy, 22.Woman in Trouble, 23.It Took a Long Time,  
24.Messed Around and Fell in Love, 25.Goodbye Kansas City  

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