リッチー・ヴァレンスの1959年の全米トップ40ヒット(22位)《ラ・バンバ》は、50年後 の2009年のいま現在、アメリカから遠く離れたわが日本のテレビ・コマーシャルにも使わ れているくらいポピュラーな曲です(※ただし使用されているのは、ヴァレンスのヴァー ジョンではありません)。1980年代に洋楽のMTVを好んで観ていた年代の方であれば、 ロス・ロボスのカヴァー・ヴァージョンを憶えているかたも多いでしょう。ロス・ロボス のカヴァー・ヴァージョンは、ヴァレンスの生涯を描いた映画「ラ・バンバ」(サンタナ が音楽監督を努めている)のサウンド・トラックからのシングル・カットで、全米はもち ろんのこと各国のシングル・チャートで1位という大ヒットを記録しました。《ラ・バン バ》という曲が現在のように一般に知られるようになったのは、このロス・ロボスのカヴ ァー・ヴァージョンのヒットによることが大きいと思います。 ぼくはロス・ロボスよりも前に《ラ・バンバ》という曲の存在は知っていましたが、ロス ・ロボス・ヴァージョンを知るまでは、《マンボNo.5》のような曲と同様にラテン・バン ドが演奏するタイプの曲だと思っていました。しかしロス・ロボスからヴァレンスの”オ リジナル・ヴァージョン”に遡ることにより、ロス・ロボスがヴァレンスのヴァージョン に忠実にカヴァーしていることを知って、”オリジナル・ヴァージョン”に感心してしま ったのです。つまりヴァレンスの”オリジナル・ヴァージョン”のアレンジは、80年代で も十分に通用する(なんといっても各国でチャート1位)ほどの魅力があったということ です。《ラ・バンバ》はメキシコで古くから伝わるダンス曲だそうでヴァレンスがオリジ ナルではないのですが、ストレートでシンプルなロック・アレンジにしたヴァレンスのヴ ァージョンは、敢えて”オリジナル・ヴァージョン”と呼んで良いと思います。 ヴァレンスの”オリジナル・ヴァージョン”の一番の魅力は、なんといってもイントロか ら始まるギターのフレーズ。これにつきます。ロックな疾走感に満ち溢れています。この ロックな疾走感は、もはやブギウギを基調としたロックンロールのものではありません。 こんなにもロックな魅力に溢れた《ラ・バンバ》が、80年代まで脚光を浴びることがなか ったのは考えてみると不思議です。おそらく《ラ・バンバ》がシングルのB面曲であり、 当時はA面の《ドナ》が大ヒットしたことと関係しているのではないかと思います。その 意味では《ラ・バンバ》の魅力を世の中に知らしめたのは、映画「ラ・バンバ」およびロ ス・ロボスのカヴァーかもしれません。しかしそれも、ヴァレンスの”オリジナル・ヴァ ージョン”が本来的に持っていた、ストレートでシンプルなロック的魅力があってこそだ ったのではないかと思うのです。