●ロックへの旅(第三章):メンフィス
    (ジョニー・リヴァース:1964)

ビートルズのアメリカ上陸以後の全米チャートを眺めていると、なんとなく目をひくのが
ジョニー・リヴァースの《メンフィス》(1964年7月:全米2位)です。なぜ目をひくの
かというと、この曲はロックンロールの大御所チャック・ベリーのオリジナル曲のカヴァ
ーだからです。ビートルズのアメリカ訪問以降、全米チャートで多くのイギリスのグルー
プがヒットを飛ばすようになっていました。そんな時代の最中に個人名義でロックンロー
ルのクラシックを歌うという行為は、イメージだけで捉えるとパット・ブーンやフェビア
ンといった人と同様であり、どうも”古くさい”ような印象をもってしまいがちです。そ
れもこれも、実際にリヴァースの《メンフィス》を聴いてみるまでのはなし。リヴァース
による《メンフィス》は、チャック・ベリーのオリジナルを軽く凌駕する素場らしいロッ
クなのです。

なにが素場らしいって、リヴァース自身を含む演奏です。リヴァースのギター、ベース、
ドラムスの3人編成による演奏なのですが、実に見事なロックとなっています(アレンジ
もリヴァースによるものだそです)。《メンフィス》はライヴ・アルバムからのシングル
・カットなので客席のざわめく声(実際のライヴでは大人しく聴いていた人が多かったた
め、後日スタジオでダビングしたと言われています)が入っていますが、そんなの全く気
にしないといった雰囲気でティーン、ティーン、ティーン、ティロロとはじまるイントロ
は、カッコいいの一言につきます。リヴァースの弾くエレクトリック・ギターのみでスタ
ートし、すぐにドラマーがハイハットでリズムを刻みはじめ、ベースがギターと同じフレ
ーズを被せてくるカッコよさ。チャック・ベリーのオリジナルにはこのイントロはありま
せんので、アレンジをしたリヴァースの”ロックなセンス”に感心してしまいます。

さらに注目すべきは、リヴァースによる《メンフィス》の歌と演奏が、ボブ・ディランに
影響を与えたのではないかと思われる点です。具体的に言うと、ディランの60年代の傑作
『ブロンド・オン・ブロンド』に収録されている《オブヴィアスリー・5・ビリーヴァー
ズ(邦題:5人の信者達)》。この曲とリヴァースの《メンフィス》は、びっくりするく
らい雰囲気が似ています。とくに《オブヴィアスリー・5・ビリーヴァーズ》の一番の歌
が終わったところで入ってくるハーモニカとベースによるユニゾンのフレーズは、ティー
ン、ティーン、ティーン、ティロロとはじまるリヴァースの《メンフィス》のイントロの
変形に聴こえなくもありません。確証はありませんが、リヴァースの《メンフィス》はヒ
ットしたのでディランはおそらく耳にしていたでしょう。この推測が間違っていたとして
も、リヴァースの《メンフィス》はロック史的にもっと注目されてよいと思います。

《 Memphis 》( Johnny Rivers )
cover

Johnny Rivers(vo,g), Joe Osborne(elb), Eddie Rubin(ds)

Produced   : Lou Adler
Written    : Chuck Berry
Recorded   : 1964 Live at Whisky a Go Go, Los Angeles, California
Released   : February 1964
Charts     : POP#2
Label      : Imperial

Appears on :Totally Live at the Whiskey a Go Go
1.Memphis, 2.It Wouldn't Happen With Me, 3.Oh, Lonesome Me, 4.Lawdy Miss Clawdy,
5.Whiskey A-Go-Go, 6.Walking The Dog, 7.Brown Eyed Handsome Man,
8.You Can Have Her (I Don't Want Her), 9.Multiplication, 10.La Bamba/Twist & Shout
11.Maybellene, 12.Dang Me, 13.Hello Josephine, 14.Hi-Heel Sneakers,  
15.Can't Buy Me Love, 16.I Got A Woman, 17.Baby, What You Want Me to Do,  
18.Midnight Special, 19.Roll Over Beethoven, 20.Walk Myself on Home,  
21.Johnny B.Goode, 22.Whole Lotta Shakin' Going On  

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