●ロックへの旅（第二章）：ウォーク・オン・バイ
    （ディオンヌ・ワーウィック：1964）

曲は、ピアノ、ギター、ベース、ドラムスで静かにスタートします。コードはＡマイナー
、基本ビートは当時流行の兆しをみせていたボサ・ノヴァです。出だしのＡマイナーとい
うコードが曲のキーなのかと思いきや、歌がタイトルの「ウォーク・オン・バァーイ」と
いうところに差し掛かると、コードが全音低く（つまりＡマイナーからＧマイナーに）な
るのです。それと同時にヴィブラフォンの柔らかい響きがリズムをつつみ、フュリューゲ
ル・ホーン（トランペットに似た、まろやかな音の楽器）が歌をいろどります。「モダン
な転調だなぁー」と感心していると、ピアノによって繰り返される「タララ、タララ、タ
ラ」という必殺のメロディ・リフとともに、曲はいつのまにかマイナー調からメジャー調
に変わっているのです。ここではじめて曲のキーはＦメジャーで、転調ではなくＦのキー
のＡマイナー（ＣのキーだとＥマイナー）で曲がはじまっていたことに気が付くのです。

いきなり音楽用語を多用してしまいましたが、要するに通常は１の音から始まるのが３の
音から始まるような変わった（当時としては斬新な）構成の曲だということです。その曲
が、黒人女性歌手のディオンヌ・ワーウィックが歌った《ウォーク・オン・バイ》なので
す。作ったのはハル・デヴィッドとバート・バカラックのコンビ。作曲担当は、もちろん
バカラックです。どうりで洗練の度合が違います。豪華にストリングスを使いながらも、
全編にわたって導入することをせず、曲のクライマックス部分にあたる最後の「タララ、
タララ、タラ」というピアノのメロディのところはピアノとヴォーカルだけが目立つよう
なアレンジにするなど、当時のヒット曲としてはサウンド・プロダクションの面でも異彩
を放っている曲なのです。《ウォーク・オン・バイ》をそれだけ際立たせているのは、や
はりバカラックの作曲とアレンジの才能に他なりません。

そのせいか《ウォーク・オン・バイ》を聴いていると、1964年のヒット曲ということを忘
れてしまいます。バカラックは1950年代後半からヒット曲を書いていますが、《アイ・セ
イ・ア・リトル・プレイヤー》、《ザ・ルック・オブ・ラヴ》、《レインドロップス・キ
ープ・フォーリン・オン・マイ・ヘッド（邦題：雨にぬれても）》といったバカラック印
がしっかりと押されたヒット曲が多く出るのは1960年代の後半です。《ウォーク・オン・
バイ》は、これらの60年代後半の作品と並べてもまったく遜色ありません。つまり《ウォ
ーク・オン・バイ》は、バカラック印が初めてきっちりと押されたヒット曲なのではない
かと思うのです。そしてワーウィックは、その後もバカラック印の押された曲を聴きてに
届ける歌いてでありつづけ、1985年にスティーヴィー・ワンダー、エルトン・ジョン、グ
ラディス・ナイトと一緒に歌ったバカラック作の《ザッツ・ホワット・フレンズ・アー・
フォー》で、その功労を褒め称えられるように初めての全米No.1を獲得するのです。

《 Walk On By 》( Dionne Warwick )

Dionne Warwick (vo) Produced : Hal David & Burt Bacharach Written : Hal David & Burt Bacharach Recorded : December, 1963 Released : April 26, 1964 Charts : POP#6 Label : Sceptor Appears on :The Definitive Collection 1.Anyone Who Had A Heart, 2.Don't Make Me Over, 3.Walk On By, 4.Message To Michael, 5.Alfie, 6.I Say A Little Prayer, 7.Windows Of The World, 8.Do You Know The Way To San Jose?, 9.I'll Never Fall In Love Again, 10.Then Came You, 11.I'll Never Love This Way Again, 12.Deja-Vu, 13.After You, 14.No Night So Long, 15.Heartbreaker, 16.How Many Times Can We Say Goodbye, 17.Will You Still Love Me Tomorrow, 18.Love Power, 19.Reservations For Two, 20.That's What Friends Are For