●ロックへの旅(第二章):チャペル・オブ・ラヴ
    (ザ・ディキシー・カップス:1964)

ビートルズのヒット・チャート独占が少し落ち着いたころ、全米チャートのNo.1に輝いた
のがディキシー・カップスの《チャペル・オブ・ラヴ(邦題:愛のチャペル)》という曲
です。日本も「町の教会で、結婚しようよ」と歌う曲がありましたが、《チャペル・オブ
・ラヴ》も「あの教会へ行きましょう、そして私たちは結婚するのよ」という歌詞がひた
すら繰り返される曲です。前年のケネディ大統領暗殺というような大事件があったにも関
わらず、このようないくぶん呑気ともいえるタイプの曲がヒットする1964年というのは、
アメリカもまだのんびりとした時代だったのかもしれません。作者は、ジェフ・バリーと
エリー・グリーンウィッチ、そしてフィル・スペクターの3人。つまり、スペクターがプ
ロデュースを手がけたクリスタルズの《ダ・ドゥ・ロン・ロン》やロネッツの《ビー・マ
イ・ベイビー》と同じ作家陣ということになります。

それではなぜ《チャペル・オブ・ラヴ》は、スペクターのプロデュースではないのでしょ
うか。プロデューサーとしてクレジットされているジョー・ジョーンズはニュー・オーリ
ンズ出身のR&B歌手で、この曲を歌った黒人女性3人組のディキシー・カップスはジョ
ーンズがマネージャーを務めていたグループなのだそうです。ジョーンズがディキシー・
カップスのマネージャーになってしばらくたった頃、エルヴィスで有名な《ハウンド・ド
ッグ》を作ったジェリー・リーバーとマイク・ストーラーが新しいレコード・レーベルを
立ち上げます。そしてリーバーとストーラーは、前年にスペクターと数々のヒットを出し
ていたバリーとグリーンウィッチを彼らの新レーベルに迎えたのです。そこにジョーンズ
がディキシー・カップスを連れて行き、バリーとグリーンウィッチの作った《チャペル・
オブ・ラヴ》を録音して発売したところ、めでたく全米No.1になったというわけです。

この話には、おかしいところがあります。スペクターへの疑問が、また作家としてスペク
ターがクレジットされている理由が解消されません。スペクターのようなプロデューサー
が、No.1ヒットになるような曲を他のプロデューサーに渡すとは思えません。案の定《チ
ャペル・オブ・ラヴ》はディキシー・カップスがオリジナルではなく、スペクターのプロ
デュースでロネッツとダーレン・ラヴが録音しています。しかしロネッツのヴァージョン
が”アルバムの1曲”として世に出たのは、ディキシー・カップスのヒット後のことでし
た(ダーレン・ラヴ版は当時未発表)。つまりスペクターは、《チャペル・オブ・ラヴ》
を評価していなかったのではないでしょうか。しかしぼくは、シンプルで軽やかなディキ
シー・カップス・ヴァージョンよりも、スペクター特有のサウンドに彩られたロネッツや
ダーレン・ラヴのヴァージョンのほうが、音楽的に圧倒的に面白いと思うのです。

《 Chapel Of Love 》( The Dixie Cups )
cover
これがディキシー・カップス
cover
こちらはロネッツ(可愛い!)。
スペクター・プロデュースの
《チャペル・オブ・ラヴ》収録

The Dixie Cups are
Barbara Ann Hawkins, Rosa Lee Hawkins & Joan Marie Johnson

Produced   : Joe Jones
Written    : Jeff Barry, Ellie Greenwich & Phil Spector
Recorded   : 1964
Released   : 1964
Charts     : POP#1
Label      : Red Bird

Appears on :The Complete Red Bird Recordings
1.Chapel of Love, 2.Gee the Moon Is Shining Bright, 3.I'm Gonna Get You Yet, 4.Girls Can Tell,
5.All Grown Up, 6.Iko Iko, 7.Gee Baby Gee, 8.Ain't That Nice, 9.People Say, 10.Little Bell,
11.No True Love, 12.You Should Have Seen the Way He Looked at Me, 13.Another Boy Like Mine,
14.Thank You Mama Thank You Papa, 15.Wrong Direction, 
16.Gee the Moon Is Shining Bright [Mono Single Version], 17.People Say [Alternate Version],
18.Iko Iko [A Cappella Alternate Version]

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