●ロックへの旅:サマータイム・ブルース
    (エディ・コクラン:1958)

「オリジナルはこんなんなの?」と、初めて聴いたときに肩透かしをくらったような印象
を受けたのが、エディ・コクランの《サマータイム・ブルース》です。エディ・コクラン
が1958年に発表したロックンロール・クラシックですが、コクランのオリジナルを聴くま
えにザ・フーによる『ライヴ・アット・リーズ』の重厚なヴァージョン(この曲の決定版
ヴァージョンだと思います)を聴いていたため、アコースティック・ギターを中心とした
コクランのオリジナル・ヴァージョンとのサウンドのあまりの違いに肩透かしをくらった
のです。ザ・フーのヴァージョンを先に聴いた人であれば、コクランのオリジナルを聴い
たときに同じような印象をもたれた人も多いのではないでしょうか。ザ・フーの前に聴い
ていたオリヴィア・ニュートン・ジョンの『クリアリー・ラヴ』のヴァージョンのほうが
、意外なことにコクランのオリジナルに忠実だったのに驚いたくらいです。

実際、アコースティック・ギターを中心とした《サマータイム・ブルース》は、なんとも
不思議なサウンドです。目立つのは、ギターと手拍子のみ。コクラン得意のリード・ギタ
ーも入っていません(コクランは、セッション・ミュージシャンとして活動できるほどの
ギター奏者であり、実際にセッション活動もしていた)。ニュー・オリンズおよびウェス
ト・コーストの名セッション・ドラマーのアール・パルマーの名前が、《サマータイム・
ブルース》への参加ミュージシャンとしてコクランのインフォメーション・サイトのセッ
ション情報にクレジットされていますが、いるのかいないのかわかりません。なぜ、それ
以前のシングルの《トゥウェンティ・フライト・ロック》や《プリティ・ガール》のよう
に、ドラムのビートが明確にわかるロックンロール・バンドのサウンドにしなかったので
しょう。《サマータイム・ブルース》には、そのような不思議な点があります

なぜそのようなサウンドになったのか。ぼくは、こう思います。《サマータイム・ブルー
ス》は、スタジオでお遊びでレコーディングしたのではないか。コクランがロックンロー
ル調の曲を創ることに対して、当時所属していたレコード会社の社長は慎重だったと言わ
れています。コクランを自社のエルヴィスにしたかったレコード会社の社長は、コクラン
にロックンロールではなくバラード調の作品を多く歌わせたかったそうです。実際《サマ
ータイム・ブルース》は、コクランのガール・フレンドのソングライターのシャロン・シ
ーリーの創ったロッカ・バラード《ラヴ・アゲイン》のB面としてリリースされました。
コクランのやりたいものに対してレコード会社の社長は、《サマータイム・ブルース》の
一番の歌詞のように「ノー・ダイス(だーめだ!)」といつも言っていたのではないか。
それをネタに、遊びでこの曲をギターだけでレコーディングしたように思えるのです。

お遊びだと感じる要素は、まだあります。それはこの曲の題名です。コクランが《サマー
タイム・ブルース》を録音した1958年当時、ガーシュインの作ったフォーク・オペラ「ポ
ーギーとベス」が人気を博していました。1957年にはルイ・アームストロングとエラ・フ
ィッツジェラルドが、1958年にはマイルス・ディヴィスとギル・エヴァンスが「ポーギー
とベス」を題材にアルバムを創っています。1959年には映画化もされています。つまり当
時は、「ポーギーとベス」は業界的に大流行していたと思われます。このフォーク・オペ
ラの中で、ロックではジャニス・ジョプリンも歌った有名な《サマータイム》という曲が
歌われます。なかなかやりたいことをレコード会社に認めてもらえなかったコクランは、
《サマータイム》のタイトルにインスパイアされて「サマータイム?、こっちはサマータ
イム・ブルーだぜ」と《サマータイム・ブルース》を創ったのではないでしょうか。

まだまだ、お遊びだと感じる要素はあります。それは《サマータイム・ブルース》がノベ
ルティ・ソングっぽい要素(コミック・ソングのような面白さ)を持っていることです。
1958年は、どーいうわけかノベルティ・ソングが数多く作られています。なかでも5月に
リリースされ6月に全米No.1になった俳優シェブ・ウーリーの歌う《ザ・パープル・ピー
プル・イーター(邦題:ロックを踊る宇宙人)》(日本では大瀧詠一のプロデュースで植
木等が歌った「ちびまる子ちゃん」のエンディング曲《針切じいさんのロケン・ロール》
として有名)は、宇宙人が早口の高音でしゃべるブレイクの部分があります。時期的に微
妙ですが、コクランは《ロックを踊る宇宙人》を聞いて《サマータイム・ブルース》のブ
レイク(社長が低音でしゃべる)を考えついたのではないでしょうか。《サマータイム・
ブルース》は、そんないろいろな想像をしてしまう不思議なサウンドの曲なのです。

《 Summertime Blues 》( Eddie Cochran )
cover
Eddie Cochran(vo,g)
Connie 'Guybo' Smith(elb), Earl Palmer(ds), probably Sharon Sheeley and Jerry Capehart(handclapping)
Produced by : 
Written  by : Eddie Cochran & Jerry Capehart
Recorded    : May, 1958
Released    : June 11, 1958
Charts      : POP#8
Label       : Liberty

Appears on :The Best Of Ediie Cochran
Disk1:
1.Summertime Blues, 2.Three Steps To Heaven, 3.Somethin' Else, 
4.Cut Across Shorty, 5.Twenty Flight Rock, 6.Sittin' In The Balcony,  
7.Drive In Show, 8.Three Stars, 9.Skinny Jim, 10.Sweetie Pie,
11.Completely Sweet, 12.Pretty Girl, 13.Tell Me Why, 14.Undying Love,
15.Blue Suede Shoes, 16.Little Lou, 17.Teresa, 18.I Remember, 19.Weekend,
20.That's My Desire
Disk2:
1.C'mon Everybody, 2.Teenage Heaven, 3.Hallelujah, I Love Her So,
4.Long Tall Sally, 5.Nervous Breakdown, 6.Jeanie, Jeanie, Jeanie, 
7.Lonely, 8.Am I Blue, 9.Heart Breakin' Mama, 10.Rock And Roll Blues,  
11.Cherished Memories, 12.Eddie's Blues, 13.My Way, 14.Pink Peg Slacks,
15.Milk Cow Blues, 16.Boll Weevil Song, 17.Little Angel,  
18.Mean When I'm Mad, 19.Dark Lonely Street, 20.Think Of Me  


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