ビートルズ旋風が全米チャートを席巻していた1964年4月、後にスプリームズと共にデト ロイトのモータウン・レコードを代表することになるグループが、ようやくポップ・チャ ートで初の成功を収めることになります。”チャッチャ、チャッチャ”という軽快なギタ ー(モータウンを影で支えたミュージシャンのひとり、エディ・ウィリスのプレイと言わ れています)のイントロがとても印象的な、テンプテーションズの《ザ・ウェイ・ユー・ ドゥ・ザ・シングス・ユー・ドゥ》です。プロデュースを担当し、また楽曲も提供したの は、同じモータウンに所属するミラクルズのスモーキー・ロビンソンです。《ザ・ウェイ ・ユー・ドゥ・ザ・シングス・ユー・ドゥ》は作者のスモーキーらしさがいっぱいの軽や かな曲ですが、この曲によるスモーキーとの出会いが、60年代を代表するヴォーカル・グ ループとしてのテンプテーションズの魅力を開花させることになるのです。 《マイ・ガール》をはじめ60年代に数々のヒットを飛ばすことになるテンプテーションズ ですが、この時点ではまだヒットはありませんでした。彼らとモータウンとの付き合いは 意外と古いのですが、なかなかヒットが出ないことから”ヒットレス・テンプテーション ズ”などと言われていたそうです。《ザ・ウェイ・ユー・ドゥ・ザ・シングス・ユー・ド ゥ》によるヒットが出るまでに、メインのリード・ヴォーカルを変更してみたり、作家や プロデュース担当を替えてみたりと、モータウンとしてもいろいろな試行錯誤を行ったこ とが伺えます。《ザ・ウェイ・ユー・ドゥ・ザ・シングス・ユー・ドゥ》は社長のベリー ・ゴーディのプロデュースしたヴァージョンとスモーキーのヴァージョンを試聴会議で聴 き比べて最終的にスモーキー・ヴァージョンをリリースした逸話が残されていますが、「 今度こそは」というヒットへの意気込みが複数のヴァージョンを制作させたのでしょう。 そんな裏話のある《ザ・ウェイ・ユー・ドゥ・ザ・シングス・ユー・ドゥ》ですが、エデ ィ・ケンドリックスのヴォーカルを軸にしたテンプテーションズのヴォーカル・パフォー マンス(その後のモータウンのヴォーカル・グループの雛型のような彼らのコーラス・ワ ークには特に注目)は、モータウンの大きなパブリック・イメージである洗練そのもので す。曲を聴いていると、歌い踊るテンプテーションズの5人の姿が目に浮かんでくるよう な気がします。プロデューサーのスモーキーは、スリー・コードをベースにしたシンプル な楽曲と、ギター、ピアノ、ベース、ドラムスにホーン・セクションを少し加えただけの モータウンとしてはシンプルなバックのインストゥルメンタル演奏を用意することで、テ ンプテーションズの持つ洗練された魅力を引き出すことに成功しています。転調を上手く 使い、コーラス・ワークとテンポ・アップで盛り上がる後半が特に見事な作品です。