●ロックへの旅(第三章):アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド
    (ザ・ビートルズ:1963)

いよいよビートルズの《アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド(邦題:抱きし
めたい)》の登場です。この曲以前のアメリカのチャートは、アル・ドン・ミュージック
系の作品を歌うガール・グループ、ニール・セダカなど自作自演型歌手、チャビー・チェ
ッカーなどのツィスト・ソング、台頭してきたモータウン所属およびフィル・スペクター
がプロデュースする歌手やグループ、フォー・シーズンズやビーチ・ボーイズなどの新し
い才能がチャートを賑わせていました。しかし、この曲以降アメリカのポピュラー・チャ
ートは、まるでイギリス本国にいるかのごとくデイヴ・クラーク・ファイヴ、アニマルズ
、ピーター&ゴードンといったイギリスのグループに席巻されてしまうようになります。
その意味では、《アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド》は、アメリカのチャ
ートの色を変えてしまった1曲といっても過言ではないでしょう。

その《アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド》の魅力は、なんといっても新し
くて重量感のあるバンド・サウンドにつきるのではないかと思います。まず重量感ですが
、例えば同時期のビーチ・ボーイズのサウンドと比較してもらえると、ビートルズのもつ
サウンドの重量感を感じてもらえるのではないかと思います。イントロやテーマのメイン
・メロディのバック演奏などにおけるこの重量感は、この時期までの他の歌手やグループ
の作品には見出すことのできないものです。同時期でビートルズの重量感あふれるサウン
ドに近い作品を思い浮かべてみると、スモーキー・ロビンソン&ミラクルズの《ユーヴ・
リアリー・ゴット・ア・ホールド・オン・ミー》やバレット・ストロングの《マネー》な
ど、ビートルズ自身ももカヴァーしていたモータウンしか思いうかびません。したがって
この重量感は”黒さ”と言ってよいのかというと、そうではないのです。

確かに”黒さ”もあるのですが、それだけではないのがビートルズの凄いところです。そ
れが《アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド》の新しさの秘密でもあるのです
が、この時期のレノン&マッカートニーの曲に顕著な「アメリカのポップス研究」の成果
です。この研究成果をまぶすことによって、《アイ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・
ハンド》はいままでのアメリカのヒット曲にはない魅力をもつに至ったのだと思います。
具体的に言うと、サビの転調部分です。重量感たっぷりのそれまでの展開から一転して、
メロディアスなコード進行に転調しています。《フロム・ミー・トゥ・ユー》あたりから
顕著になってくるこのような「アメリカのポップスを研究しつくした感」によって、《ア
イ・ウォント・トゥ・ホールド・ユア・ハンド》は単なるR&Bのパクリから、まったく
新しいサウンドを持つ魅力的な曲へと大きく跳躍したのではないかと思います。
《 I Want To Hold Your Hand 》( The Beatles )
cover

The Beatles are
John Lennon(vo,g), Paul McCartney(vo, elb), George Harrison(elg), Ringo Starr(ds)

Written  by: John Lennon & Paul McCartney
Produced by: George Martin
Recorded   : October 17, 1963
Released   : November 29, 1963(UK)
             January  13, 1964(US)
Charts     : POP#1
Label      : Capitol

Appears on :Past Masters, Vol. 1 
1.Love Me Do, 2.From Me To You, 3.Thank You Girl, 4.She Loves You, 5.I'll Get You
6.I Want To Hold Your Hand, 7.This Boy, 8.Komm, Gib Mir Deine Hand,
9.Sie Liebt Dich, 10.Long Tall Sally, 11.I Call Your Name, 12.Slow Down,
13.Matchbox, 14.I Feel Fine, 15.She's A Woman, 16.Bad Boy, 17.Yes It Is, 
18.I'm Down  

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