●ロックへの旅(第二章):ドラッグ・シティ
    (ジャン&ディーン:1963)

1980年代末の『ペット・サウンズ』再発見以来、ビーチ・ボーイズのリーダーのブライア
ン・ウィルソンの才能は広く知られるところとなりました。その才能とは、ビーチ・ボー
イズとして歌って演奏するだけではなく、作曲から編曲そしてプロデュースまでひとりで
こなしてしまうということです。ロサンゼルスの有名スタジオ・ミュージシャンを数十人
集めてブライアンが創り上げたビーチ・ボーイズのアルバム『ペット・サウンズ』のサウ
ンドは、確かに他の誰にも真似の出来ないオリジナルな美しさをもっています。ポール・
マッカートニーのような同業者(当時はライバル)でさえ称賛を惜しまない素場らしいサ
ウンドを創り上げたブライアンですが、最初から『ペット・サウンズ』のようなサウンド
構築を行っていたわけではあありません。それではなにをもって、ブライアンは優れたサ
ウンド構築能力を身につけたのでしょうか。

そこで浮上するのが、ジャン&ディーンのジャン・ベリーです。1963年以来、ビーチ・ボ
ーイズとジャン&ディーンはコンサートでたびたび顔をあわせていました。その関係で、
ジャン&ディーンのレコーディング現場に、ブライアンはよく顔を出していたようです。
自分の音楽を完璧に仕上げたい願望をもっていた若きブライアンは、スタジオ・ミュージ
シャンを指揮して作品をつくりあげるジャン・ベリーの姿を目の当たりにして、大きな影
響を受けたことでしょう。ブライアンへの影響云々でよく引き合いに出されるフィル・ス
ペクターよりも、いつも顔をあわせていたジャン・ベリーのほうに、よりダイレクトに音
楽的な影響を受けたことでしょう。その証拠が、ブライアンとベリーが共作した数々のジ
ャン&ディーンのヒット曲だと思うのです。ジャンからダイレクトに学んだ手法を活かし
、ブライアンは自らのプロデュースとサウンド構築力を磨いていったと思われます。

《サーフ・シティ》で全米No.1をものにしたジャン&”ブライアン”は、ビーチ・ボーイ
ズと同じくクルマをテーマにした曲を書き下ろします。曲名は《ドラッグ・シティ》。作
者には、《シャット・ダウン》などのクルマをテーマにしたビーチ・ボーイズ作品の作詞
のロジャー・クリスチャンが名を連ねています。曲は、ビーチ・ボーイズの《409》と
同様にクルマが発車するSEから始ります。そして、これまたビーチ・ボーイズの《シャ
ット・ダウン》と同様にいきなりコーラスの最後の部分から歌が始るのです。そのまま最
後まで疾走感をもって曲は進行していきますが、その疾走感を醸し出している要因が、ブ
ライアン入りのコーラスと、ハル・ブレインによるもの凄いドラムスです。《ドラッグ・
シティ》のような曲を目の前で創るジャンのサウンド構築能力がその後のブライアンに与
えた影響は、世間で考えられているよりもずっと大きいのではないかと僕は思うのです。
《 Drag City 》( Jan & Dean )
cover

Jan & Dean : 
Jan Berry and Dean Torrence

Written  by: Jan Berry Roger Christian and Brian Wilson
Produced by: Jan Berry
Recorded   : October, 1963
Released   : November 8, 1963
Charts     : POP#10(US)
Label      : Liberty

Appears on :The Complete Liberty Singles 
Disk1:
1.Sunday Kind of Love, 2.Poor Little Puppet, 3.Tennessee,  
4.Your Heart Has Changed Its Mind, 5.My Favorite Dream, 6.Who Put the Bomp,  
7.Frosty (The Snow Man), 8.She's Still Talking Baby Talk, 9.Linda,
10.When I Learn How to Cry, 11.Surf City, 12.She's My Summer Girl,  
13.Honolulu Lulu, 14.Someday (You'll Go Walking By), 15.Drag City,
16.Schlock Rod, Pt.1, 17.Dead Man's Curve, 18.New Girl in School,  
19.Little Old Lady (From Pasadena), 20.My Mighty G.T.O. 
Disk2:
1.Ride the Wild Surf, 
2.Anaheim, Azuza & Cucamonga Sewing Circle, Book Review and Timing Associ,
3.Sidewalk Surfin', 4.When It's Over, 
5.(Here They Come) From All Over the World, 6.Freeway Flyer,  
7.You Really Know How to Hurt a Guy, 8.It's as Easy as 1, 2, 3, 9.I Found a Girl,
10.It's a Shame to Say Goodbye, 11.Beginning from an End, 12.Folk City, 
13.Batman, 14.Bucket 'T', 15.Norwegian Wood (This Bird Has Flown),
16.Popsicle, 17.Fiddle Around, 18.Surfer's Dream,  
19.School Day (Ring! Ring! Goes the Bell), 20.Submarine Races,  
21.Universal Coward, 22.I Can't Wait to Love You

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