●ロックへの旅:スイート・リトル・シックスティーン
    (チャック・ベリー:1958)

1955年にカントリーをもとにした《メイベリーン》をクロスオーヴァー・ヒット(白人用
チャートと黒人用チャートの両方のチャートでヒット)させたロックンロールのオリジネ
ーターのひとりであるチャック・ベリーの人気は、TVや映画などによるロックンロール
の全米的な人気と相まって、1957年の《スクール・デイ》のヒットあたりからピークを迎
えたようです。この間にリリースしたベリーのヒット曲は、ビートルズのカヴァーで有名
な《ロックンロール・ミュージック》や《ロール・オーヴァー・ベートーベン》、そして
ロックンロールそのものを代表する1曲といっても過言ではない《ジョニー・B・グッド
》まで、数々のグループやシンガーによってカヴァーされています。そのことからも、ベ
リーのピークが1957年から1958年にかけてだったことが証明されているのではないかと思
います。

今回はそのベリーのピーク時期のまっただなかで全米2位までのぼったベリー最大のヒッ
ト曲、《スイート・リトル・シックスティーン》という曲です。さすがに最大のヒット曲
というだけあって、アニマルズ、ホリーズ、テン・イヤーズ・アフターなど、60年代の人
気グループによるカヴァーも多いです。ビートルズも、もちろんカヴァーしています。公
式レコードではカヴァーしていませんが、後年になって発売されたイギリスのBBCラジ
オ出演時の録音を集めたスタジオ・ライヴ盤『ライヴ・アット・ザ・BBC』において、
ジョン・レノンのヴォーカルでカヴァーしています。ジョンは、ソロになってからも『ロ
ックン・ロール』でカヴァーしています。そして《スイート・リトル・シックスティーン
》にまつわる話の中でもっとも有名なエピソードは、ビーチ・ボーイズの《サーフィン・
USA》に関するものでしょう。

そのエピソードとは、ビーチ・ボーイズの代表曲《サーフィン・USA》が《スイート・
リトル・シックスティーン》の盗作ではないかというものです。確かに、メロディはその
ものずばりの部分もあります。しかし、細かい部分ではメロディは異なっているともいえ
、かつブライアン・ウィルソンはそこにファルセットを活用した独自なメロディ・ライン
を付け加えており、盗作かどうかに関してはいろいろと見解が分かれるところだと思いま
す。この件に関してベリーは訴えを起こしましたが、ビーチ・ボーイズ側は《サーフィン
・USA》のクレジットを”チャック・ベリー&ブライアン・ウィルソン”とすることで
解決したようです。聴いた感じでは、どのような見解があろうと《サーフィン・USA》
のベースに《スイート・リトル・シックスティーン》があることは間違いはないと思われ
ます。

そんなベリーの傑作《スイート・リトル・シックスティーン》はチャートでこそ最高位の
2位を記録していますが、知名度からいうと《ロックンロール・ミュージック》や《ジョ
ニー・B・グッド》ほどではないように思われます。《ロックンロール・ミュージック》
や《ジョニー・B・グッド》にあるような、ストレートな魅力に欠けるといっても良いか
も知れません。商売人としても長けているベリーらしく、白人チャートでの成功を意識し
た歌詞と曲調(例えばイントロのギターなどでもカントリー・タッチを感じさせる)のせ
いかもしれません。ただベリーのギターは、その後のロックンロールの決定的なリズムと
なる完全な8ビートを刻んでいます。しかし名手ウィリー・ディクソンのベースをはじめ
、リズム・セクションはまだ8ビートにふさわしい演奏法をみつけることができていない
ようで、まだまだジャズっぽさの残る演奏となっています。

この曲がチャートで最高位を獲得した1958年は、ロックンロールに対する締め付けも次第
に大きくなってきた年でした。同年の3月には、エルヴィス・プレスリーが”徴兵制度”
によってアメリカ陸軍に入隊しています。そんな社会的な風潮にも負けずに《スイート・
リトル・シックスティーン》が全米2位を記録しているのは、軽快なロックンロール・ギ
ターにのせたベリーの歌う歌詞が、「タイト・ドレスに真っ赤な口紅とハイヒール」とい
うようにお洒落をしてロックンロールのダンス・パーティーにいく女子高校生のことを歌
っているとおり、当時の若者達のある種の気分を代弁していたからでしょう。前年のヒッ
ト曲《スクール・デイ》より進んだ高校生の生活描写は、スクエァな大人達が眉をひそめ
たであろうことは想像に難くありません。だからこそ、白人の大人社会にとって黒人文化
とほぼ同義だったロックンロールは脅威となっていったのかもしれません。
《 Sweet Little Sixteen 》( Chuck Berry )
cover

Chuck Berry(vo,elg)

Lafayette Leake(p), Willie Dixon(b), Fred Below(ds)

Produced by : Leonard and Phil Chess
Written  by : Chuck Berry
Released    : January, 1958
Charts      : POP#2, R&B#1
Label       : Chess

Appears on :The Ultimate Collection Chuck Berry
Disk1
1.Maybellene, 2.Wee Wee Hours, 3.Thirty Days, 4.No Money Down,
5.Down Bound Train, 6.Roll Over Beethoven, 7.Too Much Monkey Business,
8.Brown Eyed Handsome Man, 9.You Can't Catch Me, 10.Havana Moon,
11.School Day(Ring Ring Goes the Bell), 12.Oh Baby Doll,
13.Rock and Roll Music, 14.Sweet Little Sixteen, 15.Reelin' and Rockin',
16.House of Blue Lights, 17.Johnny B.Goode, 18.Around and Around,
19.Beautiful Delilah, 20.Carol  
Disk2
1.Sweet Little Rock and Roller, 2.Joe Joe Gunn, 3.Merry Christmas Baby,
4.Run Rudolph Run, 5.Anthony Boy, 6.Little Queenie, 7.Almost Grown,
8.Memphis Tennessee, 9.Back in the U.S.A., 10.Childhood Sweetheart,
11.Too Pooped to Pop, 12.Let It Rock, 13.Bye Bye Johnny, 14.Mad Lad,
15.Betty Jean, 16.Down the Road Apiece, 17.Jaguar and Thunderbird,
18.I'm Talking About You, 19.Route 66  
Disk3
1.Go Go Go, 2.Come On, 3.Nadine, 4.No Particular Place to Go,
5.You Never Can Tell, 6.Go Bobby Soxer, 7.Little Marie,
8.Promised Land, 9.Thing's I Used to Do, 10.Dear Dad,
11.Lonely School Days, 12.It Wasn't Me, 13.Tulane, 
14.Club Nitty Gritty, 15.It Hurts Me Too, 16.My Ding-A-Ling,
17.Reeling and Rocking [1972 Re-Recording]  


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