ビートルズ、ビーチ・ボーイズ、ローリング・ストーンズ、ボブ・ディラン、フィル・ス ペクターなど、ロックな時代を代表するようなビッグ・ネームが次々と登場してくる1962 年以後ですが、その中においてビートルズのデビュー以前のような”オールディーズ”な 雰囲気を残しつつもひとり頑張っていたのがボビー・ヴィントンという人です。個人的に はボビー・ヴィントンというと、「グローイング・アップ」という高校生3人組が主人公 のちょっとHな青春映画のラストで使用された《ミスター・ロンリー》の印象が強いので すが、《ミスター・ロンリー》以前にも数曲の全米No.1ヒットを放っています。今回は、 フィル・スペクターがプロデュースしたクリスタルズの《ゼン・ヒー・キッスド・ミー》 やビーチ・ボーイズの《サーファー・ガール》がヒットしていた45年前の1963年9月の全 米No.1の《ブルー・ヴェルベット》です。 《ブルー・ヴェルベット》は、”チャチャチャ、チャチャチャ”という3連バラードのイ メージがあったのですが、ヴィントンの歌うオリジナル・ヴァージョンは”ズンチャ、ズ ンチャ”という、いくぶんのん気なリズムです。コニー・フランシスの《ボーイ・ハント 》という曲と出だしのメロディが似ているので、3連バラードのイメージがあったのかも しれません。当時のヴィントンは18歳ですが、「ブルー、ベェルベェ(ット)」というネ ットリとしたそのヴォーカルの表現力は10代のものとは思えないほどのものがあります。 後にこの曲を題材にした映画も作られたそうですが、確かに映像を喚起するような表現力 があります。率直に言って、あまりルックス的にも見栄えのしないと思われるヴィントン が、ロックの時代になっても全米No.1ヒットを飛ばせたのは、一度聴いたら頭の中に曲の 情景が浮かんで離れないようなヴォーカルの表現力があったからだと思います。 またロック的に注目したいのは、バックの演奏です。50年代ならば間違いなくオーケスト ラをバックにレコーディングされていたタイプの曲ですが、ロックンロール時代を意識し てか、はたまた予算がなかったのか、バックの演奏はギター2台にピアノ、ベース、ドラ ムス、それにグロッケンです。ちょうど翌年の1964年頃からカーティス・メイフィールド がいた黒人3人組のインプレッションズがヒット・チャートに登場してきますが、彼らの 代表曲のひとつの《ピープル・ゲット・レディ》におけるグロッケンの使用にこの曲が関 係しているのではないでしょうか。もしこの推測があたっていたならば、《ピープル・ゲ ット・レディ》に影響を受けたと思えるジミ・ヘンドリックスの《リトル・ウィング》の グロッケンの使用にいきつくわけです。「そんなわきゃぁない」というツッコミも入りそ うですが、意外とこの推測は間違っていないのではないかと思っています。