クリスタルズの《ゼン・ヒー・キッスド・ミー》が、最高位の6位につけていた1963年9 月の全米チャートで、そのひとつ下の7位につけていたのがビーチ・ボーイズの《サーフ ァー・ガール》です。この《サーファー・ガール》という曲はチャートでは7位と奮いま せんでしたが、間違いなく初期のビーチ・ボーイズの最高傑作だと思います。《サーファ ー・ガール》は、”ダダダ、ダダダ”というリズムが特徴的な、俗に言うところの3連バ ラードという分野の曲です。しかし、これ以上足してもいけないし、引いてもいけないく らい洗練されている曲だと思います。ビーチ・ボーイズはこの曲のあとも《スピリット・ オブ・アメリカ》、《ガールズ・オン・ザ・ビーチ》、《グッド・タイミン》などの傑作 を残していますが、彼ら自身でさえも結局《サーファー・ガール》を超える曲は作れてい ません。そのくらい強力かつ完璧な楽曲が、《サーファー・ガール》という曲です。 この曲については、「ドライヴをしている最中に自然とメロディがわいてきて、家に戻っ てピアノで仕上げた」という意味の話を、作者でありビーチ・ボーイズのリーダでもある ブライアン・ウィルソンは語っています。この話は、きっと真実だろうと思います。なぜ なら、少なくともサビを除くメインのメロディに関しては創った感が皆無。実に音楽的( 別の意味でいうと幾何学的)な、シンプルな美しさと強さを兼ね備えたメロディです。少 しでも音符をいじくりまわすと、創った感が出てきてしまうようなメロディです。この段 階では、美しいメロディの作品ではあっても、傑作たりうる要素は加わっていません。ブ ライアンは、この自分の中から自然とわいて出てきたシンプルなメロディに対して、自ら ”プロデュース”を行うことで最高傑作といえるような作品に創り上げたのではないかと 思います。それでは、ブライアンはなにをやったのでしょうか。 ブライアンが《サーファー・ガール》でやったことは、誰もがウットリとしてしまうよう な普遍的な”甘さ”をうまく加えたことだと思います。一説によると、《サーファー・ガ ール》を作るときにパリス・シスターズの《アイ・ラヴ・ハウ・ユー・ラヴ・ミー》(フ ィル・スペクターのプロデュース作品)が意識下にあったと言われていますが、仮にあっ たとすれば、メロディとかコード進行ではなく《アイ・ラヴ・ハウ・ユー・ラヴ・ミー》 の持つ”甘さ”なのではないかと思います。もしかすると、プリシラ・パリスの人形のよ うな可愛らしい顔も、”甘さ”のイメージとしてあったかもしれません。ブライアンは、 自然とわいてきたメロディに、未だ出会ったことのない恋人を思うような”空想の中の甘 さ”とでも言うべきものを歌詞とコーラスとコード進行の変更いう形で加えました。その 追加・変更が、最終的に《サーファー・ガール》を最高傑作へ導いたのだと思います。