●ロックへの旅(第二章):ゼン・ヒー・キッスド・ミー
    (ザ・クリスタルズ:1963)

ビートルズが全米チャートを席巻する前にあたる1963年の春から夏の全米チャートをみ
ると、新しい曲を出せばヒットというような状況にあったのは、ボブ・クルーとボブ・
ゴーディオという侮れないヒット・メーカー・チームを抱えていたフォー・シーズンズ
、天才ブライアン・ウィルソンが作品を提供していたビーチ・ボーイズおよびジャン&
ディーン、マーヴィン・ゲイやリトル・スティーヴィー・ワンダーがいたモータウン、
ボブ・ディランという強力な後方支援に支えられたピーター、ポール&マリーといった
人たちに絞られます。それ以外にもうひとつ、《ヒーズ・ソー・ファイン》のシフォン
ズや、《フーリッシュ・リトル・ガール》のシレルズといったガール・グループの存在
も忘れられません。そのなかでも当時最も勢いづいていたのは、プロデューサーのフィ
ル・スペクターが擁するガール・グループのクリスタルズではないかと思います。

6月の大ヒットの《ダ・ドゥ・ロン・ロン》に続く、スペクターのプロデュースによる
クリスタルズのシングル・ヒットが《ゼン・ヒー・キッスド・ミー(邦題:キッスでダ
ウン)》です。これがまた、《ダ・ドゥ・ロン・ロン》に勝るとも劣らないティーン・
エイジャーの女の子の幸せ感を歌った名曲なのです。熱愛カップルの作者、ジェフ・バ
リー&エリー・グリーンウィッチのアツアツ感はここでも健在です。スペクターお馴染
みのサウンド・プロダクションも、「作者のアツアツ感なんかに負けてられるか」とい
う感じで、いつものパーカッションやブラス・セクションに加え、ストリングスも入っ
ています。これぞ、まさに”ウォール・オブ・サウンド”というべき、音の厚みになっ
ています。このストリングスが、《ゼン・ヒー・キッスド・ミー》を忘れることのでき
ない曲にしている大きな要因なのです。

まずは手始めに、1オクターブ違う同じ音を弾くギターのイントロに耳を奪われます。
このイントロは、バーズの《ミスター・タンブリンマン》などの12弦ギターを使ったロ
ックの名曲の雛型のように響きます。そのギターのイントロに、タッタカ、タッタカと
いうカスタネットが被さってきてウキウキ感が倍増していきます。そしてクリスタルズ
の歌に入っていくのです。やがて、この曲の一番の聴きどころがきます。それはサビの
「ヒ・キスドミナウェイ・ザライ・ネヴァ・ビン・キッスド・ビフォー(He kissed me
in a way That I've never been kissed before)」の後のストリングスです。一度、聴
いたら、忘れない類のフレーズです。このフレーズこそが、《ゼン・ヒー・キッスド・
ミー》を忘れられない名曲にしているのだと思います。松田聖子が歌った《一千一秒物
語》(『風立ちぬ』収録)に流用した、大瀧詠一気持ちもよーく理解できるのです。

《 Then He Kissed Me 》( The Crystals )
cover

The Crystals : 
Barbara Alston, Dee Dee Kennibrew, Mary Thomas, Patricia Wright and La La Brooks

Written  by: Jeff Barry, Ellie Greenwich & Phil Spector
Produced by: Phil Spector
Recorded   : March, 1963
Charts     : POP#3(US)
Label      : Philes

Appears on :The Best of the Crystals 
1.There's No Other Like My Baby, 2.Oh, Yeah, Maybe, Baby, 3.Uptown,
4.What a Nice Way to Turn 17, 5.He Hit Me (And It Felt Like a Kiss),
6.No One Ever Tells You, 7.He's a Rebel, 8.I Love You Eddie,
9.Another Country-Another World, 10.Please Hurt Me,
11.He's Sure the Boy I Love, 12.Look in My Eyes,
13.Da Doo Ron Ron, 14.Heartbreaker, 15.Then He Kissed Me, 16.I Wonder,
17.Little Boy, 18.Girls Can Tell, 19.All Grown Up


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