さて、今回は《ブロウィン・イン・ザ・ウィンド(邦題:風に吹かれて)》です。そうで す、ボブ・ディランの作った《ブロウィン・イン・ザ・ウィンド》です。しかし、紹介す るのはボブ・ディランのオリジナル・ヴァージョンではありません。ピーター、ポール& マリーというグループの歌った《ブロウィン・イン・ザ・ウィンド》です。この曲がディ ランによって書かれたのは、おそらく1962年の初頭のこと。ディランのいたニューヨーク のグリニッチ・ヴィレッジ周辺では、「どれだけ**したら、**になるの、その答えは 風に吹かれている」という結論がでない歌詞のせいか、受けはあまりよくなかったと言わ れています。結論がでないせいか皆が様々な替え歌にして歌っていたらしいのですが、デ ィランのマネージャーのアルバート・グロスマンという人は、そこにこの曲の可能性を感 じ取ったようです。 グロスマンは、ディランを音楽出版社と契約させ楽曲を著作登録させて、自らがプロデュ ースしてピーター、ポール&マリーに歌わせました。グロスマンの思惑は見事にあたり、 この曲は世界中に知られることとなります。日本でも”《ブロウィン・イン・ザ・ウィン ド》といえばピーター、ポール&マリーの曲”というように知られていたようです。ある 世代の女性にとっては、大ヒットしたTVドラマ「金妻(金曜日の妻たちへ)」の主題曲 としても有名でしょう。ここで面白いのは、当初グロスマンがディランを作家として捉え ていたふしが見受けられるところです。ディランの曲は、本人では売れないと考えていた のかも知れません。結果として、ピーター、ポール&マリーと共にディランの名は有名に なり、《ブロウィン・イン・ザ・ウィンド》は当時のアメリカで高まっていった公民権運 動の代表曲となっていきます。 それ以降《ブロウィン・イン・ザ・ウィンド》はいろいろな人がカヴァーしましたが、な ぜピーター、ポール&マリーのヴァージョンが最も有名なのでしょうか。それはおそらく 、二番から少し震えるような低い声でソロをとるマリーと、それを支えるピーターとポー ルのコーラスの関係にあると思います。マリーの声が、低くて少し震えぎみのところがイ イのです。これが、ジョーン・バエズのように堂々とした声ではだめなのです。公民権運 動の中心になっていた真面目な若者達の間には、きっとマリーのようなマドンナ的存在の ブロンド女性が何人もいたのではないでしょうか。そんなマドンナが集会でこの曲を口ず さむ。そんなとき、まわりの男性はみなピーターでありポールであったでしょう。そんな 関係のなかで《ブロウィン・イン・ザ・ウィンド》という曲は育っていったような気がし ます。