いきなり「エヴバディ、セイ、イェー(Everybody Say Yeah!)」と呼びかけてくるのが、 スティーヴィー・ワンダー初の全米No.1ヒット《フィンガーティップス》という曲です。 この「セイ、イェー!」というやりとりは、、もともとはゴスペルにルーツを持つコール &レスポンスというものです。この応答形式を大胆にポップスに取り入れたのが、レイ・ チャールズのヒット曲《ホワット・アイ・セイ》でした。《フィンガーティップス》のス ティーヴィーの歌いまわしには、明らかにチャールズの《ホワット・アイ・セイ》影響を 聴き取ることができます。チャールズのレコードで、チャールズのコールにレスポンスを 返しているのはレイレッツというチャールズお抱えのコーラス隊ですが、スティーヴィー のコールに「イェー」とレスポンスを返しているのは、会場を埋め尽くした観客達です。 そうです、《フィンガーティップス》はライヴ演奏を収録したシングル盤なのです。 それにしても、もの凄い歓声です。観客達は完全に熱狂しています。その観客達に対して コール&レスポンスで応えたあと、スティーヴィーは驚異的なハーモニカ演奏でグイグイ と乗せていくのです。ライヴ録音が行われた当時のスティーヴィーは、なんと12歳。12歳 ですよ、12歳。日本でいえば小学六年生ですよ。”ジーニアス”という言葉がジャケット についているのも頷けます。しかし、このスティーヴィー少年が天才的なパフォーマンス を見せるのは、まさにここからなのです。熱狂的な観客達に手拍子を促し、最後にハーモ ニカで「メーリさんのひつじー」というメロディを引用して曲はいったんエンディングを 迎えます。すぐにレビューの幕間のテーマ曲(舞台が切り替わるときに流れる曲)がバン ドによって演奏されますが、それが終わった瞬間にスティーヴィーがまたハーモニカで入 り込んでくるのです。 この展開は予め予定されていたものなのでしょうか。あまりにも、見事なバンドの対応力 に、そう勘ぐりたくもなってしまいます。しかし、ここはやはり、バンド・メンバーにと っては予期せぬ展開だったと素直に考えるべきでしょう。バンドの誰かが「キーは何?」 と叫んでいるのがそのまま収録されいます。余談になりますが、このときの演奏で爆発的 なドラムを演奏しているのは、後にスティーヴィーと共に70年代のソウルをリードするこ とになるマーヴィン・ゲイだそうです。マーヴィンを含んだバンドがあたふたしているの も束の間、演奏は再び怒涛の《フィンガーティップス》に入っていくのです。この驚異的 なパフォーマンスは編集され、シングル・レコード盤のA・B面の両方を使ってパート1 、パート2として発表されました。どちらがヒットしたのか。答えはもちろん、スティー ヴィー少年の天才的なパフォーマンスが聴ける後半のパート2のほうでした。