●ロックへの旅(第二章):フィンガーティップス
    (スティーヴィー・ワンダー:1963)

いきなり「エヴバディ、セイ、イェー(Everybody Say Yeah!)」と呼びかけてくるのが、
スティーヴィー・ワンダー初の全米No.1ヒット《フィンガーティップス》という曲です。
この「セイ、イェー!」というやりとりは、、もともとはゴスペルにルーツを持つコール
&レスポンスというものです。この応答形式を大胆にポップスに取り入れたのが、レイ・
チャールズのヒット曲《ホワット・アイ・セイ》でした。《フィンガーティップス》のス
ティーヴィーの歌いまわしには、明らかにチャールズの《ホワット・アイ・セイ》影響を
聴き取ることができます。チャールズのレコードで、チャールズのコールにレスポンスを
返しているのはレイレッツというチャールズお抱えのコーラス隊ですが、スティーヴィー
のコールに「イェー」とレスポンスを返しているのは、会場を埋め尽くした観客達です。
そうです、《フィンガーティップス》はライヴ演奏を収録したシングル盤なのです。

それにしても、もの凄い歓声です。観客達は完全に熱狂しています。その観客達に対して
コール&レスポンスで応えたあと、スティーヴィーは驚異的なハーモニカ演奏でグイグイ
と乗せていくのです。ライヴ録音が行われた当時のスティーヴィーは、なんと12歳。12歳
ですよ、12歳。日本でいえば小学六年生ですよ。”ジーニアス”という言葉がジャケット
についているのも頷けます。しかし、このスティーヴィー少年が天才的なパフォーマンス
を見せるのは、まさにここからなのです。熱狂的な観客達に手拍子を促し、最後にハーモ
ニカで「メーリさんのひつじー」というメロディを引用して曲はいったんエンディングを
迎えます。すぐにレビューの幕間のテーマ曲(舞台が切り替わるときに流れる曲)がバン
ドによって演奏されますが、それが終わった瞬間にスティーヴィーがまたハーモニカで入
り込んでくるのです。

この展開は予め予定されていたものなのでしょうか。あまりにも、見事なバンドの対応力
に、そう勘ぐりたくもなってしまいます。しかし、ここはやはり、バンド・メンバーにと
っては予期せぬ展開だったと素直に考えるべきでしょう。バンドの誰かが「キーは何?」
と叫んでいるのがそのまま収録されいます。余談になりますが、このときの演奏で爆発的
なドラムを演奏しているのは、後にスティーヴィーと共に70年代のソウルをリードするこ
とになるマーヴィン・ゲイだそうです。マーヴィンを含んだバンドがあたふたしているの
も束の間、演奏は再び怒涛の《フィンガーティップス》に入っていくのです。この驚異的
なパフォーマンスは編集され、シングル・レコード盤のA・B面の両方を使ってパート1
、パート2として発表されました。どちらがヒットしたのか。答えはもちろん、スティー
ヴィー少年の天才的なパフォーマンスが聴ける後半のパート2のほうでした。

《 Fingertips Pt.2 》( Little Stevie Wonder )
cover

Little Stevie Wonder(vo,harmonica,bongo)


James Jamerson(b), Larry Moses(b), Marvin Gaye(ds)

Written  by: Clarence Paul and Henry Cosby
Produced by: Berry Gordy Jr.
Recorded   : June, 1962 Regal Theater, Chicago
Released   : May 21, 1963
Charts     : POP#1,R&B#1(US)
Label      : Motown

Appears on :Recorded Live: The 12 Year Old Genius
1.Fingertips [On Bongos and Harmonica], 2.Soul Bongo [On Bongos],
3.La La La La [On Drums], 4.(I'm Afraid) The Masquerade Is Over,  
5.Hallelujah I Love Her So [Piano and Vocals] , 6.Drown in My Own Tears, 
7. Don't You Know  

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