●ロックへの旅:アット・ザ・ホップ
    (ダニー&ザ・ジュニアーズ:1958)

1969年の8月、ニューヨーク州ベセルという街の酪農場で、芸術と音楽のフェスティヴァ
ルが3日間にわたって行われました。”ウッドストック”の名で知られるそのフェスティ
ヴァルは、ロック・ファンならば誰でもその名前を聞いたことがあるでしょう。フェステ
ィヴァルを記録した映画も公開されました。”愛と平和と音楽の3日間”というキャッチ
・コピーのとおり、映画に映し出されたアメリカの若者達の姿は印象的でした。音楽を楽
しむのみならず、雨が降った後は泥だらけで遊び、会場近くの池で全裸で水浴びをし、そ
の辺の草むらで愛を交し合う。ウッドストックに集まった自由を満喫するアメリカの若者
の姿に、当時中学生だったぼくは、日本のテレビでやっていた青春ドラマ以上の青春さ・
自由さを感じたものです。しかしそのラヴ&ピースの時代を象徴するようなウッドストッ
クの記録映画には、一つだけ奇妙なシーンがあったのです。

それはシャ・ナ・ナというグループの登場シーンでした。映画のラストに登場して、ナパ
ーム弾投下のような爆音を交えて《アメリカ国家》を演奏したジミ・ヘンドリックスをは
じめ、強烈なリズムが交錯するサンタナ、激唱するジョー・コッカー、強烈なまでにファ
ンキーだったスライ&ザ・ファミリー・ストーン、相変わらずのギター壊しのザ・フーな
どの熱演が続く中で、見事なまでに場違いなグループがシャ・ナ・ナだったのです。その
姿は、コーニーというよりもファニーでした。シャ・ナ・ナは、”50年代の”ニューヨー
クのストリート・カルチャーを嗜好するダンサーとバンドが合体したユニットだったので
すが、ヒッピー・カウンター・カルチャーの象徴のようなウッドストックの会場では見事
に不釣合いでした。しかし、彼らがウッドストックでぶっ放した曲は、ぼくの頭に強く残
ったのです。その曲は、ダニー&ザ・ジュニアーズの《アット・ザ・ホップ》でした。

《アット・ザ・ホップ(邦題:踊りにいこうよ)》は、1958年の全米No.1ヒットです。歌
ったのは、ダニー&ザ・ジュニアーズという白人4人組のヴォーカル・グループ。ウッド
ストックのシャ・ナ・ナがファニーだったように、この曲の魅力もファニーなところにつ
きると思います。ジェリー・リー・ルイスのような強烈なロックンロール・ピアノで始ま
り、「ファー、ファー、ファー、ファー」と上昇していくコーラスは、聴きようによって
はとてもユーモラスです。テレビでツッパリがカッコつけている姿を面白おかしくコント
にしてしまうことがありますが、《アット・ザ・ホップ》にはそれと同じ感覚の面白さが
あると思います。この曲がヒットした当時のダニー&ザ・ジュニアーズは10代の若者達で
したが、その10代の白人の彼らが黒人のドゥ・ワップ・スタイルのコーラスを懸命に真似
ているからどこかしらユーモラスなのかもしれません。

この《アット・ザ・ホップ》には、作者のジョン・メドラに関する面白いエピソードがあ
ります。当時のメドラはレコードを出したばかりの若い歌手で、アマチュア時代のダニー
&ザ・ジュニアーズは彼の住んでいたアパートの近くの路上で練習をしていたそうです。
その歌声を聞いたメドラは彼らを気に入り、やがてメンバーの一人のデヴィッド・ワイト
(彼も作者の一人)と意気投合したと思われます。そしてメドラは、地元のレコード制作
者のアーティ・シンガー(彼も作者として名を連ねている)にジュニアーズの面々を紹介
したようです。メドラとワイトは一緒に曲を作り、シンガーの手によって録音が行われま
した。その曲は《ドゥ・ザ・バップ》という名前でした。リード・ヴォーカルはメドラ。
ダニー&ザ・ジュニアーズはバック・コーラスを担当しました。メドラはレコードを出し
ていた歌手、ジュニアーズの面々は10代のアマチュアですから当然の役割分担です。

この《ドゥ・ザ・バップ》こそ《アット・ザ・ホップ》の初期の姿であり、ヴォーカルと
歌詞以外は殆ど差がないヴァージョンなのです。その頃メドラは、後にビートルズをアメ
リカで配給するキャピトルと契約し、キャピトルに《ドゥ・ザ・バップ》を聞かせますが
、キャピトルはこのロックンロールの傑作を没にします。宙に浮いた《ドゥ・ザ・バップ
》は、シンガーの手により地元のテレビ番組の司会者に渡されます。その司会者の「バッ
プは古い、ポップでいこう」という提案により歌詞は書きなおされ、おそらくメドラには
キャピトルとの契約があったためダニーのヴォーカルで再録音されます。そのヴァージョ
ンこそ、全世界で大ヒットした《アット・ザ・ホップ》なのです。ロックンロール史に名
を残し損ねたメドラは、その後もワイトと共作をつづけていきました。二人の間に生まれ
た友情は、大ヒットの後も変わることがなかったのでしょう。
《 At The Hop 》( Danny & The Juniors )
cover

Danny & The Juniors are
Danny Rapp(Lead), Dave White(tennor), Frank Maffei(2nd tennor) & Joe Terranova(baritone)


Written  by : Arthur Singer, John Medora & David White
Produced by : Arthur Singer
Charts      : R&B#1,POP#1
Label       : ABC

Appears on :A Golden Classics Edition
1.At the Hop, 2.Sometimes (When I'm All Alone), 3.Rock & Roll Is Here to Stay,
4.School Boy Romance, 5.Dottie, 6.In the Meantime, 7.Crazy Cave, 8.Thief,   
9.I Feel So Lonely, 10.Sassy Fran, 11.Do You Love Me, 12.Somehow I Can't Forget,
13.Playing Hard to Get, 14.Of Love, 15.Back to the Hop, 16.Pony Express,   
17.Twistin' U.S.A., 18.Thousand Miles Away, 19.Funny, 20.Twistin' All Night Long  

※上記のイメージをクリックすると、Amazonにて購入できます