●ロックへの旅:ロック・アンド・ロール・ミュージック
    (チャック・ベリー:1957)

今回のロックへの旅は、チャック・ベリーが作り自ら歌った《ロック・アンド・ロール・
ミュージック(邦題:ロックンロール・ミュージック)》という曲です。この連載では、
曲名を原則的に原題のカタカナ表記で記載していますが、この曲に関してはやはり邦題の
《ロックンロール・ミュージック》がピッタリくるので、以降は《ロックンロール・ミュ
ージック》で表記を統一したいと思います。まずなんといってもこの曲は、1966年に初め
て日本の土を踏んだビートルズが、武道館で行ったコンサートの一発目に歌った曲(『ア
ンソロジー2』に収録)として、日本のビートルズ・ファンにとってインパクトの強い曲
ではないでしょうか。ビートルズは4枚目のアルバム『ビートルズ・フォー・セール』の
中で公式カヴァーし、『ライヴ・アット・ザ・BBC』にもBBCラジオ出演時のときの
演奏が収録されています。

ビーチ・ボーイズも、1976年にリリースした結成15年を記念するアルバム『15ビッグ・
ワンズ』の中で、ファッツ・ドミノの《ブルーベリー・ヒル》とか、ファイヴ・サテンズ
の《イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト》といった同時期のヒット曲とともにカヴァ
ーしています。《ロックンロール・ミュージック》という曲はビートルズによる決定的な
カヴァー・ヴァージョンが存在しているのをビーチ・ボーイズが知らないはずはないと思
うのですが、それでもやってしまうのが、さすがに神をも恐れぬビーチ・ボーイズです。
「ロック、ロール、ロック・アンド・ロール」というコーラスとブライアン・ウィルソン
の演奏によるムーグ・ベースが鳴り響く幾分摩訶不思議なビーチ・ボーイズ・ヴァージョ
ンの《ロックンロール・ミュージック》は、意外なことに彼らにとって《グッド・ヴァイ
ブレーションズ》以来の久々の全米トップ10ヒットとなっています。

ビートルズ、ビーチ・ボーイズの双方にカヴァーされた《ロックンロール・ミュージック
》ですが、オリジナルは先述したようにチャック・ベリーです。ベリーのヴァージョンは
、どちらかというとビートルズに近い(というより当然だがビートルズがベリーのヴァー
ジョンの良さを活かしつつも自分達流に料理している)ものですが、ラファイエット・リ
ークの弾くホンキー・トンク調の陽気なピアノが聴く側の心を開放的にさせ、フレッド・
ベロウのバック・ビートが知らぬ間に足でリズムを取り出させる、ロックンロールがダン
ス向けの音楽だったことを思い出させる見事な出来です。また興味深いのは、ベリーの弾
くギターがいつもの”あのガーガーした音”ではないことです。エレクトリック・ギター
のようでもあり、生ギターのようにも聴こえます。いずれにしても演奏面でのこの曲の主
役はギターではなく、リークのピアノと、ベロウのドラムなのです。

ロックンローラーだけではなく優れた詩人でもあるベリーは、「ロックンロール万歳!」
という歌詞を入れた前作の《スクール・デイズ》同様に、この曲のタイトルをそのものズ
バリの《ロックンロール・ミュージック》として、ロックンロールの素晴らしさを高らか
に歌い上げています。「モダン・ジャズは早すぎる(恐らく、同時期のジャズの主要なス
タイルの一つのビ・バップを指しているものとおもわれます。)」など他のジャンルの音
楽と比較してみたり、「あの(サックスの)ブロウを聴いてみなよ」と恋人をクドく際の
誘い文句であったり、「お祭で、多くの人々が踊り出すきっかけとなった音楽としてバン
ドが弾き始めたのは」など、1950年代のアメリカ社会の中におけるロックンロールの立場
が、実に見事に描写されています。《ロックンロール・ミュージック》を聴いていると、
この曲にベリーがこめたロックンロールへの思いが伝わってくるのです。

当時のヒット・チャートは、エルヴィスを筆頭に、白人青年歌手によるロックンロール調
のヒットが数多くありました。これらの白人青年によるロックンロール調のヒット曲を聴
いて、ベリーはどのように思っていたのでしょう。それは、想像に難くありません。ベリ
ーが”そのものズバリの”《ロックンロール・ミュージック》をこの時期に発表したのは
、世間一般が楽しむ音楽にまで成長したロックンロールは、誰が発明したものであり、か
つ誰のものなのかを、世間に高らかに宣言したかったからではないでしょうか。「ホンモ
ノというやつを聴かせてやるぜ」、ベリーが白人によるロックンロールを聴いて思ってい
たことは、そのような思いだったような気がします。《ロックンロール・ミュージック》
から伝わってくるのは、まさしくそのようなベリーの思いであり、思わず自然に身体を揺
らされてしまうホンモノのロックンロールが持つチカラなのです。

《 Rock And Roll Music 》( Chuck Berry )
cover

Chuck Berry(vo,g)

Lafayette Leake(p), Willie Dixon(b), Fred Below(ds)

Written  by : Chuck Berry
Produced by : Leonard Chess ,Phil Chess
Recorded    : May, 1957
Released    : September, 1957
Charts      : R&B#1,POP#8
Label       : Chess

Appears on :Best Of Chuck Berry
1.Maybellene, 2.Thirty Days, 3.You Can't Catch Me,
4.Too Much Monkey Business, 5.Brown Eyed Handsome Man, 
6.Roll over Beethoven, 7.Havana Moon, 8.School Days
9.Rock And Roll Music, 10.Oh Baby Doll, 11.Reelin' and Rockin'
12.Sweet Little Sixteen, 13.Johnny B. Goode, 14.Around and Around
15.Carol, 16.Beautiful Delilah, 17.Memphis
18.Sweet Little Rock & Roller, 19.Little Queenie
20.Almost Grown, 21.Back in the U.S.A., 22.Let It Rock, 
23.Bye Bye Johnny, 24.I'm Talking About You, 25.Come On, 
26.Nadine, 27.No Particular Place to Go, 28.I Want to Be Your Driver


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