●ロックへの旅:ユー・センド・ミー
    (サム・クック:1957)

さて今回のロックへの旅は、サム・クックという人です。調査をしたわけではないのであ
くまでも私見になりますが、ロック好きの人にサム・クックと言っても殆どピンとこない
のではないでしょうか。しかし、これがアメリカだと話しは違うようです。ロックの殿堂
入りもはたしていますし、雑誌「ローリング・ストーン」が行った”グレーテスト・ソン
グス・オブ・オール・タイム”では、12位にクックの《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム
》が入っています。ちなみに11位はザ・フーの《マイ・ゼネレーション》、13位はザ・ビ
ートルズの《イエスタディ》です。別に、クックに権威づけをするのが目的ではありませ
ん。もし日本のロック・ファンに同様の投票をしてもらった場合に、クックがロックの殿
堂に入ったり、ザ・フーとザ・ビートルズの間にランク・インするということはないので
なないかという日本との感覚の差異を感じてもらいたかったのです。

おそらくアメリカでクックが高く評価されているのは、オーティス・レディングやロッド
・スチュワートといった様々な歌手に影響を与えた、クックの歌手としての偉大さが讃え
られてのことと想像します。オーティス・レディングがクックの影響を受けたことは歌を
聴けばわかりますが、だからといって、もし自分が選者だったら果たしてクックのロック
の殿堂入りをさせるだろうかと考えます。そのようなアメリカ人と同じ感覚は正直ありま
せんが、それでもクックの音楽は僕の心をグっと掴みました。高校生の頃に聴いたクック
のヒット曲《ワンダフル・ワールド》です。《シクラメンの香り》の小椋桂がぶつくさと
歌うカヴァーでしたが、「歴史なんてよくわからない、生物もよくわからない、でも君を
愛していることは知っている、君も僕を愛してくれたらどんなに素敵だろう」という意味
の歌詞と軽やかなメロディは、ティーン・エイジャーだった僕の心に響いたのです。

それから間もなく、FMラジオの特集でクック自身の《ワンダフル・ワールド》を聴き、
「なんて伸びやかに歌を歌う人なんだろう」と思いました。そのときのFMラジオのクッ
クの特集をエア・チェックした録音テープは、すぐに僕の愛聴テープとなったものです。
その特集の1曲目であり、必然的に僕のテープの1曲目を飾る事になったのが、今回取り
上げるクックの1957年の全米No.1ヒット《ユー・センド・ミー》です。この曲は、ゴスペ
ルの世界からポップスの世界に転向したクックにとって、最初のかつ最も大きな成功例と
なったシングルとなりました。クックは、もともとはゴスペルを歌うグループのリード・
シンガーでしたが、あまりの人気ぶりにスター性を見出したレコード会社によって、ポッ
プスを歌うようになったそうです。もともと、友人達と一緒に流行歌も歌っていたそうな
ので、ポップスを歌うことにクック自身も抵抗はなかったのでしょう。

いくつかのポップスの世界での試行の後、《ユー・センド・ミー》でクックは大きく成功
します。《ユー・センド・ミー》も、《ワンダフル・ワールド》同様に軽やかなラヴ・ソ
ングです。しかし、最近《ユー・センド・ミー》を聴いて、僕が10代の頃に聴いていたの
とは違う感覚を持つようになりました。僕がこのクック自身の作詞・作曲によるラヴ・ソ
ングを聴いて最も強く感じるのは、クックの女性に対するアピール力の凄さです。ひらた
く言えば凄くモテたのではないかということであり、さらに言えば色悪のにおいさえしま
す。現在では《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》という傑作(これは確かです)によっ
て、クックのことは必要以上に聖化されている印象を受けなくもないのですが、《ユー・
センド・ミー》を聴くと、”好青年”のようなイメージとは遠い、クックのもっと人間臭
い一面が見えてくる気がするのです。

クックの行くところ、女性の失神者が出たという伝説がありますが、なるほどと感じさせ
るものが《ユー・センド・ミー》にはあります。「ユー、ユー、ユー」とか「アイ・ノウ
、アイ・ノウ、アイ・ノウ」と何度も繰り返すところなどは、女性に対して表情豊かに接
しているクックと、ウットリしている相手の女性の姿が見えてくるよう気さえします。こ
の全米No.1になったわりには他愛のないラヴ・ソングを、これだけイヤラシクなく、かつ
甘く表現できるのは、色悪な人間にしかできないのではないかという気がしてならないの
です。公民権運動が盛り上がっていった50年代末から60年代のアメリカで、黒人の歌手と
して大きな功績を残したクックの業績についてとやかく言うつもりはまったくありません
が、《ユー・センド・ミー》にアメリカ国民がウットリしたのは、色悪な部分を隠して甘
くせまるクックの歌の魅力にウットリさせられていたのだと僕は思うのです。

《 You Send Me 》( Sam Cooke )
cover

Sam Cooke(vo)

Rene Hall(g),Cliff White(g),Ted Brinson(b),Earl Palmer(ds),unknown(cho)

Written  by : Sam Cooke
Produced by : Bumps Blackwell
Recorded    : June 1, 1957 
Released    : September 7, 1957
Charts      : R&B#1,POP#1
Label       : Keen

Appears on :PORTRAIT OF A REGEND 1951-1964
1.Touch the Hem of His Garment,2.Lovable,3.You Send Me,4.Only Sixteen,
5.(I Love You) For Sentimental Reasons,6.Just for You,7.Win Your Love (For Me),
8.Everybody Loves to Cha Cha Cha,9.I'll Come Running Back to You,
10.You Were Made for Me,11.Sad Mood,12.Cupid,13.Wonderful World,14.Chain Gang,
15.Summertime,16.Little Red Rooster,17.Bring It on Home to Me,
18.Nothing Can Change This Love,19.Sugar Dumpling,20.(Ain't That) Good News,
21.Meet Me at Mary's Place,22.Twistin' the Night Away,23.Shake,
24.Tennessee Waltz,25.Another Saturday Night,26.Good Times,27.Having a Party,
28.That's Where It's At,29.A Change Is Gonna Come,30.Jesus Gave Me Water


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