●ロックへの旅:ロッキン・ニューモニア・ブギ・ウギ・フルー
    (ヒューイ・”ピアノ”・スミス&ヒズ・クラウンズ:1957)

「ロックへの旅」を続けていると、ビートルズの登場までのロックの流れにも、いろいろ
な流れがあることがわかります。白人のヒルビリーと黒人のR&Bが結びついたプレスリ
ーや《ブルー・スェード・シューズ》のカール・パーキンスに代表されるメンフィス・ロ
カビリー、マディー・ウォーターズなどのモダン・ブルースとカントリーを巧みに融合さ
せたチャック・ベリーに代表されるシカゴ・ブルース&ロックンロール、ジャンプ・ブル
ースやブギ・ウギ・ピアノに土地独特のシンコペーションを持つリズム感覚が加わったフ
ァッツ・ドミノやリトル・リチャードのニュー・オーリンズR&Bといった流れです。今
回は、そのニュー・オーリンズR&Bの流れを組むヒューイ・”ピアノ”・スミス&ヒズ
・クラウンズの1957年のヒット曲《ロッキン・ニューモニア・ブギ・ウギ・フルー》とい
う曲です。

ヒューイ・”ピアノ”・スミスは、チャック・ベリーやリトル・リチャードのようなロッ
ク史の有名人ではありません。一般的にロックの歴史上の重要人物というのは、ビートル
ズやローリング・ストーンズといったロックの一時代を築いたバンドのルーツ上の人物に
限定されてしまうところがあります。しかし、ロックは意外と広大な面積をもっている音
楽であり、広い視野で見渡してみるともっといろいろな人物が見えてくるのです。ヒュー
イ・”ピアノ”・スミスは、そのような広い視野で見渡したときに見えてくる人物です。
前回のドクター・ジョンの『ガンボ』を紹介したエッセイの中でも、軽くふれています。
ドクター・ジョンは『ガンボ』の中で、ヒューイ・”ピアノ”・スミスの曲をなんと5曲
もカヴァーしているのです。ドクター・ジョンの中でそれだけ大きな存在だったヒューイ
・”ピアノ”・スミスとはどのような人物なのか、調べてみることにしましょう。

クレッセント・シティと呼ばれるニュー・オーリンズで育ったスミスは、8歳で最初の曲
を書き、15歳のときにクラブでピアノを弾き始めたそうです。モダン・ブルースの古典の
ひとつ《シングス・アイ・ユーズド・トゥ・ドゥ》で有名なギター・スリムのセッション
・ピアニストとして働いたのも、同じころのようです。いまとは時代が違うとはいえ、さ
すがに”ピアノ”というニック・ネームが付いているだけのことはあります。18歳のとき
に、ジャズ・ファンには有名なサヴォイというレーベルから、自身の最初のレコードも出
しているようです。その後は、リトル・リチャードで有名な地元のスペシャリティという
レコード会社のセッション・ピアニストとして、《ロウディ・ミス・クロウディ》を歌っ
たロイド・プライスなどのセッション・ピアニストもやっていたそうです。リチャードの
セッションもあったそうなので、そのあたりは興味深いところです。

そのようなピアノの才能があったスミスは、やがてニュー・オーリンズのギタリストの一
人のアール・キング(ジミヘンがカヴァーした《カム・オン(レット・ザ・グッド・タイ
ムズ・ロール)》が有名)のセッション・ピアニストとして働きはじめます。その時期の
アール・キングが契約していたのが、エース・レコードというレーベルでした。そしてス
ミスも、元スペシャリティのジョニー・ヴィンセントというプロデューサーとエース・レ
コードの元で契約を結びます。スミスはスペシャリティでもピアニストとして働いていた
ので、おそらくヴィンセントとは面識もあったことでしょう。そしてレーベル・メイトだ
ったヴォーカリストのボビー・マーチャン(女性の真似がうまかったとされているが、写
真を見る限りゲイの可能性が高い)と、1957年にクラウンズを結成します。彼らのファー
スト・シングルが、《ロッキン・ニューモニア・ブギ・ウギ・フルー》です。

《ロッキン・ニューモニア・ブギ・ウギ・フルー》は、”ズズタタ、ズズタン”という独
特のリズムとホーン・セクションがとても印象的な曲です。まるでダンスのバックで生演
奏を行うようなジャズ・バンドが、突然エイト・ビートのロックを演奏しはじめたような
印象を受けます。そんな想像もまるっきり検討違いではないのか、面白い事にこの曲は、
当初インストゥルメンタルとして作られたそうです。よって、シングルA面のパート1は
歌入り、B面のパート2はインストゥルメンタルが収録されて世にでました。合間、合間
のブレイクに登場するスミスならではの独特のピアノも、昔ながらのジャズ・ピアノを感
じさせるのも面白いところです。確かにマーチ・バンドに端を発すると言われるニュー・
オーリンズの音楽は、一方ではモダン・ジャズの源でもあります。ロックへの旅をしてい
ると、ジャズとロックの関係も違ってみえてくるから不思議です。

《 Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu 》( Huey "Piano" Smith & His Clowns )
cover

Huey "Piano" Smith & His Clowns


Written  by : Huey "Piano" Smith
Produced by : Johnny Vincent
Released    : 1957
Charts      : R&B#5,POP#52
Label       : Ace

Appears on :Having a Good Time with Huey "Piano" Smith & His Clowns 
1.Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu, Pt.1,
2.Rockin' Pneumonia and the Boogie Woogie Flu, Pt.2,
3.Li'l Liza Jane, 4.Everybody's Whalin', 5.Free, Single and Disengaged,
6.Just a Lonely Clown, 7.Don't You Just Know It, 8.High Blood Pressure,
9.We Like Birdland, 10.Havin' a Good Time, 11.Don't You Know Yockomo,   
12.Well I'll Be John Brown, 13.Would You Believe It (I Have a Cold),
14.Genevieve, 15.Tu-Ber-Cu-Lucas and the Sinus Blues, 16.Dearest Darling,
17.Beatnik Blues, 18.For Cryin' out Loud, 19.She Got Low Down, 
20.Mean Mean Man, 21.Pop-Eye, 22.Scald Dog,
23.Little Chickee Wah Wah, 24.I Think You're Jiving Me  


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