●ロックへの旅:ザットル・ビー・ザ・デイ
    (バディ・ホリー:1957)

バディ・ホリー。”若くして夭折した天才ロッカー”、”バディの死と共にロックンロー
ルは死んだと言われた”、バディに関する一般的な情報とはそんなところでしょうか。そ
んな情報は全く知らなかった僕がホリーの名を強く意識したのは、まだコケティッシュで
チャーミングな魅力でいっぱいだった頃のリンダ・ロンシュタットが70年代に残したウェ
スト・コースト・ミュージックの名盤『ハーステン・ダウン・ザ・ウィンド(邦題:風に
さらわれた恋)』に収録されていた《ザットル・ビー・ザ・デイ》という曲でした。確か
リンダは次のアルバムでもホリーの《イッツ・ソー・イージー》をカヴァー。面倒なので
いちいち調べませんが、両方の曲ともシングル・カットされていた記憶があります。その
後、ホリーという人がどうもロック史的に無視できない人で、ビートルズもローリング・
ストーンズもホリーの曲をカヴァーしていることを知ったのです。

今回の「ロックへの旅」は、僕がホリーの名前を知ることになったリンダ・ロンシュタッ
トのヴァージョンではなく。ホリーのオリジナル・ヴァージョンの《ザットル・ビー・ザ
・デイ》です。ホリーが彼のバンドのクリケッツのメンバーと録音したオリジナル・ヴァ
ージョンは、リンダ・ロンシュタットのヴァージョンと殆ど変わらないアレンジです。こ
こは、オリジナルに忠実にカヴァーしてホリーに敬意を表したリンダ・ロンシュタットを
褒めてげるべきところでしょう。カントリー風の見事なギターのイントロに導かれ、ホリ
ーの歌が始ります。ミック・ジャガーはホリーの歌声を聞いて”黒人が歌っている”と思
っていたと言われていますが、本当でしょうか?どこから、どー聴いても、白人青年の声
です。しかし、「ハァァアイ」とか「エェェエイ」という語尾を多用する適度に荒削りな
その歌声は、ホリーの見た目の印象とは異なりロック的ワイルドさを感じさせます。

しかい一番に感じるのが、溌剌とした明るさです。ホリーの作る曲の曲調とか作風もある
のでしょうが、”暗さ”とか”憂い”が微塵もありません。ホリーもカントリーやR&B
を聴いて育ったと言われていますが、いわゆる”ブルージー”なところは全くといって良
いほどないのです。その屈託のない若さ、それでいてロックを感じさせる適度な荒削りさ
が、ホリーの音楽の最大の魅力といって良いと思います。そして、この魅力こそが、おそ
らく若き日のビートルズ(とりわけジョン・レノン)を大きく刺激したのではないかと僕
は思っているのです。ビートルズの歩みを音で綴ったアルバム『アンソロジー1』は、若
き日のアマチュアだったビートルズが、皆でお金を出しあって自主制作した初めてのレコ
ードからとった音源で始ります。そこでジョンが歌っている曲こそ、ホリーの《ザットル
・ビー・ザ・デイ》でした。

僕は、「なぜ《ザットル・ビー・ザ・デイ》だったのだろう」とずっと考えていました。
ジョンとポールは、既にオリジナル曲を数多く書いていたといわれています。事実、その
レコードのB面は、”オリジナル曲の”《イン・スパイト・オブ・オール・ザ・デインジ
ャー》です。「ジョンが歌いたかったから」というのは当たり前の理由で、なぜオリジナ
ルよりも《ザットル・ビー・ザ・デイ》が歌いたかったのだろうという点が、僕がひっか
かってずっと考えていたことなのです。結局、明確な答えがあるわけではないのですが、
ビートルズはその後TV番組のオーディションを受けたときにもホリーの《シンク・イッ
ト・オーヴァー》と《レイヴ・オン》を歌っている(「アンソロジー」のポールの発言よ
り)ことから、おそらく1958年から1959年のある時期、ビートルズ(というよりもジョン
)はホリーに恐ろしく入れあげていたのではないかと推測できます。

それだけジョンを熱狂的にさせたものが、ホリーの屈託のなさとロックを感じさせる適度
な荒削りさではないでしょうか。ホリーのヒット曲であり、ビートルズが最初にレコーデ
ィングした曲でもある《ザットル・ビー・ザ・デイ》(ジョンは、最初に憶えたいくつか
のロックンロール曲の一つとしてもあげている)には、ホリーのその後の音楽の特徴とな
る魅力が早くも凝縮されている気がします。そしてホリーの音楽が持つシンプルで屈託の
ない溌剌さと荒削りな若さは、そのままビートルズの初期の曲、とりわけジョンがヴォー
カルをとる曲の魅力に直結している気がするのです。ビートルズという名前もホリーのバ
ンドのクリケッツにヒントを得ているといわれていますが、一時期のジョンおよびビート
ルズにとって、バディ・ホリーという存在は、おそらく知られている以上に大きなものな
のではないかと僕は思うのです。

《 That'll Be the Day 》( Buddy Holly )
cover

Buddy Holly(vo,elg),
with The Crickets( Larry Welborn(b,cho), Jerry Allison(ds,cho))


Written  by : Buddy Holly, Jerry Allison & Norman Petty
Produced by : Norman Petty
Released    : May, 1957
Charts      : POP#1
Label       : Brunswick

Appears on :The Best of Buddy Holly
1.That'll Be the Day, 2.Words of Love, 3.Peggy Sue, 4.Everyday, 
5.Not Fade Away, 6.Maybe Baby, 7.Oh, Boy!, 8.It's So Easy,
9.Rave On, 10.True Love Ways, 11.Think It Over,
12.It Doesn't Matter Anymore


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