●ロックへの旅:ダイアナ
    (ポール・アンカ:1957)

さて今回の「ロックへの旅」は、1957年9月のポール・アンカの大ヒット曲《ダイアナ》
です。この曲は、ロカビリー・ブームのスター山下敬二郎がカヴァーしたこともあり、日
本で最も知られているオールディーズ・ナンバーだと思われます。オールディーズの代表
的な一曲と言えば《ダイアナ》といっても過言ではないような空気が、我が日本にはある
ように思います。何も根拠もなしに言っているのではありません。何よりぼくにとって、
次の事実がそれを裏付けています。《ダイアナ》がヒットした当時、ぼくはまだ生まれて
いません。しかし、誰から教えてもらったわけでもないのに、「キーミはボクより年上と
、まーわりの人は言うけれど」という《ダイアナ》の日本語版の歌詞はしっかりと憶えて
いるのです。ぼくにとってそのようなカヴァー曲は他にありません。この事実が、《ダイ
アナ》が一般にどれだけ浸透していたのかということを裏付けていると思っています。

では《ダイアナ》はロック史的に捉えるとどうなのかというと、とたんに微妙な空気が漂
いはじめるのがわかります。微妙な空気が漂う理由の一つは、《ダイアナ》という曲が持
つあまりにも大きな知名度と、楽曲そのものの完成度にあるような気がします。当時16歳
のティーン・エイジ・アイドル候補だったアンカが歌うのにもってこいの、”あまりにも
完成された”楽曲の構成力。荒削りで未完成な部分でさえ魅力の一つになるロックンロー
ルという音楽の中で、《ダイアナ》は見事なまでにポップです。《ダイアナ》は楽曲とし
てあまりにも完成されているために、バンドがレパートリーとして取り上げるには恥ずか
しくなるタイプの曲なのです。このような理由から、オールディーズの代表的な一曲であ
ったとしても、ロック史的には注目に値しない曲というような扱いを受けているような気
がします。

微妙な空気が漂う理由は、もう一つあります。もう一つの理由は、《ダイアナ》を創り、
自ら歌ったアンカという人物のイメージです。アンカは、同時代に活躍したエディ・コク
ランやバディ・ホリーと同じように、自ら楽曲を創り歌ういわゆるシンガー・ソング・ラ
イターの先駆けでした。バディ・ホリーとは、何度も一緒にコンサートも行っています。
コクランやホリーはロック史の中で確固とした位置付けを持つようになり、その楽曲はビ
ートルズやローリング・ストーンズがカヴァーするまでになったというのに、なぜアンカ
はロック史の中でほぼ完全無視(のように見える)状態なのでしょうか。コクランやホリ
ーがあくまでロックンローラー然としていたのに対して、アンカはアンディ・ウィリアム
スやフランク・シナトラ的なものを目指すかのようになっていきます。その姿勢が、ロッ
ク史的な評価をする人達には受け入れられなかったような気がします。

では《ダイアナ》という曲は本当に無視すべき曲なのでしょうか。フランク・シナトラが
歌った世界的に有名なヒット曲《マイ・ウェイ》の作者でもあり、自家用ジェット機まで
もつ億万長者でありながら、フランク・シナトラにもペリー・コモにもアンディ・ウィリ
アムスにもなりきれないようなアンカのイメージだけで、《ダイアナ》の評価を決めてし
まって良いのでしょうか。確かに《ダイアナ》には、ロック的な衝撃はありません。しか
し一つのポピュラー楽曲として聴いた場合、やはり良くできた曲と言わざるを得ないと思
うのです。ある意味で、若くしてこの”あまりにも完成された”《ダイアナ》という楽曲
がヒットしてしまったことが、《イエスタディ》や《レット・イット・ビー》のビートル
ズが巷で「ダサイ」と言われるのと同じように、アンカがロック史的に無視される(よう
に見える)一番の理由なのかもしれません。

実際《ダイアナ》は、本当によくできた曲です。子供が聞いても一発で憶えられるような
シンプルな魅力に満ち溢れています。イントロおよび間奏として繰り返されるサックスの
メロディ、”コッコラポッポ・チャカポコ”というチャ・チャ・チャの変形のようなリズ
ム、盛り上がりのあるメイン・メロディ、エルヴィスの歌い方を意識したようなミドル・
エイトと、全ての部分が実によくできています。とくにメイン・メロディの9小節目から
12小節目で盛り上げておいて、「オー、プリーズ」というところでクライマックスに持っ
ていく構成は「ヤラレタッ!」って叫んでしまいたくなるくらい秀逸です。16歳にしてこ
のような見事な完成度を創ることができたアンカという人は、早熟な作家タイプのシンガ
ーだったのでしょう。その後シナトラに楽曲を提供するまでになるアンカの作家としての
才能は、この時まだ始まったばかりでした。

《 Diana 》( Paul Anka )
cover

Paul Anka(vo)

Written  by : Paul Anka
Produced by : Don Costa
Released    : 1957
Charts      : POP#1
Label       : ABC

Appears on :THE GOLDEN BOWL : Paul Anka Original Gretest Hits
1.You Are My Destiny, 2.Lonely Boy, 3.That's Love, 4.Diana,
5.Don't Gamble With Love, 6.Put Your Head On My Shoulder,
7.Crazy Love, 8.Adam and Eve(1963 version), 9.My Home Town,
10.Let The Bells Keep Ringing, 11.Tell Me That You Love Me,
12.I Miss You So, 13.Something Has Changed Me, 14.Don't Ever Leave Me
15.Uh-Huh, 16.The Story Of My Love, 17.Loveland,
18.Tonight My Love, Tonight, 19.Kissin' On The Phone, 20.Puppy Love,
21.I Love You In The Same Old Way, 22.I Remember,
23.You Are My Destiny 2002(THE GOLDEN BOWL Version)


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