●ゴー、ゴー、トラヴェリング・ウィルベリーズ

トラヴェリング・ウィルベリーズの《シーズ・マイ・ベイビー》を、ここ最近よく聴くこ
とが多い。いろいろと公私にわたって多忙なせいだろうか。疲れまくって帰ってきたとき
や、「気合を入れて今日も出かけるぞ」というときに、《シーズ・マイ・ベイビー》は実
に気分的にピッタリくるのである。実際《シーズ・マイ・ベイビー》を聴いていると、身
体全体に活力がみなぎってくる。音楽のマムシ・ドリンクなのである。ストレートなロッ
クンロール・サウンドが、スカッと爽快な気分にさせてくれ実に気持ちよいのだ。人間と
いう生き物は、本当に忙しいときには、《シーズ・マイ・ベイビー》のようなパワーを与
えてくれる音楽が必要なのではないかと思う。「あなたをゆっくりと癒してあげますよ」
といった類の音楽なんて、本当に多忙で気合が入りまくっているときにはチャンチャラお
かしくて聴いてはいられないのである。

ということで、最近はCDを聴きながら「シズ、マァァァーイ、ベイベェー」と一緒にな
って心の中で歌いまくっているぼくなのである。さすがは、ぼくらのジョージ。究極のお
やじロックを残してくれた。トラヴェリング・ウィルベリーズは、1988年にジョージ・ハ
リスンのシングルB面を作成するのがきっかけでできたロイ・オービソン、ボブ・ディラ
ン、ジェフ・リン、トム・ペティからなるスーパー・グループだったが、MTVやバブル
全盛期の中で当時は大きな話題になったわけではなかった。おそらく当時の10代の若者達
には見向きもされず、アルバムをリアルタイムで買ったのは、ぼくのような往年のロック
・ファンだけだったのではないだろうか。そのぼくでさえ、《シーズ・マイ・ベイビー》
が収録された『ヴォリューム3』は当時は正直ピンとこなかった。バブル全盛期だったの
で、ドリカムなんかにうつつを抜かしていたのである。

しかし、ぼくらのジョージの音楽的ピントはぴったりとあっていたのである。ギター、ベ
ース、ドラムスからなる基本的なロックンロール・サウンド。バブル期に多かったシンセ
サイザーだらけのユーロ・ビート・サウンドのなかでは全く目立たなかったが、音楽に合
わして本当にガンガン身体を動かしたくなるのはこのロックンロール・サウンドなのであ
る。ロイ・オービソンを失いつつもウィルベリーズが再びレコーディングを行ったのは、
この基本的なロックンロール・サウンド(それが彼らにとっての共通言語に他ならない)
をベースにした音楽をやることが楽しかったからに間違いないだろう。その思いっきりの
よさが《シーズ・マイ・ベイビー》が収録された『ヴォリューム3』にはあるのである。
バンド・サウンドとしては、ジョージのB面候補だった《ハンドル・ウィズ・ケア》が名
刺代わりだった1枚目よりもよくできているのではないかと思うのだ。

バンド・サウンド作りに徹した分だけ、ジョージ色は1枚目よりも薄くなっている。しか
し、そこがわれらのジョージ。ビートルズで、ジョンとポールの脇役に徹した人生はダテ
ではない。ジェフ・リンと共にさすがのサウンド・プロダクションで、他のウィルベリー
兄弟を引き立てている。ジェフ・リンとジョージが狙ったのは、往年のロックンロール・
サウンドの(80年代当時の)現代的リメイクであろう。《ワイプ・アウト》とハード・ロ
ックが合体したような《シーズ・マイ・ベイビー》だけではなく、R&Bロッカ・バラー
ド調の《セヴン・デッドリー・シンズ》、カントリー(ブルースと同じく初期ロックンロ
ールに大きな影響を与えてる)調の《プアー・ハウス》(ジョージの素晴らしいスライド
が聴ける)、ポップで楽しいツィスト調の《ニュー・ブルー・ムーン》など、『ヴォリュ
ーム3』ではそれが手に取るようによくわかるのである。

ジョージがサウンド作りでバックに徹しているから、《シーズ・マイ・ベイビー》はとも
かく『ヴォリューム3』は良くないのかとぼくが思っているのかというとそうではないの
である。ジョージがあまり出てこない分、ディランが最高のロックンロール・ヴォーカル
でガンガンといってくれるのだ。ぼくはジョージもディランも好きなので、これで大満足
なのである。《シーズ・マイ・ベイビー》でも、「シズ、カミ、ダウン、ザ、サイウォー
」と出てくるところとか、「ハニー、ハニー、ハニー」というところなんてたまらないの
だ。ディランのような当時のロック界では大御所おやじだった人物が、ロックンロール初
期のようなちょっと猥雑かつユーモラスな歌詞をガンガンといってくれるのが最高なので
ある。これが、ウィルベリーズ『ヴォリューム3』の最大の魅力なのである。《ウィルベ
リー・ツィスト》で我を忘れて踊ったら、また《シーズ・マイ・ベイビー》を聴くぞ!。

『 Traveling Wilburys Vol.3 』( Traveling Wilburys )
cover

1.She's My Baby, 2.Inside Out, 3.If You Belonged To Me,
4.The Devil's Been Busy, 5.7 Deadly Sins, 6.Poor House,  
7.Where Were You Last Night?, 8.Cool Dry Place, 9.New Blue Moon,  
10.You Took My Breath Away, 11.Wilbury Twist


TRAVELING WILBURYS are

SPIKE WILBURY : GEORGE HARRISON(g,elg,mandolins,sitar,vo)
MUDDY WILBURY : TOM PETTY(g,elg,vo)
CLAYTON WILBURY : JEFF LYNNE(g,b,key,vo)
BOO WILBURY : BOB DYLAN(g,harmonica,vo)
&
Jim Keltner(ds), Ray Cooper(per), Jim Horn(sax), Gary Moore(elg on She's My Baby)

Produced : Spike Wilbury & Clayton Wilbury
Released : Oct 29, 1990
Label    : Wilbury / Wanner
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