ヒット曲には、俗に3連ロッカ・バラードと呼ばれるスタイルがあります。ロックもしく はR&B的な要素を感じさせるバラード・スタイルの曲のことで、「チャ・チャ・チャ、 チャ・チャ・チャ」という3連符(音符)を使ったリズムが特徴的なのでそのように呼ば れているようです。具体的な例を出すと、プラターズの《グレート・プリテンダー》、ポ ール・アンカの《ユー・アー・・マイ・デスティニー(邦題:君はわが運命》、エルヴィ スの《キャント・ヘルプ・フォーリン・ラヴ(邦題:好きにならずにいられない)》、と いった曲が該当します。日本のヒット曲ですと、クール・ファイヴの《長崎は今日も雨だ った》とか、RCサクセションの《スロー・バラード》といった曲を思い出してもらうと イメージしやすいでしょうか。今回あげる曲は、先にあげた3曲以上に知られた3連ロッ カ・バラードであり、ある意味では日本のヒット曲ともいえる《ヘイ・ポーラ》です。 ぼく自身、幼少期によく耳にした曲として、身体の中に刷り込まれています。日本では、 「コメットさん」というTVドラマで人気者だった九重祐三子(大場久美子の人は世代が 違う)の旦那の田辺靖雄という歌手と、《こんにちは赤ちゃん》や《二人でお酒を》で有 名な梓みちよのデュエットでヒットしています。二人の歌う姿は記憶にありませんが、曲 は鮮明に記憶に残っています。どうやら記憶に残っているのは田辺靖雄と梓みちよのカヴ ァー・ヴァージョンではなく、オリジナル・ヴァージョンのようです。オリジナルは、ポ ール&ポーラという男女デュオによって歌われています。なぜ男女デュオなのかというと 、「ヘイ、ヘイ、ポーラ、君と結婚したいんだ」「ヘイ、ヘイ、ヘイ、ポール、私もよ」 といった歌詞を男女の掛け合いで歌うラヴ・ソングだからです。ポーラが歌う「ヘイ、ヘ イ、ヘイ」という甘く切ない部分が、妙にぼくの記憶に残っているのです。 それだけ記憶に残っているのは、曲が良いからでしょう。ロックの歴史に大きな影響を与 えた曲ではありませんが、改めて聴いてみると実によくできています。とくにコード進行 は、当時のヒット曲の中ではずば抜けて良いと思います。先にあげた3連ロッカ・バラー ドに劣らない、いや、ひょっとして勝っているのではないかという気さえします。サザン ・オールスターズの《涙のアヴェニュー》なんてこの曲のDNAを物凄く感じるので、桑 田佳佑も《ヘイ・ポーラ》からインスパイアされたのかもしれません。いっぽうアメリカ では、曲の良さに加えスィート・ハートなムードが受けたようです。モータウンが作った マーヴィン・ゲイのデュエット・アルバム、とりわけタミー・テレルとのスィート・ハー トな世界は《ヘイ・ポーラ》のモータウン的発展系ではないでしょうか。曲の作者は、ポ ールことレイ・ヒルデブランドという人ですが、なかなか良い仕事をしたと思います。