昔の洋楽のヒット曲のことをさして、オールディーズという言葉がよく使われます。古い けれども良い曲という意味で、英語ではオールディーズ(バット・グッディーズ)と言い ます。さて、ここで問題です。いったい何を基準にオールディーズというのでしょうか。 例えば、ビートルズの《抱きしめたい》も、ローリング・ストーンズの《サティスファク ション》も40年以上も前の曲です。現在からみれば、十分に古い曲でしょう。しかし、他 の国ではわかりませんが、これらの曲のことをオールディーズと呼ぶ感覚はないと思いま す。単に古い曲というだけでは、オールディーズという言葉は適切ではないようです。そ れではビートルズ登場以前の曲を仮にオールディーズと呼ぶとしたらどうでしょう。これ も一概にはいえません。ビートルズ以後でも、《ヘイ・ポーラ》のようにオールディズ曲 集の定番のような曲も存在します。いったい何がオールディーズの基準なのでしょう。 ボビー・ヴィーの《ザ・ナイト・ハズ・ア・サウザンド・アイズ(邦題:燃ゆる瞳》も、 オールディーズ・ナンバーと呼ばれることが多いようです。ヒットしたのは1963年なので 、ビートルズのデビュー後になります(ただし彼らの人気は、アメリカでは未だ火がつい ていません)。ぼくがこの曲を初めて聴いたのは、カーペンターズの名盤『ナウ・アンド ・ゼン』のB面のメドレーでした。ビーチ・ボーイズの《ファン・ファン・ファン》、ス キーター・ディヴィスの《エンド・オブ・ザ・ワールド》、クリスタルズの《ダ・ドゥ・ ロン・ロン》、ジャン&ディーンの《デッド・マンズ・カーヴ》、シェリー・フェブレー の《ジョニー・エンジェル》ときて、兄のリチャードがリードをとる《ザ・ナイト・ハズ ・ア・サウザンド・アイズ》がきます。このメドレーもよくオールディーズ・メドレーと 言われるのですが、そう言われるとどうも気分的にしっくりとこないのです。 結論を言ってしまえば、今日でも十分に新しさを感じさせる魅力を持っている曲は、オー ルディーズという言葉が似合わないのだという気がします。その意味で、《ザ・ナイト・ ハズ・ア・サウザンド・アイズ》にはオールディーズという言葉は似合いません。ロック っぽいコード進行のイントロ、スキップするようなリズム、ポップなメロディ、それを支 えるゴージャスなビッグ・バンド&ストリングスのサウンドと、現在でも全く色褪せない ポップな魅力にあふれています。とりわけ大迫力で曲をグルーヴさせているドラムスと、 「リメンバー」で始まるサビの3連音符の部分は魅力的です。フィル・スペクター、そし てブライアン・ウィルソンへと引き継がれていくポップなメロディとビッグ・バンド・サ ウンドの先駆であり、ポップな魅力に満ち溢れた《ザ・ナイト・ハズ・ア・サウザンド・ アイズ》は、ぼくの中では決してオールディーズではないのです。