ロックンロールの歴史をひもといていくと、避けてはとおれない人達がいます。エルヴィ ス・プレスリー、チャック・ベリー、リトル・リチャードといったロックンロールの先駆 者たちです。これらの人々はロックの歴史の中では欠かすことのできない人達ですが、そ こまでの歴史的なイノヴェーターではないにせよ、ロックンロールからロックの歴史を辿 ると必ずといって良いほど登場してくる人達がいます。今回とりあげるエヴァリー・ブラ ザースも、そのような存在の人達です。エヴァリー・ブラザーズは、ドンとフィルという 2人組みの兄弟デュオで、ヒルビリー・ミュージック(カントリー)をやっていた両親の もと、子供のことからステージにたっていたと言われています。50年代半ばに、有名なギ タリストのチェット・アトキンスに見出されるかたちでデビューしたそうです。50年代か ら60年代にかけてたくさんのヒット曲を持っています。 このエヴァリー・ブラザーズがロックンロールからロックの歴史を辿ると必ずといって良 いほど登場してくるのですが、ぼくにはこれが不思議でなりませんでした。彼らのサウン ドが、とてもロック的とは思えなかったからです。しかし、ぼくの思いとはまったく関係 なく、ビートルズは初期に彼らの曲をレパートリーに取り入れ、ポール・マッカートニー は自作曲を提供し、ビーチ・ボーイズの結成25周年コンサートやサイモン&ガーファンク ルの2003年の歴史的なリユニオン・コンサートに彼ら自身が登場してきたりするのです。 サイモン&ガーファンクルが影響を受けたというのは、同じアコースティック・ギター主 体の2人編成ということもあり理解できなくもありませんが、ロックンロールからロック への歴史的観点からすると、なぜ彼らがいつも出てくるのか実感としてわかりませんでし た。従って、今回のロックへの旅は、ぼく自身の探求の旅でもあります。 エヴァリー・ブラザーズが及ぼした影響点でよく言及されているのが、彼らのハーモニー の影響云々です。確かにエヴァリー・ブラザーズのあとにサイモン&ガーファンクルを聴 くと、その影響を体感することは可能です。ビートルズが映画「レット・イット・ビー」 で演奏した《トゥー・オブ・アス》も、エヴァリー・ブラザーズのスタイルのビートルズ 的発展系というのはわかります(ビートルズは《トゥー・オブ・アス》のセッション中に 《バイ・バイ・ラヴ》を演奏している)。しかしエヴァリー・ブラザーズのハーモニー・ スタイルは、別にエヴァリー・ブラザーズがはじめてやったわけではないようです。とい うことは、ハーモニー・スタイルのみをとりあげて歴史上重要とするのは足りないような 気がします。ではエヴァリー・ブラザーズがロックンロールの歴史に登場する真の要因は なんなのでしょうか。 その秘密は、彼らの最初のヒット《バイ・バイ・ラヴ》にあると思われます。まずは《バ イ・バイ・ラヴ》の登場時期です。《バイ・バイ・ラヴ》は、ロックンロールが市民権を 得ようとしていたまさにそんな時代にヒットしています。イントロは、ザッザザァザ、ツ クチャン、ツクチャンという、ロック(ロックンロールではない)っぽいギターのカッテ ィングで始まります。ロックンロールにシビレていた若者でギターを弾いていた人は、そ の耳慣れないビート感覚にシビレて、真似をしてみたくなったのではないでしょうか。そ の影響はサイモン&ガーファンクルの代表作《ミセス・ロビンソン》を聴くともろに感じ ますし、ボブ・ディランのギター・テクニックにもうかがうことができます。そんなパー カッシヴなギターのイントロに導かれ、ドンとフィルが気持ちよさそうにハモって歌い始 めるのです。これがまず、当時の若者の心をつかんだのではないかと思われます。 そして《バイ・バイ・ラヴ》はとにかく曲が良いのです。オールディーズのライヴ・ハウ スなどで眼の前で歌われたら、一緒に口ずさんでしまう親しみやすさがあります。それに 加えて歌詞も素敵です。「バイバイ、ハッピネス、ハロー、ロンリネス」なんて、ありそ うでなかった詩的な歌詞だと思います。いかにも60年代ポピュラー界の詩人といわれるポ ール・サイモンが、好みそうな歌詞ではありませんか。親しみやすいメロディ、素敵な歌 詞、ロックっぽいビートにのせて気持ち良いハーモニーで歌われる《バイ・バイ・ラヴ》 がロックンロール時代にヒットしていたら、真似するなと言うほうが無理ってもんでしょ う。ジョンとポールも、サイモンとガーファンクルも、みんなエヴァリー・ブラザーズを 真似したのではないでしょうか。その影響が、60年代の宝物のような彼らのヒット曲だと したら、これはやはりロックの歴史では欠かせないといえそうですね。