●グラント・グリーン再発見の頃とグリーンの影響

ぼくのフェヴァリット・ギタリスト、グラント・グリーンについては、これまでも折にふ
れ何回か書いてきた。今回はこのグリーンの話しなのだが、ここんとこロック、ポップス
のことばかり書いてきたので、少しグリーンについて説明しておこう。グリーンは、ジャ
ズの名門レーベルのブルーノートという会社が発掘したギタリストである。このため、一
般的な認識はジャズ・ギタリストとなっている。その証拠に、CDショップに行けば、グ
リーンのCDはジャズのコーナーに置いてある。しかし、その肝心の我が国のジャズ業界
からは、”コードが弾けない”とか”同じフレーズばかり”という理由で無視に近い形で
扱われてきた。そのグリーンが再注目されたのは、1980年代なってから。ブルーノートで
リーダ・アルバムやセッションのレコーディングを頻繁に実施していたのが1960年代のこ
となので、実に20年の歳月を経て再発見されたことになる。

グリーンを再発見したのは、イギリスのマニアックな若者達だったらしい。当時のイギリ
スのクラブでは、ジャズで踊るのが流行っていたのだという。その場にいたわけではない
ので、実際にどうだったのかは正直わからない。個人的な体験でいえば、1980年代半ば頃
のイギリスのお洒落なグループやミュージシャン(シャーデー、ワーキング・ウィーク、
スタイル・カウンシル、スティングなど)の音楽からは、ジャズの影響を聴きとることが
できたし、セックス・ピストルズの映画「ザ・グレート・ロックンロール・スィンドル」
の監督のジュリアン・テンプルが、マイルス・デイヴィスとの共演で有名なアレンジャー
のギル・エヴァンスを音楽監督に据えたデヴィッド・ボウィー主演の映画「アブソリュー
ト・ビギナーズ」を観に行ったのが確か1986年だった。この映画では、ギルのアレンジの
チャールズ・ミンガスの曲にのせ、若者達のダンス・シーンが確かに映し出されていた。

グリーンの再発見も、おそらく同じ頃だったのだろう。グリーンは、1960年代半ばに自分
を発掘してくれたレーベルのブルーノートから一度離れているが、1960年代の後半になっ
てまた戻っている。一般的には、このブルーノートに戻ってからを、グリーンの後期ブル
ーノート時代と呼ぶ。この後期ブルーノート時代のグリーンが物凄いのだ。たまらないの
である。「サケ・トゥミ!」で「ライド・オン!」なのである。どのくらいたまらないか
というと、ぼくは個人的にギターを弾くのだが、この後期グリーンを聴いてからは、友人
と一緒にロックをやってもブルースをやってもグリーンのフレーズが出てきてしまうので
ある。そればかりか、吉田拓郎や井上陽水の曲を演奏していても、グリーンがでてくるの
である。そのくらい心をわしづかみにして離さないような魅力が、後期ブルーノートのグ
リーンにはあるのだ。イギリスのマニアックの若者達の耳をひきつけたのもよくわかる。

そんでもって、イギリスのヒップでマニアックな若者達がグリーンを再発見して何をやっ
たかというと、グリーン達の演奏をサンプリング(一部を抜き出)してループ(繰り返)
させ、そこにリズムを強調するような自分達の演奏を被せたのである。イギリスのDJユ
ニットのUS3(アス・スリー)という奴等である。まあ、純粋な日本のジャズ・ファン
が聴いたら眼玉をひん剥いて怒るような暴挙を(しかもブルーノートに無許可で)US3
はやったわけだが、それが我が国のジャズ・ファンの中で大きな問題とならなかったのも
グリーンだったからではないだろうか。彼らがサンプリングしたのは、後期ブルーノート
時代のグリーンの最初のライヴ・アルバム『アライヴ』に収録されていたソウル・シンガ
ーのドン・コヴェイの《スーキー・スーキー》という曲である。このUS3は結局ブルー
ノートに認められ、同時にグリーンも我が国で再発見されていく。

でも、思うのだ。結局US3のアルバム(『ハンド・オン・ザ・トーチ』)を聴いても、
「こういうのってありなのかよ」と思ってしまう。どちらが凄いと言われれば、やはり凄
いのは(ぼくにとっては当たり前のことだが)オリジナルのグリーン達のバンドのグルー
ヴなのだ。もお「どーにもとまらない」ようなファンキーなグルーヴ。その力強いグルー
ヴは、US3が発見しなくてもいづれ誰かに発見されたに違いない。《スーキー・スーキ
ー》のテーマが終わって飛び出すところのグリーンのカッコよさは、ギタリストでなくて
も感じ入るところはあるはずだ。そして《ダウン・ヒア・オン・ザ・グラウンド》(この
演奏もマドンナの『ベッド・タイム・ストーリー』収録の《フォービドゥン・ラヴ》など
サンプリング例多し)のソウルフルかつメランコリックな演奏に、またぼくの心はわしづ
かみにされ、そのせいでぼくのギター演奏は今日も進化しつづけているのである。

『 Alive 』( Grant Green )
cover



1.Let the Music Take Your Mind, 2.Time To Remember,
3.Band Introduction By Buddy Green, 4.Sookie, Sookie, 5.Down Here on the Ground,

+ bonus track

6.Hey, Western Union Man, 7.It's Your Thing, 8.Maiden Voyage

Grant Green (g), Claude Bartee(ts), William Bivens(vib), Ronnie Foster(org),
Idris Muhammad(ds), Joseph Armstrong (conga), Bobby Green(ann)
Earl Neal Creque(org on 2 & 5)

Recorded : August 15, 1970 At Cliche Lounge, Newark, NJ, 
Producer  : Flancis Wolf
Label     : Blue Note
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