●僕の聴かず嫌い・『バックレス』(エリック・クラプトン)

一部の人には好評、一部の人には不評の聴かず嫌いだが、前回の『スローハンド』に続い
て今回もエリック・クラプトンのアルバム『バックレス』だ。このアルバムは、『スロー
ハンド』の次に出たクラプトンのアルバムで、一般的な評価としては地味だがクラプトン
が自分の音楽的なルーツであるカントリー&ウェスタンやブルースに近づいていった時期
の作品として認知されているらしい。ジャケットは、発売された1978年という年を反映し
てか、アダルト・コンテンポラリー的な雰囲気を漂わせる写真となっている。レコーディ
ング・メンバーは、ソロ活動が本格化した女性バック・ヴォーカルの一人のイボンヌ・エ
リマンは抜けてしまったが、70年代のレイド・バック期を支えた不動のクラプトン・バン
ドのメンバーである。ちなみにぼくのクラプトンのベストは、同じメンバーでレコーディ
ングされた『安息の地を求めて』なので多少は期待できそうである。

んでもって、聴いてみました。その感想を一言で述べるとするならば、「このアルバム、
出す必要があったのかいな?」と言ってしまいたくなるくらい、殆ど特筆すべきところの
ないアルバムではないか。クラプトンのファンの人でも、このアルバムを自己ベストにす
る人はさずがにいないのではないだろうか。それが、”地味なアルバム”という評価につ
ながっているのであろう。前作の『スローハンド』からは《レイ・ダウン・サリー》とい
うヒット曲が出ていることもあり、アルバム制作をレコード会社側から急かされていたの
であろうか。しかしクラプトンが当時所属していたRSOという会社にとって、『バック
レス』の出た1978年は「サタデー・ナイト・フィーバー」と「グリース」という2つの映
画関連の曲のヒットで、おそらくレーベル始まっていらいのウハウハ状態となっていたハ
ズである。クラプトンが、ヒット曲を急かされる状況ではなかったと推測する。

だとすると、「前作から1年経っているので、そろそろアルバムでも作ろうか」というノ
リで作られたアルバムなのであろうか。案外とこの推測は当っているかもしれない。とい
うのも、このアルバム全体を覆っているのが、そのような”焦点の定まっていないノリ”
のように感じるからである。演奏面においては、さすがは長年一緒にやってきたクラプト
ン・バンドだけあってプロフェッショナルにまとまってはいる。しかしアルバムの焦点が
定まっていないので、いま一つ盛り上がりに欠けるのだ。マーシー・レヴィとクラプトン
が共作した《ロール・イット》を聴くと、それが体感できるだろう。他の曲も、まるでア
メリカのどこかのライヴをやっている安酒場で、偶然に演奏の上手いバンドに出くわした
ときにそのバンドがやるような演奏なのだ。当時のクラプトン・バンドならば、このアル
バムくらいのレベルの演奏はいつだって可能であったハズなのである。

演奏よりも更に焦点が定まっていないのが曲だ。ボブ・ディランが提供した《ウォーク・
アウト・イン・ザ・レイン》と《イフ・アイ・ドント・ビー・ゼア・バイ・モーニング》
を含め、シンプルでノリの良い曲が続くが、『安息の地を求めて』のクラプトンのオリジ
ナルにあったような劇的な展開がないので、演奏と同じくいま一つなのである。また『バ
ックレス』の収録曲に関して、ブルース、カントリー&ウェスタン、ゴスペルなどのアメ
リカン・ルーツ・ミュージックの影響が言われているが、よく言うよと思うのだ。クラプ
トンのアメリカン・ミュージックの探求の旅は、ヤードバーズ時代から脈々と続いている
ではないか。それにしても、クラプトンもクラプトンだ。いまさら《アーリー・イン・ザ
・モーニング》のようなブルースをレコーディングしてどーしようというのか。どーせな
ら、鬼気迫るような迫真のブルースを聴かせんかいと思うのである。

おそらくあらゆる意味で、当時のクラプトン・バンドは煮詰まっていたのではないか。実
際に、このアルバムのライン・アップによるクラプトン・バンドは、『バックレス』が最
後となるのである。どんな曲でもそれなりに演奏できてしまうというバンドの飽和状態が
、『バックレス』を焦点を欠いたアルバムにしてしまったのかもしれない。それでもあえ
て良いところをあげるとすれば、5曲目の《テル・ミー・ホワット・ユー・ラヴ・ミー》
だろう。1曲目から続けて『バックレス』を聴いていると、この曲でホッとするのだ。ク
ラプトンには珍しいタイプの曲で、いつも素場らしいオルガンを聴かせるキーボード担当
のディック・シムズが、珍しく明るいタッチのメロディックなピアノ伴奏を聴かせる。朝
の情報番組の「**と旅する」のようなアウトドアを紹介するような映像のバックに流す
のにピッタリの爽やかな曲だ。『バックレス』は、この1曲で十分だ。

『 Backless 』( Eric Clapton )
cover



1.Walk Out in the Rain, 2.Watch Out for Lucy,
3.I'll Make Love to You Anytime, 4.Roll It, 5.Tell Me That You Love Me,
6.If I Don't Be There by Morning, 7.Early in the Morning,
8.Promises, 9.Golden Ring, 10.Tulsa Time,

Eric Clapton(vo,g,elg), 
George Terry(g,elg), Jamie Oldaker(ds,per,vo),Dick Sims(org,p,elp), 
Carl Radle(elb,vo), Marcy Levy(vo)
Benny Gallggher & Graham Lyle(back-vo on 9)

Recorded : Aug-Sep,1978 At Olympic Studios, London
Producer  : Glyn Johns
Label     : RSO
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