個人的な理由から、1962年10月を起点に始まったロックへの旅の第二章。いよいよ今回は エルヴィス・プレスリーの初登場です。曲は、《リターン・トゥ・センダー(邦題:心の 届かぬラヴレター)》。当時のエルヴィスの活動の中心は映画に移っていたとのことです が、《リターン・トゥ・センダー》もエルヴィス主演の「ガール、ガール、ガール」とい う映画の主題歌で、映画の中でも歌われたそうです(映画は未見)。全米チャートにおい ては、前回のフォー・シーズンズの《ビッグ・ガールズ・ドント・クライ》が1位の週に 、最高位の2位を記録しています。このヒットの時点で、1954年7月のエルヴィスの初レ コーディングで録音された《ザッツ・オールライト》を起点にしたロックへの旅の第一回 から、おおよそ8年という年月が経過しています。《リターン・トゥ・センダー》を聴く と、8年間にポップ・チャートの世界に起こった変化を思わずにはいられません。 まず一聴してすぐに感じたのが、「古い!」という感覚です。《リターン・トゥ・センダ ー》は、ウィンフィールド・スコットとオーティス・ブラックウェルの作品ですが、同時 代のヒット曲と並べて聴くとその感覚の古さは歴然としていると思います。《リターン・ トゥ・センダー》以前の1962年のヒット曲には、この年の最高傑作だとぼくが思うニール ・セダカが歌った《ブレイキング・アップ・イズ・ハード・トゥ・ドゥ(邦題:悲しき慕 情)》のハワード・グリーンフィールド&ニール・セダカや、リトル・エヴァが歌った《 ロコ・モーション》のジェリー・ゴフィン&キャロル・キングといった音楽出版社系の作 家、またクリスタルズが歌った《ヒーズ・ア・レベル》のジーン・ピットニー、フォー・ シーズンズ《シェリー》のボブ・ゴーディオ、そしてビーチ・ボーイズのブライアン・ウ ィルソンと若くて新しい感覚を持った才能がひしめきあっています。 1956年当時のエルヴィスであれば、《リターン・トゥ・センダー》でいともたやすく全米 No.1を獲得することができたでしょう。結果は、先に書いたように新しい才能の一人ボブ ・ゴーディオのいるフォー・シーズンズに1位の座を譲り最高位2位に終わりました。現 在の耳で聴いた感想を率直に言えば、2位に入るのが不思議なくらいの曲です。曲そのも のは、全くたいした曲ではないと思います。総天然色カラーのような上記の同時代のヒッ ト曲群の前では、一気に50年代に戻されてしまうような感覚さえ受けます。作家の小林信 彦の傑作「日本の喜劇人」のクレージー・キャッツの章に、「大衆の反応は常に遅れてや ってくる」という鋭い指摘がありますが、この時のエルヴィスもまさに同じような状態で はなかったのでしょうか。それが、全米チャートの最高位2位という結果(それでも十分 に成功といえるのかもしれませんが)に表れているのだと思います。