●ロックへの旅:シッティン・イン・ザ・バルコニー
    (エディ・コクラン:1957)

1957年以降、エルヴィスの成功に続けとばかりに、白人のロックンロール・スターが次々
と登場してきます。その中の一人が、シンガー兼ギタリストのエディ・コクランです。「
エディ・コクランは、最高だった」、ぼくの大好きなシンガー兼ギタリストのジョージ・
ハリスンの言葉です。ジョン・レノンとポール・マッカートニーが初めて出会ったとき、
ポールがジョンに弾いてみせたのがコクランの《トゥエンティ・フライト・ロック》だっ
たというのも、ビートルズ・ファンの間では有名なエピソードです。《トゥエンティ・フ
ライト・ロック》は、ローリング・ストーンズも全米ツァーを収録した1980年代のアルバ
ム『スティル・ライフ』で公式にカヴァーしています。ちなみにストーンズのキース・リ
チャーズは、コクランの音楽性についてとても重要な発言をしているのですが、それはま
た改めて取り上げたいと思います。

ビートルズ、ストーンズは言うに及ばず、ロックというカテゴリーの中でコクランの曲は
様々なミュージシャンにカヴァーされています。その中でおそらく最も有名かつ最高なの
は、ザ・フーの傑作ライヴ・アルバム『ライヴ・アット・リーズ』に収録された《サマー
タイム・ブルース》のカヴァー・ヴァージョンでしょう(ぼくが、この曲をはじめて知っ
たのは、恥ずかしながらオリヴィア・ニュートン・ジョンによる割とオリジナルに忠実な
カヴァーでした)。コクランのオリジナルは、ザ・フーの迫力あるヴァージョンとは異な
り、アコースティックでロカビリー風なアレンジになっています。従って、カントリー・
シンガーとしてデビューしたオリヴィアが歌っても、あまり違和感はなかったわけです。
コクランのデビュー曲《シッティン・イン・ザ・バルコニー(邦題:バルコニーに座って
)》も、《サマータイム・ブルース》と同様にロカビリー・タイプの曲です。

逆に言うと、《シッティン・イン・ザ・バルコニー》は、ロックンロール・スターのデビ
ュー曲ということで”ロックンロールな音楽”を期待して聴くと、肩透かしをくらう曲な
のです。コクランは、リバティというアメリカのレコード会社が”第二のエルヴィス”を
狙ってデビューさせた人なのだそうですが、《シッティン・イン・ザ・バルコニー》での
歌い方は”エルヴィスのコピー”と言われてもしょうがない歌い方です。コクランも「ン
ー」などエルヴィスがよくやる”もータマラナイ、ガマンできないー”という歌い方をし
ていますが、エルヴィスと比較すると「まだまだ修行が足らん!」といった感じです。そ
してコクランの歌と同じくらい目立つのが、「バララララ、バッバッ」というバック・コ
ーラスなのですが、これまたエルヴィスのバックのジョーダネアーズのコーラスを嫌でも
思い出させます。会社ぐるみで、エルヴィスのコピーをやっているようなものなのです。

間奏のギター・ソロ(セッション・ミュージシャンとしても活動した経験がある、コクラ
ン自身によるもの)はハッとさせるものがあるのですが、エルヴィスに対する会社ぐるみ
の思い入れはエコー(残響)音がたっぷりとかけられたサウンド面にもはっきりと聴き取
れます。このエコーは、エルヴィスのサン・レコード時代のレコードに聴くことができる
大きな特徴です(エルヴィス本人も、大手レコード会社のRCAに移籍してからもこのサ
ウンドを模倣している)。あまりにも凄いエコーなので、曲を聴いた最後に頭の中に残る
のは、コクランのヴォーカルではなく、エコーがたっぷりとかけられた一番最後の「チュ
ッ(キッスの音)、カポンッ」という最後の「カポン」なのです。この「カポン」が、エ
コーのせいでいつまでも「カポン、カポン、カポン、カポン」と頭の中に残ってしまうの
です。「チュッ」はわかるけど、「カポン」は何なのだと言いたくなってしまうのです。

コクランのようなロカビリーの要素が大きいミュージシャンが、なぜロックンロール・ヒ
ーローの一人になったのかは不思議なところです。例えばリトル・リチャードやファッツ
・ドミノの曲を次々とカヴァーして、本家本元よりも人気を博した白人歌手にパット・ブ
ーンがいます。ブーンとコクランの違いはなんなのか。なぜコクランはロックンロールの
殿堂に選ばれ、ブーンは選ばれないのか。これがエディ・コクランの音楽について考える
ときのポイントとなりそうです。コクランを褒めたたえたり曲をカヴァーしているのが、
イギリス人ミュージシャンに多いのも気になります。この事実はヒントになりそうです。
コクランがイギリスで亡くなっていることも、もしかすると関係があるかも知れません。
しかし、いまはまだ早急な答えを出すのは避けたいと思います。このようなことを音楽を
聴きながら考えてみるのも、これまた「ロックへの旅」の醍醐味だからです。

《 Sittin' In The Balcony 》( Eddie Cochran )
cover

Eddie Cochran(vo,elg),
Connie 'Guybo' Smith(b), Jerry Capehar(box slapping), The Johnny Mann Chorus(cho)

Written  by: Johnny Dee / John D. Loudermilk(同一人物)
Recorded   : January ,1957
Released   : February,1957
Charts     : POP#18
Label      : Liberty

Appears on :The Best Of Ediie Cochran
Disk1:
1.Summertime Blues, 2.Three Steps To Heaven, 3.Somethin' Else, 
4.Cut Across Shorty, 5.Twenty Flight Rock, 6.Sittin' In The Balcony,  
7.Drive In Show, 8.Three Stars, 9.Skinny Jim, 10.Sweetie Pie,
11.Completely Sweet, 12.Pretty Girl, 13.Tell Me Why, 14.Undying Love,
15.Blue Suede Shoes, 16.Little Lou, 17.Teresa, 18.I Remember, 19.Weekend,
20.That's My Desire
Disk2:
1.C'mon Everybody, 2.Teenage Heaven, 3.Hallelujah, I Love Her So,
4.Long Tall Sally, 5.Nervous Breakdown, 6.Jeanie, Jeanie, Jeanie, 
7.Lonely, 8.Am I Blue, 9.Heart Breakin' Mama, 10.Rock And Roll Blues,  
11.Cherished Memories, 12.Eddie's Blues, 13.My Way, 14.Pink Peg Slacks,
15.Milk Cow Blues, 16.Boll Weevil Song, 17.Little Angel,  
18.Mean When I'm Mad, 19.Dark Lonely Street, 20.Think Of Me  


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