●『暴動』以降のスライ&ファミリー・ストーン

「いやぁ、盛り上がってまいりましたぁー、盛り上がってまいりましたぁー」という感じ
で、にわかに面白くなってきたのがスライ&ファミリー・ストーン周辺だ。エアロスミス
のスティーヴン・タイラーからブラック・アイド・ビーズのウィル・アイ・アムまで参加
したトリビュート盤の発売に端を発し、2006年のグラミー賞では先のトリビュート盤の特
別コーナーが設けられスライ本人がギンギラギンのモヒカン頭で登場し度肝を抜いてくれ
たことは記憶に新しい。そして今月、デビュー作の『ア・ホール・ニュー・シング(邦題
:新しい世界』から『スモール・トーク』までのオリジナル・アルバム8作品が日本で紙
ジャケットCD化。雑誌などの特集を含め、(一部の人の間ではあると思うが)再評価の
機運が高まっているのは嬉しい限りだ。なんと7月には、ヨーロッパのジャズ・フェステ
ィバル出演などを中心にツァーに出るらしい。いやあ、凄いことになってきた。

音楽業界から引退同然だった大物の復活としては、80年代のマイルス・デイヴィス、90年
代のジョージ・ハリスン来日、そして近年のブライアン・ウィルソンの復活からスマイル
再構築と同様に、ぼくにとっては大きな出来事だ。なにしろぼくは、1970年代の前半に映
画「ウッドストック」(併映は「バングラディッシュのコンサート」という豪華2本立て
だった)を観て以来、スライにぶちのめされてきたのだ。MIXIでおりにふれつけている日
記には書いたことだが、ここ1年ほどのあいだは、スライのブートDVDなどを一人西新
宿で買ってきては、マイ・ブームで楽しんでいたのである。このエッセイの中でも3回ほ
どスライについては書いたが、CDの発売を記念して以前は書かなかったスライの名盤『
ゼアズ・ア・ライオット・ゴーィング・オン(邦題:暴動)』以後の『スモール・トーク
』までのスライおよびその音楽について記しておきたい。

『暴動)』以後のスライには、大きな変化がある。名声、ドラッグ、グルーピー、コンサ
ートのキャンセルなど、この時期のスライについて語られる伝説は多いが、なんといって
も大きな事実は音楽が大きく変化したことだ。『暴動』以前のアルバムは、まぎれもなく
スライ&ファミリー・ストーンというバンドのアルバムであり音楽である。そこには、バ
ンドでしか得ることの出来ないグルーヴが確実に存在している。ぼくが映画「ウッドスト
ック」でうちのめされたのも、この時期のスライ達の音楽が持っていたグルーヴ感だ。し
かし『暴動』以降の音楽は、ファミリー・ストーンのメンバーが演奏している曲でさえも
スライの大きなコントロールの下におかれているように思える。このため、”スライ&フ
ァミリー・ストーンを聴いた”というよりも”スライを聴いた”という印象のほうがつよ
くなってしまうのだ。ソロ・アルバムに近い感触なのである。

そのようなことが原因だったのか、オリジナル・メンバーであるベースのラリー・グラハ
ムとドラムスのグレッグ・エリコが『暴動』を機に脱退してしまう。二人の脱退がスライ
の音楽を変えたのだろうか。おそらく、そうではないだろう。デビュー・アルバムの『新
しい世界』を聴けばわかるが、『暴動』にある内省的な世界はもともとスライの中にあっ
た。そのような世界観が『暴動』で聴ける内省的・自己破壊的でミニマルなファンク表現
にスライを向かわせたのだろうが、そこに到る過程で、スライはなにかを決定的に失った
ように思える。自分自身とバンドと音楽と聴衆という4つの関係のバランスが、それまで
のスライが思い描いていたバランスと明らかに変わったのだと思う。バンドの人数的には
、グラハムとエリコの脱退以後ファミリー・ストーンのメンバーの人数はむしろ増えてい
るのだが、失ったものと上記のバランス感覚がスライの音楽を変化させたのだろう。

『フレッシュ』と『スモール・トーク』の音楽は、そのような音楽だ。こちら(聴きて)
に向かって、大きくアジテートしてくるわけでもない。かといって『暴動』のようなダー
クな世界というわけでもない。しかし、どこか焦点が定まっていない印象も受ける。その
中での聴きどころは『フレッシュ』に収録のドリス・デイのカヴァー《ケ・セラ・セラ》
と、『スモール・トーク』の《ルース・ブーティ》だ。《ケ・セラ・セラ》は、70年代の
《ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム》だ。ただただ、泣ける。「シャドラック、メシャッ
ク、アベッネゴ」の《ルース・ブーティ》は、あまりにも時代を先取りしすぎていたファ
ンク・ナンバー。『フレッシュ』ばかり名盤扱いされ、この優れたファンク・ナンバーを
だれもほめないのでぼくがほめる。ベスト盤などにも選曲されないが、《ルース・ブーテ
ィ》こそ『暴動』以降のスライの最高のファンクだ。これぞまさしく天才の仕事である。

『 Fresh 』& 『 Small Talk 』( Sly & the Family Stone )
『 Fresh 』
cover

『 Small Talk 』
cover

『 Fresh 』
1.In Time, 2.If You Want Me to Stay, 3.Let Me Have It All, 4.Frisky,
5.Thankful N' Thoughtful, 6.Skin I'm In, 7.I Don't Know (Satisfaction),
8.Keep on Dancin', 9.Que Sera, Sera (Whatever Will Be, Will Be),
10.If It Were Left Up to Me, 11.Babies Makin' Babies
+ bonus track
12.Let Me Have It All [Alternate Mix], 13.Frisky [Alternate Mix],
14.Skin I'm In [Alternate Mix], 15.Keep on Dancin' [Alternate Mix],
16.Babies Makin' Babies [Alternate Mix]

『 Small Talk 』
1.Small Talk, 2.Say You Will, 3.Mother Beautiful,
4.Time for Livin', 5.Can't Strain My Brain,
6.Loose Booty, 7.Holdin' On, 8.Wishful Thinkin'  
9.Better Thee Than Me, 10.Livin' While I'm Livin', 11.This Is Love
+ bonus track
12.Crossword Puzzle [Early Version], 13.Time for Livin' [Alternate Version],
14.Loose Booty [Alternate Version], 15.Positive

SLY & THE FAMILY STONE

SLY "SYLVESTER STEWART" STONE(vo,org,elg.elb,harmonica),ROSE STONE(vo,elp),
FREDDIE STONE(elg),RUSTY ALLEN(elb),
ANDY NEWMARK(ds on『 Fresh 』),BILL LORDAN(ds on『 Small Talk 』)
CYNTHIA ROBINSON(tp),JERRY MARTINI(sax),PAT RIZZO(sax),
Little Sister(cho on 『 Fresh 』), 
Sid Page(vln on『 Small Talk 』), Vet Stewart(vo,elp on『 Small Talk 』)

Label    : Epic
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