●ロックへの旅:オール・シュック・アップ
    (エルヴィス・プレスリー:1957)

1955年以降のロックンロール周辺の音楽を巡る「ロックへの旅」の中で、最多の登場回数
を誇るのは言うまでも無くエルヴィス・プレスリーです。なぜエルヴィスの登場回数が多
いのかというと、これまた言うまでもありませんがヒット・チャートへの登場回数が多い
からです。あまりの多さにトゥ・マッチな気分になり1957年の最初のヒット曲の《トゥ・
マッチ》はとばしましたが、それでも触れないわけにはいかないというのがエルヴィスと
いう存在です。今回紹介する曲は、1957年初夏のヒットの《オール・シュック・アップ(
邦題:恋にしびれて)》という曲です。ポール・マッカートニーをはじめ、ジェフ・ベッ
ク、お懐かしのスージー・クアトロなど、他のミュージシャンによるカヴァーも多い曲で
す。そして何よりも1957年のヒット・チャートでは8週間という長きに渡って1位をとっ
た曲なのでこれは無視するわけにはいきません。

作者は1956年ヒット《ドント・ビー・クルエル(邦題:冷たくしないで)》と同じ、オー
ティス・ブラックウェルという人です。そのせいか、《オール・シュック・アップ》も《
ドント・ビー・クルエル》と同様に、ロックンロールというよりはロカビリー・チックな
あっけらかんとした明るい印象の曲です。女の子に恋をしているときのワクワク・ドキド
キ感を歌っているのですから、湿っぽいはずはないのですけど。キモは、なんと言っても
「オール・シュック・アップ!」といってブレイクしたあと「アハハン」とか「ウフフン
」となる部分です。このような部分を歌わせたら、さすがにこの当時のエルヴィスの右に
出る人はいません。軽いセクシーさを漂わせつつ、明るく軽快に歌いこなす技術は歌手と
して見事なものです。しかし、ここは「ロックへの旅」です。エルヴィス・ファンからの
非難を覚悟で敢えて言わなければなりません。

いかに8週間もヒット・チャートのトップに立とうとも、《オール・シュック・アップ》
はエルヴィスの最高傑作でも最高のパフォーマンスを捉えたものではありません。確かに
魅力がないわけではないのですが、ロックンロール・クラシックとしてはイマ一つ魅力に
欠けるのです。それは、なぜなのでしょうか。まずはサウンドです。デビュー当時からエ
ルヴィスを支えてきたスコッティ・ムーアのギターや、ビートを支えるはずDJ・フォン
タナのドラムスは殆ど目立っておらず、演奏のメインはゴードン・ストーカーの演奏する
ピアノとエルヴィスがギターを叩いて出しているパーカッションのような音です。ギター
ではなくピアノがメインとなっているだけで、ブギウギ・ピアノの時代へと後退したよう
な印象さえ受けます。このようなサウンド面の特徴が、ロックンロールとしての魅力をイ
マ一つにしているのです。

そしてもう一つは、おそらくエルヴィス自らの意志のような気がします。デビュー当時の
エルヴィスは、アメリカ社会で最もセンセーショナルな存在であったことは数々の記録映
像などで確認することができます。そのような存在だったエルヴィスに夢中になる若者達
もいれば、眉をひそめる大人達も数多くいたであろうことは想像に難くありません。大手
レコード会社のRCAに移籍してからのエルヴィスは、アメリカン・ドリームへの階段を
昇りはじめます。南部の貧しい家に生まれたエルヴィスが、成功が確実に実感できる状況
の中で大衆に迎合する道を選んだとしても、後世の他人にとやかく言われる筋合いは全く
ないことでしょう。エルヴィスはより大きな成功を目指して、一部の大人達から眉をひそ
められた本質的に持っていた暴力的かつ性的な自分の匂いを消し去ろうと努めたのではな
いでしょうか。

ぼくが《オール・シュック・アップ》を聴いて感じるのは、エルヴィスのそのような意志
です。《ハウンド・ドッグ》のような歌ばかりでは、より大きな成功は望めない。TV出
演などを通じてそのことを実感したエルヴィスは、本能的により大きな成功を見込めるや
り方を選んだのではないでしょうか。エルヴィスの意志によるこの本能的な選択は、おそ
らく間違ってはいなかったのでしょう。それはエルヴィスという歌手が、死後数十年たっ
たいまでも、遠い異国でさえ愛されているという事実を見てもあきらかです。しかしこの
選択が、エルヴィスが本質的に持っていたロック的な資質を封じ込めてしまったことは、
間違いない気がします。1957年以降のエルヴィスからは、ポップなロックンロール調の曲
に裏に隠れて、社会や大衆に迎合してしまった苦悩と恥ずかしさが見受けられるようにな
ってくるのです。ある意味では、それもまたロックンロールであるのですけど。

《 All Shook Up 》( Elvis Presley )
cover

Elvis Presley(vo), Scotty Moore(g), Bill Black(b), D.J. Fontana(ds)
Gordon Stoker(p)
The Jordanaires : Gordon Stoker, Hoyt Hawkins, Neal Matthews and Hugh Jarrett(cho)
Written  by: Otis Blackwell / Elvis Presley
Produced by: Steve Sholes
Recorded   : January 12,1957
Released   : March,1957
Charts     : POP#1
Label      : RCA

Appears on :Elvis' Golden Records
1.Hound Dog, 2.Loving You, 3.All Shook Up, 4.Heartbreak Hotel, 5.Jailhouse Rock,
6.Love Me, 7.Too Much, 8.Don't Be Cruel, 9.That's When Your Heartaches Begin,
10.(Let Me Be Your) Teddy Bear, 11.Love Me Tender, 12.Treat Me Nice
13.Any Way You Want Me (That's How I Will Be), 
14.I Want You, I Need You, I Love You, 15.My Baby Left Me, 16.I Was The One,
17.That's All Right, 18.Baby, Let's Play House, 
19.Mystery Train, 20.Blue Suede Shoes  


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