●バブル時代の代表曲はポップスの発明品

いまの20代くらいの若い人達の中には、”バブルの時代”に対するある種の憧れのような
気持ちを持つ人がいるらしい。なんでも”バブルの時代”は、いまよりもお金がふんだん
にあり、みんなが浮かれに浮かれて、巨大ディスコで朝まで踊りに踊っていた楽しい時代
であり、「エー、チョー楽しソー、ワタシもイッテみたぃー」ということなのだそうだ。
いや、よく考えてみれば”バブルの時代”に思いを馳せるのは、なにも若い人達ばかりと
は限らない。実際に”バブルの時代”を経験した年代の人達の中にも、現在はリストラや
経費削減で苦しい立場にある人が多いためか、ノスタルジックな気持ちで”バブルの時代
”を「あの時代は良かったなぁ」と振り返る人は多いようだ。このようなイマの時代の雰
囲気が、そこいらのOLまでもが会社帰りにボディコン・スーツに身を固め、お立ち台に上
っていたあのイケイケの時代に対する好奇心とノスタルジーをあおっているようである。

そのような世の中の関心を反映したのか、「バブルへGO」という映画も作られた。バブル
時代に憧れる若い人達の好奇心を満たしてくれるような、タイム・スリップものの映画の
ようだ。先日FMラジオを聴いていたらこの映画の紹介をやっており、それに因んでバブル
時代を代表する楽曲の特集をやっていた。その一発めにかかった曲が、ボーイズ・タウン
・ギャングの1982年のヒット《キャント・テイク・マイ・アイズ・オフ・ユー(邦題:君
の瞳に恋してる)》であった。”バブルの時代”の初期にディスコで踊りまくっていた世
代の人は、反射的にミラー・ボールが浮かんでくるのではないか。それくらいよくかかっ
ていた曲である。この曲の題名(邦題)をタイトルにしたトレンディ・ドラマも作られた
(挿入曲として、ドラマでも使用されたらしい)。ZARD、椎名林檎、トミー・フェブラリ
ー、チューブなど、日本人によるカヴァーも多いそうだ。

そんなバブリーでトレンディーな80年代のヒット曲のことを、なぜぼくが取り上げている
のか。その理由は、この曲が持っている時代の先取り感覚にある。どこからどう聴いても
バブリーでトレンディーな香りがする《君の瞳に恋してる》が作られたのは、驚くべきこ
とに1967年なのだ。1967年といえば、熱狂的ではあるけれどポップス本来の持つ明るさを
まだ残していたロックが、化学薬品などの影響を受けたサイケデリックなものへと変化し
ていった時代である。そのようなサイケな時代を象徴するようなビートルズの傑作『サー
ジェント・ペパーズ。ロンリー・ハーツ・バンド』が発売された年であり、モンタレー・
ポップ・フェスティヴァルでジミ・ヘンドリックスがギターに火をつけて叩き壊して観客
の度肝を抜いた年なのだ。そのような時代の真ん中で、《君の瞳に恋してる》のような先
進的な感覚を持つ曲が生まれたことが、ぼくにとっては大きな驚きなのだ。

《君の瞳に恋してる》の1967年版オリジナル・ヴァージョンを歌ったのは、前回取り上げ
た《シェリー》でお馴染みのフォー・シーズンズのリード・ヴォーカリスト、フランキー
・ヴァリである。作者は、同じくフォー・シーズンズのメンバーのボブ・ゴーディオと、
フォー・シーズンズへの楽曲提供でも有名な彼らのプロデューサーのボブ・クリューだ。
それまでのフォー・シーズンズのヒット曲と同様にゴーディオ/クリューのペンによる曲
にも係わらず、《君の瞳の恋してる》はフォー・シーズンズ名義ではなく、ヴァリのソロ
・シングルとしてリリースされた。ロックの進化とともに、当時のビーチ・ボーイズは時
代に取り残されていたが、プロダクション・ワークに長けたフォー・シーズンズとそのス
タッフは、ヴァリのソロ名義で《君の瞳に恋してる》をリリースすることで、時代遅れの
レッテルを貼られることを巧みにかわしたのかもしれない。

曲はまろやかなホーン・セクションで始まり、甘いヴァリのヴォーカルがスタートする。
そして”パーラ、パーラ、パーラパッパッパ”というお馴染みのホーン・セクションのヴ
ァンプがテンポをアップさせ、サビへの期待感を盛り立てると、ヴァリがエモーショナル
に「アイ・ラヴ・ユー・ベイベェー」と飛び出す。この部分は、本当に素場らしい。曲を
ドライヴさせているドラムスも物凄い(誰だろう?)。転調してからは、優美なストリン
グスも流れだす。この1967年版のアレンジは、1982年版ディスコ・ヴァージョンと殆ど変
わらない。ソウル・ミュージックにさえ当時は存在していなかったと思われるディスコの
ビート感覚を、この曲は持っているのだ。このアレンジは、もはや発明品と言って良いだ
ろう。バブルを代表する曲の源流を辿っていったら、ポップス史に残るような発明品だっ
たわけだ。フォー・シーズンズとそのプロダクション・チーム。なかなか、侮れない。

《 Can't Take My Eyes off You 》( Frankie Valli )
cover

Frankie Valli(vo)

Written  by: Bob Gaudio / Bob Crewe
Produced by: Bob Crewe
Recorded   : 1967
Released   : April,1967
Charts     : POP#2 July 22,1967
Label      : Philips

Appears on :In Season : The Frankie Valli and the 4 Seasons Anthology

1.Sherry, 2.Big Girls Don't Cry, 3.Connie-O, 4.Peanuts,
5.Alone (Why Must I Be Alone), 6.Walk Like a Man, 7.Ain't That a Shame,
8.Candy Girl, 9.Marlena, 10.Stay, 11.Little Boy (In Grown Up Clothes),
12.Dawn (Go Away), 13.Silence Is Golden, 14.Ronnie, 15.Rag Doll, 
16.Save It for Me, 17.Big Man in Town, 18.Bye, Bye, Baby (Baby Goodbye),
19.Betrayed, 20.Toy Soldier, 21.Girl Come Running, 
22.Let's Hang On (To What We've Got) , 23.Don't Think Twice, It's All Right,
24.The Sun Ain't Gonna Shine (Anymore), 25.(You're Gonna) Hurt Yourself,
26.Working My Way Back to You, 27.You're Ready Now,
28.Opus 17 (Don't You Worry 'Bout Me), 29.I've Got You Under My Skin

1.Can't Take My Eyes off You, 2.C'mon Marianne, 3.Proud One, 
4.Tell It to the Rain, 5.Beggin', 6.Lonesome Rad, 7.I Make a Fool of Myself,
8.Watch the Flowers Grow, 9.To Give (The Reason I Life), 
10.Will You Love Me Tomorrow, 11.Idaho,
12.The Girl I'll Never Know (Angels Never Fly This Low),
13.And That Reminds Me (My Heart Reminds Me), 14.Patch Of Blue,
15.My Eyes Adored You, 16.Swearin' To God, 17.Who Loves You,
18.Our Day Will Come, 19.December, 1963 (Oh, What A Night), 20.Silver Star,
21.Fallen Angel, 22.Grease


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