●ロックへの旅:ヤング・ラヴ
    (ソニー・ジェームズ:1957)

1956年の暮れから1957年初頭にかけてのヒット曲を聴いていて感じるのは、ロック的にハ
ッとさせられる曲が少ないことです。例えば、この時期最もヒットしていたガイ・ミッチ
ェルの《シンギン・ザ・ブルース(邦題:ブルースを唄おう)》。プレスリーの《ラヴ・
ミー・テンダー》からトップの座を奪い取り、そのまま9週間も全米チャートのトップを
独走したこの曲も、オールディーズ・ナンバーとしての知名度はさほどありません。《ブ
ルースを唄おう》という曲は、ロックンロールというよりはカントリーまたはポップスの
テイストが濃厚な曲です。”ブンチャッ、ブンチャッ”というリズムにのせて、口笛によ
るメロディが聴こえてくるイントロは、青空の下の高原などでビールを飲んでいるような
映像のCMにピッタリです。”ブルース”という言葉につられて、その言葉から連想する
音楽を想像してしまうと、まるっきり肩すかしをくらうことでしょう。

チャートの他の曲を見回しても、フランク・シナトラ、ナット・キング・コール、パティ
・ペイジなど、ロックンロールを聴く若者達とは異なる層が好んで聴くような音楽が並ん
でいます。頼みの綱のプレスリーでさえ《ラヴ・ミーテンダー》で甘くせまっていたので
すから、そのときのレコード購買層の気分はアダルトな音楽を求めていたということでし
ょうか。ちなみにプレスリーは1957年初頭に《トゥ・マッチ》を出し、もちろんNo.1にな
りますが、この曲もぼくには面白いものではありません。《トゥ・マッチ》は確かにロッ
クンロールのスタイルをとってはいますが、本質的なところでロックンロールを感じない
のです。デビュー当時のプレスリーにあった、隠しようのない暴力性とか性の匂いが微塵
も感じられません。まるで去勢されてしまったかのようなのです。3連符の少しヘンなギ
ター・ソロだけは少々ハッとさせられますが、あえて取り上げるほどでもありません。

この時期にクロスオーヴァー・ヒットを飛ばしたロックンローラーとして、もう一人ファ
ッツ・ドミノがいます。彼は、いつものように独特のゆったりとしたマイ・ペースな歌い
方で、グレン・ミラーのカヴァーの《ブルーベリー・ヒル》をヒットさせました。グレン
・ミラーのスィング・ジャズを見事にリズム&ブルースにしているところは流石ですが、
ぼくはダンス音楽としてのスィング・ジャズとロックンロールはさほど遠いところにない
音楽だと思っているので、これまたハッさせられるものではありませんでした。ドミノの
歌った《ブルーベリー・ヒル》は、子供達にも安心して聴かせることのできる黒人ロック
ンロールといったところでしょうか。ドミノの《ブルーベリー・ヒル》を聴いていた層と
、前述のシナトラやナット・キング・コールの当時のヒット曲を聴いていた層というのは
、おそらくシンクロしていたのではないかと思います。

ロックンロールではありませんが、1957年の2月の大ヒット曲、”デェーオ!”の掛け声
で有名な《バナナ・ボート》のハリー・ベラフォンテには流石にハッとさせられます。前
年から続いていたというカリプソ・ブームにのせて、この曲でベラフォンテは世界的に有
名になりました。ぼくが子供の頃も、ラジオなどでよく流れていたのを憶えています。音
楽をさほど聴かない人でも、「この曲知ってる」って思うような類の曲の一つでしょう。
あの《ウィー・アー・ザ・ワールド》のセッションでも、多くのスター達がベラフォンテ
を讃えてこの曲を歌う場面がありました(ベラフォンテは、《ウィー・アー・ザ・ワール
ド》の提唱者です)。よっぽど単独でとりあげようか迷いましたが、「ロックへの道」の
本流とは少し異なることと、ベラフォンテやカリプソとロックの関係(皆無ではない)を
探るにはもう少し多くの時間が必要だったので、今回はやめました。

1956年暮れから1957年初頭のヒット曲で、ぼくがロック的に最初にハッとしたのが、カン
トリー・シンガーのソニー・ジェームスが歌った《ヤング・ラヴ》です。この曲は、1957
年2月の競作ヒット曲でした。好成績を残したのは、若手俳優タブ・ハンターの歌ったヴ
ァージョンです。しかしジェームス版《ヤング・ラヴ》には、何かひっかかるものがある
のです。センチメンタルなコード進行とメロディも印象的ですが、「アーハァーハイ」と
か「エーヘェーヘェー」などと伸ばすジェームスの歌い方。これがひっかかるのです。ど
ういうことかというと、ジェームズ版《ヤング・ラヴ》はジョン・レノンの曲創りと歌い
方に影響を与えたのではないかと思わせるのです。真偽のほどはわかりません。しかし、
この曲のヒット直後に自分のグループを結成するジョンが影響を受けていても不思議はな
いと思います。このような意外な発見があるので、ロックへの旅はやめられないのです。

《 Young Love 》( Sonny James )
cover

Sonny James(vo)
Unknown(g,p,b,ds)

Written  by: Carole Joyner / Rick Cartey
Charts     : POP#1
Label      : Capitol

Appears on :Sonny James Capitol Collectors Series
1.Young Love, 2.First Date, First Kiss, First Love, 3.Minute You're Gone,
4.Baltimore, 5.Ask Marie, 6.You're the Only World I Know,
7.True Love's a Blessing, 8.Take Good Care of Her, 9.Room in Your Heart,
10.Need You, 11.I'll Never Find Another You, 12.Heaven Says Hello,
13.Only the Lonely (Know the Way I Feel), 14.Since I Met You Baby,
15.It's Just a Matter of Time, 16.My Love, 17.Empty Arms,
18.Bright Lights, Big City, 19.Only Love Can Break a Heart,
20.That's Why I Love You Like I Do


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