●ロックへの旅:ラヴ・ミー・テンダー
    (エルヴィス・プレスリー:1956)

月に一度の「ロックへの旅」。今回は、またまたエルヴィス・プレスリーの登場です。曲
は、エルヴィスの1956年最後のヒット《ラヴ・ミー・テンダー》です。《ラヴ・ミー・テ
ンダー》は、エルヴィスのヒット曲のなかで、おそらく日本では一番有名な曲ではないで
しょうか。ビートルズといえば《イエスタディ》というのと同じくらいに、エルヴィスと
いえば《ラヴ・ミー・テンダー》というイメージが個人的にはあります。このイメージは
、その曲がアーティストを象徴するものであるというような意味合いであって、曲の良し
悪しとはとくに関係がありません。ビートルズにもエルヴィスにも、《イエスタディ》や
《ラヴ・ミー・テンダー》と同じくらいにいろいろな素場らしい曲はたくさんあります。
ではなぜ、《イエスタディ》や《ラヴ・ミー・テンダー》はそれほどイメージとして浸透
しているのかが、この曲の魅力を探る手がかりになるかも知れません。

《ラヴ・ミー・テンダー》の邦題は、そのまんまの直球の訳で《やさしく愛して》です。
そしてこの曲は、エルヴィスの初主演映画「やさしく愛して」の主題歌だったそうです。
この映画は未見ですが、エルヴィスがギターを抱えてこの曲を歌う場面は、どこかで観た
記憶があります。映画の主題歌だったから、イメージが浸透したのでしょうか。それは、
違うと思います。リアルタイムでエルヴィスに接していたならば(とくにエルヴィスのテ
レビにおけるパフォーマンスを一度でも観ていたならば)、ロックンローラーとしてのエ
ルヴィスのイメージのほうが強烈に残るのではないかと想像します。テレビ・ショーの中
で演じられたふてぶてしいまでの《ハートブレイク・ホテル》や《ハウンド・ドッグ》の
パフォーマンスを観ていたら、エルヴィス・イコール・《ラヴ・ミー・テンダー》という
ようにはならないと思います。

それでは《ラヴ・ミー・テンダー》は、なぜエルヴィスのパブリック・イメージになった
のか。それはまた、《イエスタディ》がなぜビートルズのパブリック・イメージになった
のかという質問と同義かもしれませんが、おそらく曲が親しみやすいバラードだからでは
ないかという推論が成り立ちます。エルヴィスもビートルズも、ロックンロールを歌って
いるときはやかましいだけだが、バラードならまあ聞けるし親しみやすいという単純な理
由ではないかと考えてみます。確かにカラオケで《へルター・スケルター》を歌うオヤジ
はいませんが、《イエスタディ》や《ラヴ・ミー・テンダー》オヤジはそこかしこに出没
します。そこに色濃く漂っているのは「おれもプレスリーやビートルズの曲くらい歌える
んだぞ」というご満悦感か、過ぎ去りし青春時代への郷愁だったりします。でもバラード
だからということでは、その親しみやすさの理由が解決できていません。

ビートルズの《イエスタディ》にしてもそうですが、やはり《ラヴ・ミー・テンダー》と
いう曲の魅力は、シンプルでわかりやすいメロディにあると思います。《ラヴ・ミー・テ
ンダー》が主題歌として使われたエルヴィスの初主演映画「やさしく愛して」は、南北戦
争当時の話だったそうです。その当時に出版された曲に《オーラ・リー》という曲がある
のですが、《ラヴ・ミー・テンダー》が《オーラ・リー》を下敷きにして書かれた曲であ
るというのは有名な話しです。《オーラ・リー》という曲を聴けばわかりますが、譜割り
こそことなるものの、基本的なメロディは《ラヴ・ミー・テンダー》と全く同じです。そ
の美しくシンプルなメロディは、小学校低学年くらいの音楽の教科書に載せても良いと思
うほどです。《ラヴ・ミー・テンダー》の魅力の半分は、長い時代を生き残ってきたシン
プルで美しいメロディにあると言えましょう。

では、あとの半分の魅力はなにか。言うまでもなく、エルヴィスの歌です。しっとりと低
音で歌われる、甘い歌詞。前作の両A面シングル《ハウンド・ドッグ/ドント・ビー・ク
ルエル(邦題:冷たくしないで)》で歌手としての新境地を開いたエルヴィスは、この曲
で歌手としての上手さをさらに増しています。エルヴィスがバラードをレコーディングし
たのは《ラヴ・ミー・テンダー》が初めてではありませんが、それまで録音したものと異
なり《ラヴ・ミー・テンダー》にはプロとしての風格と自信が感じられます。今回《ラヴ
・ミー・テンダー》を聴きなおしたとき、リアルタイムでエルヴィスを聴いてきた若者は
どう感じたのだろうと考えました。ふてぶてしいまでのロックンロールを歌ったかと思え
ば、やさしく甘いラヴ・ソングも歌えるエルヴィスの姿は、きっとカッコよく映ったに違
いありません。そしてそのカッコよさは、いま聴いても失われてはいないのです。

《 Love Me Tender 》( Elvis Presley )
cover

Elvis Presley(vo), Vito Mumolo(g),
The Ken Darby Trio (Rad Robinson, Jon Dodson and Charles Prescott) 

Written  by: Vera Matson / Elvis Presley
Produced by: Lionel Newman 
Recorded   : August 24,1956
Released   : September,1956
Charts     : POP#1
Label      : RCA

Appears on :Elvis' Golden Records
1.Hound Dog, 2.Loving You, 3.All Shook Up, 4.Heartbreak Hotel, 5.Jailhouse Rock,
6.Love Me, 7.Too Much, 8.Don't Be Cruel, 9.That's When Your Heartaches Begin,
10.(Let Me Be Your) Teddy Bear, 11.Love Me Tender, 12.Treat Me Nice
13.Any Way You Want Me (That's How I Will Be), 
14.I Want You, I Need You, I Love You, 15.My Baby Left Me, 16.I Was The One,
17.That's All Right, 18.Baby, Let's Play House, 
19.Mystery Train, 20.Blue Suede Shoes  


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