●ロックへの旅:ジ・トレイン・キプト・ア・ローリン
    (ジョニー・バーネット・ロックンロール・トリオ:1956)

さて今回のロックへの旅は、ジョニー・バーネットです。オールディーズ・ファンの方な
ら「あの1960年の甘口ポップ・ヒットの《ドリーミン》や、《ユア・シックスティーン》
のジョニー・バーネット?」と聞かれる方もいるかもしれません。そうです。あのジョニ
ー・バーネットです。ぼくはロックへの旅の途中に、いろいろな人のいろいろな音源を聴
いているのですが、今回紹介するジョニー・バーネットの《ジ・トレイン・キプト・ア・
ローリン》を聴いて、「これを外すわけにはいかないな」と思ったのです。この曲は、ジ
ェフ・ベックからジミー・ペイジ時代のヤードバーズや、エアロスミスのカヴァーでも知
られています。日本でも、シーナ&ロケットが《レモン・ティ》としてカヴァーしていた
記憶があります。でも、ぼくが外すわけにはいかないと思ったわけは、カヴァーが多いせ
いではありません。その理由は、この曲のパフォーマンスそのものにあります。

ロックへの旅では、エルヴィスのサン・セッションから、ほぼ年代順に曲を聴いてきまし
た。年代順に聴いてきて、ジョニー・バーネット(正確にはジョニー・バーネット・ロッ
クンロール・トリオ)の《ジ・トレイン・キプト・ア・ローリン》に出会うと衝撃が走り
ます。これは、もはやロックンロールではない。ロックそのものです。いまのロック・バ
ンドの中で、どれだけのバンドがこの50年前のパフォーマンスに勝てるでしょうか。それ
くらい凄いパフォーマンスです。ぼくはジョニー・バーネットというと《ドリーミン》な
どの歌手としてしかしらなかったので、このパフォーマンスは衝撃的でした。もともと《
ジ・トレイン・キプト・ア・ローリン》という曲は、タイニー・ブラッドショウという人
のジャンプ・ブルースなのですが、ジョニーのロックンロール・トリオの疾走感は、もは
やロカビリーやロックンロールのそれではありません。

そして何といっても凄いのが、ファズがかかったようなサウンドで8ビートのリフを刻む
ギタリストのポール・バリソンです。60年代のブルース・ロック以降、ギタリスト達はエ
フェクターやアンプの操作によって歪んだ音を使うようになりますが、バリソンのギター
はその先駆と言えるでしょう。このサウンドに、まず驚かされます。なんでもこのサウン
ドは、アンプを落として真空管が破損した際に得たサウンドということです。エライと思
うのは、そこで新しいアンプを使わずに自分のサウンドにしてしまったことでしょう。そ
れを良しとしたプロデューサーもえらいです。誰かと思って調べてみたら、ジョン・コル
トレーンのインパルス期をプロデュースすることになるボブ・シールでした。バリソンの
ファズ・ギターを体験済だったシールにとって、コルトレーンが片足を突っ込んだフリー
・ジャズは、まだまだ静かなサウンドだったのかも知れません。

少し話しは横道にそれましたが、《ジ・トレイン・キプト・ア・ローリン》という曲の主
役は、まぎれもなくバリソンのギターです。バリソンは、まるでリトル・リチャードがピ
アノを叩きつけるようなビート感覚で、フェンダー社のエレクトリック・ギターを弾きま
くっています。いきなりイントロから、”ギャギャギャギャ”ときます。間奏では、《ジ
・トレイン・キプト・ア・ローリン》のキモとも言える、あのフレーズが飛び出します。
ベースは、ジョニーの兄のドーシー・バーネットが弾いていますが、バリソンの疾走感に
追いつける弾きかたを彼はまだ知りません。ドーシーに限らず、この時代のベーシスト達
のリズム感は、未だジャズやR&Bのフォー・ビートから脱却できていないのです。違和
感がないほどには頑張ってはいますが、バリソンのギターの疾走感に比べると、ボン、ボ
ン、ボンと響くビート感覚が確実に古いものになったことを実感させられます。

《ジ・トレイン・キプト・ア・ローリン》がヒット・チャートに登場していない理由も、
当時の人々が合わせて踊るにはあまりにも進んでいると思われる、バリソンのビート感覚
のせいかもしれません。ジョニーのロックンロール・トリオのリズムでは、ダンスをする
と言うよりも、「ギャー!」と叫びながら踊り狂うしか手がありません。ヴォーカルのジ
ョニーを忘れそうになりますが、バリソンに負けないくらいに頑張っており、70年代のニ
ュー・ウェィヴ/パンク世代のバンドのヴォーカルみたいです。とても後年のヒット「ド
リーミン?」と優しく歌う人物と同一人物とは思えません。ジョニーの驚異のヴォーカル
とバリソンの革新的なファズ・ギターが、この曲をぼくにとって、そしてロックンロール
世代のミュージシャンにとって忘れられない曲にしているのでしょう。《ジ・トレイン・
キプト・ア・ローリン》のパフォーマンスは、確実に10年先をいっていました。

《 The Train Kept A Rollin' 》( Johnny Burnette's Rock'n'Roll Trio )
cover

Johnny Burnette(vo,g), Doesy Burnette(b), Paul Burlison(elg), unknown(ds)

Written  by: Tinny Bradshaw,Lois Mann & Howie Kay
Recorded   : 1956
Released   : October 13, 1956 
Charts     : -
Label      : Coral

Appears on :Rockabilly Boogie
1.Rockbilly Boogie, 2.Please Don't Leave Me [Alternate], 3.Rock Therapy,
4.Lonesome Train (On a Lonesome Track), 5.Sweet Love on My Mind
6.My Love, You're a Stranger, 7.Your Baby Blue Eyes, 8.I Love You So [Alternate]
9.The Train Kept A-Rollin', 10.All by Myself, 11.Drinkin' Wine, Spo-Dee-O-Dee
12.Blues Stay Away from Me, 13.Honey Hush, 14.Lonesome Tears in My Eyes
15.I Just Found Out, 16.Chains of Love, 17.Please Don't Leave Me
18.Lonesome Train (On a Lonesome Track), 19.I Love You So, 
20.If You Want It Enough, 21.Butterfingers, 22.Eager Beaver Baby, 23.Touch Me   
24.Tear It Up, 25.Oh Baby Babe, 26.You're Undecided, 27.Midnight Train
28.Shattered Dreams


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