ギタリストのライヴ・アルバムのうち、一番お気に入りのライヴ・アルバムは誰の何と言 うアルバムか。誰かにこう尋ねられたら、音楽好きのあなたはなんと答えるであろう。ジ ミヘン?、クラプトン?、いやいや「ハーフノートのウェス」でしょう。いろいろな、意 見があることだろう。ぼくの場合、グラント・グリーンの『ライヴ・アット・ザ・ライト ハウス』が一番だ。だが実は”ライトハウス”が一番になったのは、90年代のグラント・ グリーン再発見以降の話しである。それまでは、違うアルバムが一番だった。ギタリスト のライブ・アルバムとしては、そのアルバムこそが最高で、3大ギタリストと呼ばれたク ラプトン、ベック、ペイジ、さらにジミヘンまで加えても、匹敵するようなライヴ・アル バムは無いと考えているアルバムがあった。そのアルバムは、ロイ・ブキャナンというギ タリストの『ライヴ・ストック』というアルバムだ。 ロイ・ブキャナンは、いわゆるホワイト・ブルースのギタリストだ。しかし、そのデビュ ーは1972年と遅い。ロイは1939年生まれだから、世代的には60年代ビート・グループの人 たちとほぼ同世代だ(ちなみにジョン・レノンは1940年生まれ)。年齢的には、ジミヘン 、クラプトン、ベック、ペイジなんかよりも年上になる。60年代から活躍しているクラプ トンやベックと比較してロイのデビューが遅いのは、ブルースは下火になっていたという 60年代のアメリカの事情が関係しているのかもしれない。ではそれまでのロイは何をして いたのかというと、R&Bのジョニー・オーティスやデイル・ホーキンス、ポップ・アイ ドルのフレディ・キャノンなんかのバックをしていたのだという。このアルバムで取り上 げられているカヴァーもR&Bが多い。そのようなツアー・サーキットで、ギターの腕を 磨いてきたタイプなのだろう。 ロイはそのようなタイプのギタリストなので、観客を前にした『ライヴ・ストック』が傑 作になったのは当然と言える。冒頭のジャイヴ・ナンバー《リーリン・アンド・ロッキン 》から、いきなりエンジン全開だ。注目してほしいのがロイのギターで、トレードマーク のフェンダー・テレキャスターで弾かれるフレーズは、それまでのどんなギタリストも弾 いたことのないフレーズだ。しかしトリッキーな感じやテクニックを見せびらかすような タイプの演奏ではない。ギター好きのぼくは、これでまずツカまれる。続くジュニア・ウ ォーカー&ザ・オール・スターズのヒット曲で、ローランド・カーク、ジャック・マクダ フ、スリー・サウンズなどのジャズ系ミュージシャンの演奏も多い《ホット・チャ》をイ ンストゥルメンタルで軽く流して観客をリラックスさせ、クラプトンの定番ナンバーとな った《ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード》でグイグイのせていくのである。 そして前半のクライマックスの《ロイズ・ブルーズ》がくる。ブルース・ギターが好きな 人でこの演奏を聴いたことがない人がいるとすれば、その人は確実に損をしていると断言 しよう。それくらい凄い、決定的な演奏だ。ロイのボソボソとしたヴォーカルによるイン トロが終わった後に、ブルースに入り込んでいく部分のギターの鋭さといったら言葉にで きない。そして次々と繰り出される、ヴァイオリン奏法、ピッキング・ハーモニックス奏 法、チキン・ピッキング奏法といったロイの必殺技。似たようなタイプの演奏をするギタ リストの名前などあげることのできない、ワン・アンド・オンリーの世界がここにある。 しいていえばブルース・ロックなのだろうが、ジャズでも、カントリーでも、ブルースで も、ロックでもない、実に不思議な演奏だ。全部がミックスされた後に、なにか別のもの として生まれ変わったようなギター・プレイである。 後半は、ロイのナチュラルなギター・ソロが気持ち良いシカゴ・ソウルのタイロン・デイ ヴィスの1968年のヒット曲《キャン・アイ・チェンジ・マイ・マインド》、アル・グリー ンの《アイム・ア・ラム》といったR&Bナンバーが続く。《アイム・ア・ラム》は、ズ シン、ズシンとくるブルース・ロック好きにはたまらないタイプの演奏だが、ここでもロ イのギター・ソロのアプローチは独特で、このような演奏をするギタリストはぼくの知る 限り他にはいないのである。そして最後にまた訪れるクライマックス。ロイのピッキング ・ハーモニックス・ギターが炸裂する、必殺のスロー・ブルース《アイム・イーヴィル》 だ。とにかく凄い。「ギャー」と叫びたくなるような演奏だ。そのような大コーフンと共 に、ロイのライヴは幕を閉じる。本当に良く出来たアルバムだ。ギタリストのライヴ・ア ルバムの王道ここにありという感じである。未聴の人はとにかく聴くベし。