●ロイ・ブキャナンのギター必殺技全開ライヴ

ギタリストのライヴ・アルバムのうち、一番お気に入りのライヴ・アルバムは誰の何と言
うアルバムか。誰かにこう尋ねられたら、音楽好きのあなたはなんと答えるであろう。ジ
ミヘン?、クラプトン?、いやいや「ハーフノートのウェス」でしょう。いろいろな、意
見があることだろう。ぼくの場合、グラント・グリーンの『ライヴ・アット・ザ・ライト
ハウス』が一番だ。だが実は”ライトハウス”が一番になったのは、90年代のグラント・
グリーン再発見以降の話しである。それまでは、違うアルバムが一番だった。ギタリスト
のライブ・アルバムとしては、そのアルバムこそが最高で、3大ギタリストと呼ばれたク
ラプトン、ベック、ペイジ、さらにジミヘンまで加えても、匹敵するようなライヴ・アル
バムは無いと考えているアルバムがあった。そのアルバムは、ロイ・ブキャナンというギ
タリストの『ライヴ・ストック』というアルバムだ。

ロイ・ブキャナンは、いわゆるホワイト・ブルースのギタリストだ。しかし、そのデビュ
ーは1972年と遅い。ロイは1939年生まれだから、世代的には60年代ビート・グループの人
たちとほぼ同世代だ(ちなみにジョン・レノンは1940年生まれ)。年齢的には、ジミヘン
、クラプトン、ベック、ペイジなんかよりも年上になる。60年代から活躍しているクラプ
トンやベックと比較してロイのデビューが遅いのは、ブルースは下火になっていたという
60年代のアメリカの事情が関係しているのかもしれない。ではそれまでのロイは何をして
いたのかというと、R&Bのジョニー・オーティスやデイル・ホーキンス、ポップ・アイ
ドルのフレディ・キャノンなんかのバックをしていたのだという。このアルバムで取り上
げられているカヴァーもR&Bが多い。そのようなツアー・サーキットで、ギターの腕を
磨いてきたタイプなのだろう。

ロイはそのようなタイプのギタリストなので、観客を前にした『ライヴ・ストック』が傑
作になったのは当然と言える。冒頭のジャイヴ・ナンバー《リーリン・アンド・ロッキン
》から、いきなりエンジン全開だ。注目してほしいのがロイのギターで、トレードマーク
のフェンダー・テレキャスターで弾かれるフレーズは、それまでのどんなギタリストも弾
いたことのないフレーズだ。しかしトリッキーな感じやテクニックを見せびらかすような
タイプの演奏ではない。ギター好きのぼくは、これでまずツカまれる。続くジュニア・ウ
ォーカー&ザ・オール・スターズのヒット曲で、ローランド・カーク、ジャック・マクダ
フ、スリー・サウンズなどのジャズ系ミュージシャンの演奏も多い《ホット・チャ》をイ
ンストゥルメンタルで軽く流して観客をリラックスさせ、クラプトンの定番ナンバーとな
った《ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード》でグイグイのせていくのである。

そして前半のクライマックスの《ロイズ・ブルーズ》がくる。ブルース・ギターが好きな
人でこの演奏を聴いたことがない人がいるとすれば、その人は確実に損をしていると断言
しよう。それくらい凄い、決定的な演奏だ。ロイのボソボソとしたヴォーカルによるイン
トロが終わった後に、ブルースに入り込んでいく部分のギターの鋭さといったら言葉にで
きない。そして次々と繰り出される、ヴァイオリン奏法、ピッキング・ハーモニックス奏
法、チキン・ピッキング奏法といったロイの必殺技。似たようなタイプの演奏をするギタ
リストの名前などあげることのできない、ワン・アンド・オンリーの世界がここにある。
しいていえばブルース・ロックなのだろうが、ジャズでも、カントリーでも、ブルースで
も、ロックでもない、実に不思議な演奏だ。全部がミックスされた後に、なにか別のもの
として生まれ変わったようなギター・プレイである。

後半は、ロイのナチュラルなギター・ソロが気持ち良いシカゴ・ソウルのタイロン・デイ
ヴィスの1968年のヒット曲《キャン・アイ・チェンジ・マイ・マインド》、アル・グリー
ンの《アイム・ア・ラム》といったR&Bナンバーが続く。《アイム・ア・ラム》は、ズ
シン、ズシンとくるブルース・ロック好きにはたまらないタイプの演奏だが、ここでもロ
イのギター・ソロのアプローチは独特で、このような演奏をするギタリストはぼくの知る
限り他にはいないのである。そして最後にまた訪れるクライマックス。ロイのピッキング
・ハーモニックス・ギターが炸裂する、必殺のスロー・ブルース《アイム・イーヴィル》
だ。とにかく凄い。「ギャー」と叫びたくなるような演奏だ。そのような大コーフンと共
に、ロイのライヴは幕を閉じる。本当に良く出来たアルバムだ。ギタリストのライヴ・ア
ルバムの王道ここにありという感じである。未聴の人はとにかく聴くベし。

『 Live Stock 』( Roy Buchanan )
cover

1.Reelin' and Rockin', 2.Hot Cha, 3.Further on up the Road, 4.Roy's Bluz,
5.Can I Change My Mind, 6.I'm a Ram, 7.I'm Evil

Roy Buchanan(elg, vo on 4&7), Billy Price(vo), Malcolm Lukens(org,p),
John Harrison(elb), Byrd Foster(ds)

Produced : Jay Reich Jr.
Recorded : Nov 27, 1974 at Town Hall, NY
Released : 1975
Label    : Polydor
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