●待ち遠しいぞ、トラベリング・ウィルベリーズ

『オール・シングス・マスト・パス』、『ザ・コンサート・フォー・バングラ・デシュ』
、『リビング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』と続いてきたジョージ・ハリスン作品
のリマスター作業。作成年度の順番どおりでいくと次のリマスターは『ダーク・ホース』
かと思いきや、なんと『トラベリング・ウィルベリース・ヴォリューム・ワン』らしい。
これは意表をつかれたというか、嬉しいニュースである。この作品は過去に一度CD化さ
れたことがあるのだが、その後は長く廃盤となってしまっていた。その為、中古盤やオー
クションなどで高額で取引されていると聞く。下記のジャケット・イメージからリンクさ
れているアマゾンのページでも高額だ。もっと広く聴かれるべき楽しい作品なのに、先に
あげたような事情によって、現状では聴くのが困難な作品となっているのである。だから
リマスター復刻されて、容易に入手できるようにすることはとても良いことなのだ。

『トラベリング・ウィルベリース・ヴォリューム・ワン』とは、どのような作品なのか。
ネットをちょっと調べれば簡単にわかることだけど、一応書いておこう。まず第一に言え
ることは、”ジョージ・ハリスンのアルバム”ではないということである。ある意味では
ジョージのアルバムと言えなくもないが、ジョージが全面的にフィーチャーされているの
ではない。フィーチャーされているのは、ジョージが考えた架空のバンドのトラベリング
・ウィルベリーズの各メンバーだ。殆どの曲で、みんなでヴォーカルを分け合っている。
”ジョージ・ハリスンのアルバム”ではないというのは、そのような意味である。ウィル
ベリーズのメンバーは、異母兄弟のオーティス、ネルソン、レフティ、ラッキー・ウィル
ベリー、そして親戚のチャールズ・T・ジュニアだ。この5人からなるバンドが、トラヴ
ェリング・ウィルベリーズである。

メンバーの名前の中にジョージの名前が見当たらないのはなぜか。このあたりは、ユーモ
ア好きなイギリス人のジョージらしい。ウィルベリーズのメンバーの名前は、全て偽名な
のだ。ネルソンがジョージその人、オーティスは「電車男」の主題歌《トワイライト》を
歌ったELOというバンドのリーダーのジェフ・リン、レフティは映画「プリティ・ウー
マン」の主題歌《プリティ・ウーマン》(最近では上戸彩がカヴァーしていた)が有名な
ロイ・オービソン、ラッキーはアメリカで最も偉大な歌手と言われるボブ・ディラン、そ
して親戚のチャールズ・T・ジュニアは、当時ディランのツァーをバックアップしていた
人気バンドのトム・ペティ&ハートブレイカーズのリーダートム・ペティである。元々は
ジョージの曲のセッションで偶然集まった大物5人だが、それを架空のバンドにしてアル
バムを作ることを思いつくところがジョージらしい。

能書きはこのくらいにして、とにかく『トラベリング・ウィルベリース・ヴォリューム・
ワン』は楽しいアルバムだ。これを聴くと、ジョージ復帰作の『クラウド・ナイン』は、
このアルバムを作るためのワン・ステップと思えるほどである。ジョージとジェフ・リン
は『クラウド・ナイン』で培った関係をさらにステップ・アップさせて、共通言語である
ロックンロールのサウンドを基調としてこのアルバムを作ったのだろう。そこにロイ・オ
ービソンがいたことも大きかったはずだ。それぞれが曲を持ち寄って、自分達が楽しいと
思えるサウンドで、普段の自分とは少し異なる面を見せながらレコーディングを楽しんだ
のに違いない。それでもアルバムがソロの寄せ集めではなく、架空のバンドのアルバムと
して見事な統一感をもっているのは、おそらくジョージのコンセプトとジェフ・リンのサ
ウンド・メイキングの見事な手腕によるものであろう。

アルバムの楽しさは、冒頭の《ハンドル・ウィズ・ケア》から全開である。最初にジョー
ジが出て、次にオービソン出てくる。オービソンが歌う”ロンリー”という歌詞は、なん
でいつも美しく切ないのだろう。そして「エヴリバーディ」と出てくるディラン。エンデ
ィングでは、なんとジョージのスライドとディランのハーモニカが絡む。ジョージもディ
ランも好きなぼくにはたまらない。アルバムのベストは、オービソンが活躍する《ノット
・アローン・エニー・モア》か。でもぼくが一番グっとくるのは、おそらくディランが持
ってきた《コングラチュレイションズ》である。ゴスペル・バラード調の曲だが、最後の
最後にジョージが得意のスライドを入れる。そして静かにコーラスがフェイド・アウトさ
れていくのにのせ、さらにジョージが泣きのスライドを爪弾くのだ。このジョージは、本
当にいつ聴いてもたまらない。早くリマスターが聴きたいな。

『 Traveling Wilburys Vol.1 』( Traveling Wilburys )
cover

1.Handle With Care, 2.Dirty World, 3.Rattled, 4.Last Night  
5.Not Alone Anymore, 6.Congratulations, 7.Heading For The Light  
8.Margarita, 9.Tweeter And The Monkey Man, 10.End Of The Line  

The Traveling Wilburys are
Otis Wilbury   (aka Jeff Lynne : key,g,elg,vo)
Nelson Wilbury (aka George Harisson : g,elg,vo)
CharlieT.Jnr   (aka Tom Petty : g,vo)
Lefty Wilbury  (aka Roy Orbison : g,vo)
Lucky Wilbury  (aka Bob Dylan : g,vo)

with

Jim Keltner(ds), Jim Horn(sax), Ray Cooper(per), Ian Wallace(tom tom on 1)

Produced : Otis Wilbury & Nelson Wilbury
Released : October 12. 1988
Label    : Wilbury Records (Warner)
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