80年代に洋楽を聴いていた世代の人にとっては、TV番組の「ベスト・ヒット・USA」 はおそらく懐かしい番組ではないでしょうか。その「ベスト・ヒット・USA」の司会を していたのが、ディスク・ジョッキーや俳優としても有名な小林克也さんです。”おじさ んヅラ”(失礼!)の風貌に似合わない見事な英語を操りつつも、海の向こうの洋楽事情 に詳しい小林さんに敬意を表したのか、サザン・オールスターズの桑田佳佑は《DJコビ ーの伝説》という曲を献上しています(小林さんのナレーション入り)。小林さんは司会 やDJだけでは飽き足らなかったのか、80年代に自らロック・バンドをやっていました。 ザ・ナンバー・ワン・バンドという名前のバンドです(最近、再結成されたようです)。 小林さんの風貌は当時もいまも”おじさん”ですが、その”おじさん”がバンドをバック に一生懸命シャウトする姿は妙に心に焼き付いています。 ザ・ナンバー・ワン・バンドの音楽はというと、笑いを取り入れながらもいたって本気で 、コアな洋楽をネタにしたひじょうに面白いものでした。洋楽通の小林さんの、面目躍如 というところです。ザ・ナンバー・ワン・バンドが80年代に出したアルバムに、『東京あ たり』というアルバムがあります。サザンの桑田佳佑も自作曲を携えて参加した非常に面 白いアルバムで、ワイルド・チェリーのディスコ・チューン《プレイ・ザット・ファンキ ー・ミュージック》をもとにした《ファンクしなけりゃチェリー(処女)じゃない》とい う曲など、初めて聴いたときには大笑いしてしまいました。そのアルバムの冒頭を飾って いたのが、《東京街道録音》という奇妙な曲です。「ぐんまーぐんまーぐんまーぐんまー 、ちーば」という繰り返しで始り、その後に「がんばれ、がんばれ、がんばれ、がんばれ 」と2回繰り返され、「さーいたま、ねりま」と落す妙な曲でした。 この「ぐんま、ちば、さいたま、ねりま」の部分は、ドンドコ、ドンドコという土着的な リズムで演奏されます。そのあとブレイクして「いっぽうハラジュクでは?」というナレ ーションが入ると、「はずかしガチャガチャだめだよマーコ」とハラジュクのローラ族が 出てきてロックンロールを歌い始めるのです。これが交互に繰り返される奇妙な曲だった と記憶しています。この「マーコ」という部分が女性自身をあらわす「マ○コ」に聴こえ たりして大笑いの曲なのですが、「ぐんま、ちば、さいたま、ねりま」のドンドコドンド コも「都会のハラジュク」のローラ族も両方ダサイのでさらに笑えるのでした。今回なぜ ザ・ナンバー・ワン・バンドと《東京街道録音》のことをクドクド書いたのかというと、 《東京街道録音》の元ネタとなったのが、おそらく今回紹介するジャックス(またはカデ ッツ)の《ストランデッド・イン・ザ・ジャングル》という曲です。 《ストランデッド・イン・ザ・ジャングル》は、1956年のジャックス(またはカデッツ) のヒット曲です。ザ・ナンバー・ワン・バンドの《東京街道録音》の説明は、そのまま《 ストランデッド・イン・ザ・ジャングル》にあてはまります。《ストランデッド・イン・ ザ・ジャングル》という曲も、最初は「オーオーオ、オーオ」という、いかにも人食い人 種でも出てきそうな土着的なリズムで始ります。このリズムにのせて歌詞がラップ調に歌 われた後、「バック・イン・ザ・ステイツ」というナレーションが入り「ベイビ、ベイビ 」とロックンロール調の楽しいリズムになって、また「バック・イン・ザ・ジャングル」 というナレーションで「オーオーオ、オーオ」となる変わった曲です。変わった曲である にもかかわらず、R&Bチャートとポップ・チャートの両方でクロスオーヴァー・ヒット しているから不思議です。 このような変わった曲やコミカルな要素を持った曲のことを、俗にノベルティ・ソングと 言います。ロックの世界でノヴェルティ・ソングというと、ビートルズも曲をレパートリ ーに取り入れていたコースターズなどが思い浮かびますが、この曲を歌ったジャックス( またはカデッツ)は、ノヴェルティ・ソングを歌うときとバラードを歌うときでグループ 名を使い分けていたようです。ジャックスはバラードを歌う際に、カデッツはアップテン ポのノヴェルティ・ソングを歌う際に使用していたということです。したがって《ストラ ンデッド・イン・ザ・ジャングル》はカデッツ名義のヒット曲で、現在ではロックンロー ル・クラシックの一つと言われています。遠い日本という国の一人の洋楽好きなおじさん が、自分のアルバムでアイディアを取り入れるほどですから、やはりロックンロール・ク ラシックといってよいのかも知れませんね。それにしても、変わったヒット曲です。