●ロックへの旅:ストランデッド・イン・ザ・ジャングル
    (ジャックス/カデッツ:1956)

80年代に洋楽を聴いていた世代の人にとっては、TV番組の「ベスト・ヒット・USA」
はおそらく懐かしい番組ではないでしょうか。その「ベスト・ヒット・USA」の司会を
していたのが、ディスク・ジョッキーや俳優としても有名な小林克也さんです。”おじさ
んヅラ”(失礼!)の風貌に似合わない見事な英語を操りつつも、海の向こうの洋楽事情
に詳しい小林さんに敬意を表したのか、サザン・オールスターズの桑田佳佑は《DJコビ
ーの伝説》という曲を献上しています(小林さんのナレーション入り)。小林さんは司会
やDJだけでは飽き足らなかったのか、80年代に自らロック・バンドをやっていました。
ザ・ナンバー・ワン・バンドという名前のバンドです(最近、再結成されたようです)。
小林さんの風貌は当時もいまも”おじさん”ですが、その”おじさん”がバンドをバック
に一生懸命シャウトする姿は妙に心に焼き付いています。

ザ・ナンバー・ワン・バンドの音楽はというと、笑いを取り入れながらもいたって本気で
、コアな洋楽をネタにしたひじょうに面白いものでした。洋楽通の小林さんの、面目躍如
というところです。ザ・ナンバー・ワン・バンドが80年代に出したアルバムに、『東京あ
たり』というアルバムがあります。サザンの桑田佳佑も自作曲を携えて参加した非常に面
白いアルバムで、ワイルド・チェリーのディスコ・チューン《プレイ・ザット・ファンキ
ー・ミュージック》をもとにした《ファンクしなけりゃチェリー(処女)じゃない》とい
う曲など、初めて聴いたときには大笑いしてしまいました。そのアルバムの冒頭を飾って
いたのが、《東京街道録音》という奇妙な曲です。「ぐんまーぐんまーぐんまーぐんまー
、ちーば」という繰り返しで始り、その後に「がんばれ、がんばれ、がんばれ、がんばれ
」と2回繰り返され、「さーいたま、ねりま」と落す妙な曲でした。

この「ぐんま、ちば、さいたま、ねりま」の部分は、ドンドコ、ドンドコという土着的な
リズムで演奏されます。そのあとブレイクして「いっぽうハラジュクでは?」というナレ
ーションが入ると、「はずかしガチャガチャだめだよマーコ」とハラジュクのローラ族が
出てきてロックンロールを歌い始めるのです。これが交互に繰り返される奇妙な曲だった
と記憶しています。この「マーコ」という部分が女性自身をあらわす「マ○コ」に聴こえ
たりして大笑いの曲なのですが、「ぐんま、ちば、さいたま、ねりま」のドンドコドンド
コも「都会のハラジュク」のローラ族も両方ダサイのでさらに笑えるのでした。今回なぜ
ザ・ナンバー・ワン・バンドと《東京街道録音》のことをクドクド書いたのかというと、
《東京街道録音》の元ネタとなったのが、おそらく今回紹介するジャックス(またはカデ
ッツ)の《ストランデッド・イン・ザ・ジャングル》という曲です。

《ストランデッド・イン・ザ・ジャングル》は、1956年のジャックス(またはカデッツ)
のヒット曲です。ザ・ナンバー・ワン・バンドの《東京街道録音》の説明は、そのまま《
ストランデッド・イン・ザ・ジャングル》にあてはまります。《ストランデッド・イン・
ザ・ジャングル》という曲も、最初は「オーオーオ、オーオ」という、いかにも人食い人
種でも出てきそうな土着的なリズムで始ります。このリズムにのせて歌詞がラップ調に歌
われた後、「バック・イン・ザ・ステイツ」というナレーションが入り「ベイビ、ベイビ
」とロックンロール調の楽しいリズムになって、また「バック・イン・ザ・ジャングル」
というナレーションで「オーオーオ、オーオ」となる変わった曲です。変わった曲である
にもかかわらず、R&Bチャートとポップ・チャートの両方でクロスオーヴァー・ヒット
しているから不思議です。

このような変わった曲やコミカルな要素を持った曲のことを、俗にノベルティ・ソングと
言います。ロックの世界でノヴェルティ・ソングというと、ビートルズも曲をレパートリ
ーに取り入れていたコースターズなどが思い浮かびますが、この曲を歌ったジャックス(
またはカデッツ)は、ノヴェルティ・ソングを歌うときとバラードを歌うときでグループ
名を使い分けていたようです。ジャックスはバラードを歌う際に、カデッツはアップテン
ポのノヴェルティ・ソングを歌う際に使用していたということです。したがって《ストラ
ンデッド・イン・ザ・ジャングル》はカデッツ名義のヒット曲で、現在ではロックンロー
ル・クラシックの一つと言われています。遠い日本という国の一人の洋楽好きなおじさん
が、自分のアルバムでアイディアを取り入れるほどですから、やはりロックンロール・ク
ラシックといってよいのかも知れませんね。それにしても、変わったヒット曲です。

《 Stranded in the Jungle 》( The Cadets(The Jacks) )
cover

The Cadets(The Jacks) are
Austin "Ted" Taylor(first tennor), Aaron Collins(lead and second tenor),
Willie Davis(tennor), Will "Dub" Jones (lead and bass), Lloyd McGraw(baritone)

Written  by: Ernestine Smith, James Johnson & Al Curry
Released   : June , 1956
Charts     : POP#15, R&B#4
Label      : Modern

Appears on :Stranded in the Jungle
1.Stranded in the Jungle, 2.Lets Rock"N"Roll, 3.Fools Rush In, 4.My Clumsy Heart,
5.Annie Met Henry, 6.Rollin' Stone, 7.Don't Be Angry, 8.Hands Across the Table,
9.Smack Dap in the Middle, 10.Pretty Evey, 11.Love Can Do Most Anything,  
12.Baby Ya Know, 13.Love Bandit, 14.Why Did I Fall in Love,
15.Church Bells May Ring, 16.Car Crash, 17.Ring Chimes, 18.Heartbreak Hotel,  
19.Dancin' Dan, 20.Rum, Jamica Rum, 21.Don't, 22.I Got Loaded  
23.I'll Be Spinning, 24.Sugar Baby, 25.Stranded in the Jungle  


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