●センチメンタリズムがたまらないスタイル・カウンシル

このサイトでは、ぼくがこれまでに聴いた音楽の中で、衝撃や感動を覚えた音楽について
主に書いている。それらの中には衝撃や感動というと少しおおげさかもしれないが、気持
ちよいグルーヴ感(快感)を与えてくれる類の音楽もある。元ジャムのポール・ウェラー
が、オルガン弾きのミック・タルボットと組んだスタイル・カウンシルのやっていた音楽
もその一つだ。ジャムはイギリスのパンク・ムーヴメントの中から出てきたバンドの一つ
だったので、ポップなスタイル・カウンシルへのウェラーの音楽的方向転換は、ジャムの
ファンにとってはショッキングだったらしい。それほどスタイル・カウンシルの音楽は、
”パンク”という言葉からイメージする音楽からは異なっていた。実際に、軟弱な音楽と
揶揄されたこともあるようだ。ぼくの当時の感覚では全くそんなことはなく、ただただ「
なんてカッコイイ音楽を創ったのだろう」と思ったものである。

スタイル・カウンシルの音楽は、R&Bやソウル・ミュージックの影響が云々されること
が多い。ぼくは、言われるほどR&Bやソウルの影響を感じない。彼らの音楽についてR
&Bやソウルの影響を言うならば、同時にジャズ、ボサ・ノヴァ、ラテン、スカなどの影
響も言わねばならないだろう。つまりスタイル・カウンシル(とくにウェラー)は、これ
らの様々な音楽スタイルを一度自分の中で消化した後に、楽曲という形に創り上げている
と考える。だから表面的な部分から様々な音楽スタイルの影響を聴き取ることは可能でも
、もろにそのスタイルの音楽になってしまうわけではない。ウェラーと同じくパンクから
出てきたバンドの一つのポリス出身のスティングが、ブランフォード・マルサリスといっ
た当時のジャズの新世代のミュージシャン達を自身のバンドに起用して、ジャズ的要素の
濃い音楽を創り上げていたことと対比させて考えてみるとちょっと面白い。

しかしそのような興味深い音楽を創っていたスタイル・カウンシルが輝いていた時期は、
実際はほんのわずかだ。活動期間は1983年から1990年の7年間であるが、最初の3年間で
彼等はピークを迎えたと考える。シングル発売中心に活動を開始したスタイル・カウンシ
ルが、ファースト・アルバム『カフェ・ブリュ』をリリースしたのは1984年。日本でも、
いまでは死語となったカフェ・バー・ブームやデザイナーズ・ブランド・ブームと相まっ
て、注目されたのを思い出す(紺のブレザーにボーダ柄のセータとチノパンをあわせ、足
元は素足にコイン・ローファーといった彼等のファッション・センスは、お洒落に敏感な
イギリスのミュージシャンの中でも抜群だった)。続いてセカンド『アワ・フェバリット
・ショップ』をリリースするのが1985年。スタイル・カウンシルの傑作は、この2枚のア
ルバムに殆ど入っていると言っても過言ではない。

そんな彼等のオイシイところを手軽に味わえるのが、3作目のライヴ・アルバム『ホーム
・アンド・アブロード』だ。CDで発売されたときは《アワ・フェイヴァリット・ショッ
プ》と《ビッグ・ボス・グルーヴ》がボーナス収録されていたが、下記がオリジナルの曲
順である。『カフェ・ブリュ』から3曲、『アワ・フェバリット・ショップ』から6曲が
収録されたそれまでのベスト的な意味合いも濃いライブ盤だ。そのせいか一般的な評価は
極端に低い。しかしこのアルバムは、ファーストとセカンド・アルバムの名曲が、グルー
ヴ感溢れる素場らしいライヴ・アレンジで堪能できる。セカンドの『アワ・フェバリット
・ショップ』が全英1位をとったばかりだったせいか、演奏の勢いが凄い。オシャレなギ
ター・カッティングとホーン・セクションがカッコいい1曲目の《マイ・エヴァー・チェ
ンジング・ムーズ》から、ウズウズと身体が踊り出したくなってしまうのである。

この曲や《ウォールズ・カム・タンブリング・ダウン》などのアップ・テンポでソフィス
ティケートされたポップ・ナンバーは、スタイル・カウンシルの音楽の魅力的な部分だ。
しかし『ホーム・アンド・アブロード』を聴いて感じるのは、ウェラーが様々な音楽スタ
イルを上手に消化した優れたソングライター、アレンジャーであるということである。ウ
ェラーの書く曲の良さこそが、スタイル・カウンシルの一番の魅力なのだ。ポップでオシ
ャレでカッコイイ音楽をやりつつも、3曲目の《ヘッドスタート・フォー・ハッピネス》
のコード進行や4曲目の《コール・ミー》のメロディなどでふと顔を覗かせるセンチメン
タルな部分。このような部分に、ぼくはグッときてしまうのである。CD時代の現在では
下記のソング・ライン・アップでは時間的に物足りないのかもしれないが、ぜひオリジナ
ルで再発してほしい。魅力的なライヴ・アルバムであることは、間違いないからだ。

『 Home & Abroad 』( The Style Council )
cover
1.My Ever Changing Moods, 2.Lodgers, 3.Headstart for Happiness
4.(When You) Call Me, 5.Whole Point of No Return  
6.With Everything to Lose, 7.Homebreakers, 8.Shout to the Top!
9.Walls Come Tumbling Down!, 10.Internationalists

The Style Council:Paul Weller(vo,elg), Mick Talbot(key,vo)
Steve White(ds),Dee.C.Lee(vo),
Camille Hinds, Helen Turner, Steve Sidelnyk, Billy Chapman, Stuart Prosser, 
Chris Lawrence, Guy Baker, Mike Mower

Label    : Polydor
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