●クラブ・モザンビークのグラント・グリーン

ブルーノートから、グラント・グリーンの未発表ライヴ・レコーディングが発売された。
グリーンがブルーノートに復帰した後の、1971年のライヴだ。これだけで、ぼくと同じよ
うにグラント・グリーンの音楽を熱烈に愛する人は食指が動くのではないか。なにしろ別
のレコード会社から古巣のレコード会社のブルーノートに帰ってきたグリーンの凄さとい
ったら、それはもう筆舌に尽くしがたいものがあるのである。ダンサンブルでファンキー
なこの時期のグリーンの音楽は、一度触れた人を虜にしてしまうような魅力を持っている
のだ。ぼくも一度出会って以来、ひと目惚れである(一聴惚れか)。このときのライヴ・
セッションは、ブルーノートのディスコグラフィなどで存在は知られていた。発表を待ち
望んでいた熱心なグリーンのファンも多いだろう。レコーディングが行われてから35年、
満を持してのリリースなのである。

ライヴ・レコーディングが行われた場所は、スティーヴィー・ワンダーやマーヴィン・ゲ
イでお馴染みのモータウン・レコードのお膝元、デトロイトにあったというクラブ・モザ
ンビークというところである。ファンク・ジャズ好きには、ピンとくる名前であろう。な
にしろクラブ・モザンビークと言えば、現在ではターバンを巻いたオルガン親父と化した
ロニー・スミスがホーム・グラウンドとしていた場所である(スミスのモザンビークでの
ライヴも発掘されて発表されている)。グリーンも当時はデトロイトを拠点にしていたら
しい。クラブ・モザンビークにグリーンが出演したのは1971年1月。サックスにはクラレ
ンス・トーマス(よく知らない人だ)と、ミスター・アンダーグラウンド・ソウルのヒュ
ーストン・パーソン。ドラムスは数々のソウル・ジャズを支えたイードリス・ムハマッド
、オルガンには当時弱冠20歳のロニー・フォスター青年という布陣での演奏である。

この布陣でぶちかましているのが、当時のR&Bのヒット曲だ。プロデューサーのフラン
シス・ウルフとグリーンは、これらのヒット・ナンバーを予め準備してライヴ録音に望ん
だと思われる。アルバムに収録された各曲が、きっちりとアレンジされている点がそれを
裏付けていると思う。ディスコグラフィーを見ても、同じナンバーを一日のライヴで何回
も演奏している。この方式は、ミュージシャンがノってきたときの最も良い演奏をアルバ
ムに収録するために、アルフレッド・ライオンの時代からブルーノートがとっていたライ
ヴ盤の制作方法だ。ライオン引退後にブルーノートを引き継いだ盟友ウルフは、ライオン
がとっていた手法を踏襲して、これまた古い付き合いのグリーンのライヴに備えたと思わ
れる。それほど周到な準備をしたレコーディングが、なぜ35年もの間お蔵入りしていたの
か。アルバムを聴いてみると、その答えもまた演奏の中にあるような気がする。

1曲目の《ジャン・ジャン》は、傑作ライヴ『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』でも
お馴染みのナンバーだ。クラブ・モザンビークのあるデトロイト出身のファンク・グルー
プ、ファブラス・カウンツの1969年のヒット曲である(作者の”M. DAVIS”は、ファブラ
ス・カウンツのオルガニストのモーズ・デイヴィス)。”トイタ、トイタ”という、グリ
ーンお得意のファンキーなフレーズが炸裂する。しかし、イキそうでイカない。客のノリ
も、”ライトハウス”とは違って静かである。もしかすると、関係者しかいなかったのか
も知れないな。実際の演奏順とは異なるが、2曲目の《ファリド》から4曲目のバート・
バカラックとハル・デヴィッドの黄金コンビが書いたディオンヌ・ワーウィックのヒット
曲《ウォーク・オン・バイ》までは、瞬間的にはイキそうになるがイカないのだ。この演
奏の出来が、アルバムをお蔵入りにした原因ではないのか。

でもスパイラル・ステアケースの一発ヒット《モア・トゥデイ・ザン・イエスタデイ》か
ら、アルバムはクライマックスに向かう。ジャクソン5の《ワン・モア・チャンス》、サ
ザン・ソウルのクラレンス・カーターの《パッチス》、ディスコ時代に《ディスコ・レデ
ィ》で有名になるジョニー・テイラーの《アイ・アム・サムバディ》と続く黒人専門ラジ
オ局の選曲リストのようなナンバーを聴くと、グリーンのギターはこうしたヒット曲のシ
ンガーと同じなのだと思えてくる。その意味でこのアルバムの最高の演奏は、《ワン・モ
ア・チャンス》だ。シングル・トーンのリフだけで、これだけの味わいをだせる人が他に
いるか。ソロに入ってからの見事な構成力。ジャクソン5のマイケル(もちろん、あのマ
イケル・ジャクソンのこと)が、自由に歌っているようなフィーリング。この演奏だけで
、アルバムを買う価値は十分にある。ああ、このシングル・トーン、たまらないのである。

『 LIve At Club Mozambique 』( Grant Green )
cover
1.Jan Jan, 2.Farid, 3.Bottom Of The Barrel, 4.Walk On By,
5.More Today Than Yesterday, 6.One More Chance, 7.Patches, 8.I Am Somebody  


Produced : Francis Wolf
Recorded : January 6 & 7, 1971 at Club Mozambique, Detroit, MI
Label    : Blue Note
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