●ロックへの旅:ハウンド・ドッグ/ドント・ビー・クルエル
    (エルヴィス・プレスリー:1956)

今回のロックへの旅は、またまた登場のエルヴィス・プレスリーです。「いやに何回もで
てくる人だなぁー」という感想をもたれるかもしれませんが、それも無理はありません。
なにしろエルヴィスは、「ロックン・ロールのビッグ・バン」(byボノ:U2)と呼ば
れているくらいの人なのです。ジョン・レノンをはじめ、多くの人が憧れたなの人です。
ロックン・ロールという言葉や、ロックン・ロールと呼ばれることになる音楽は、エルヴ
ィスの登場以前から確かに存在していました。ジャンプ・ブルース、ブギウギ・ピアノ、
カントリー。エルヴィス登場以前のこれらの音楽からも、ロックン・ロールの要素を聴き
とることは可能です。しかしそれらが正真正銘のロックン・ロールと成りえた大きな要因
の一つが、エルヴィスの登場といってよいと思います。ロックン・ロールの歴史に、エル
ヴィスを欠かすことはできません。したがって、必然的に登場回数も多くなるのです。

今回紹介するのは、1956年7月にリリースされた大手レコード会社RCAからの3枚目の
シングル《ハウンド・ドッグ》と《ドント・ビー・クルエル(邦題:冷たくしないで)》
です。これはなかなか強力なシングルです。《ハウンド・ドッグ》も《冷たくしないで》
もエルヴィスの生涯を通じての代表曲となりましたが、その代表曲どうしがカップリング
されているのです。CD時代の現在ではイメージしにくいかも知れませんが、裏表のある
アナログ・レコードでは両A面扱いでした。レコーディングが行われたのは、1956年7月
2日。リリースは、レコーディングから間もない7月13日。驚くべきスピード・リリース
です。1956年の7月は、まだ前作の《アイ・ウォント・ユー、アイ・ニード・ユー、アイ
・ラヴ・ユー》が1位を獲得していた時期でした。人気が高まっていたとはいえ、なぜそ
んなにリリースを急いだのか少し疑問が生じます。

それには、次のような理由が考えられます。エルヴィスは、1956年1月から全米向けネッ
トワークのテレビに出演しはじめます。そして6月に、2回目(そして最後)の出演とな
った人気番組「ミルトン・バール・ショー」で《ハウンド・ドッグ》を披露しています。
レコーディングの1ヶ月ほど前のことです。このときの《ハウンド・ドッグ》のパフォー
マンスはDVDなどで観ることができますが、いま観ても十分に衝撃的です。エルヴィス
が先天的に持っていた、暴力性や性の匂いがぷんぷんしてくる最高のパフォーマンスなの
です。しかし当時のアメリカの大人社会からは顰蹙をかい、エルヴィスを放送したバール
には抗議の電話が殺到したと言われています。エルヴィスのマネージ側は、逆にこれを好
機と捉えたのでしょう。早くからのレパートリーだったという《ハウンド・ドッグ》をこ
の時期にリリースしたのは、テレビによるエルヴィスへの注目があったのだと思います。

そのような裏事情があったと思われる《ハウンド・ドッグ》ですが、結論的にいうとレコ
ーディングされてリリースされたヴァージョンは、「ミルトン・バール・ショー」におけ
るライヴ・パフォーマンスと比較してしまうと、ぼくにはやや大人しく聴こえてしまいま
す。リリースされたスタジオ・ヴァージョンは、ジョーダネアーズという4人組のコーラ
スが入っているため、ややポップな仕上がりです。しかし「ミルトン・バール・ショー」
のライヴ・パフォーマンスは、ロックン・ロールそのものです。エルヴィスの、”どぅぉ
ーにも止まらない”ような身体(とくに腰から下)の動きと、ふてぶてしいまでの表情は
、70年代のパンク・ロッカーでさえ裸足で逃げ出すでしょう。とくに、スローになってか
らは最高です(リリース・ヴァージョンにはこのパートはない)。この《ハウンド・ドッ
グ》こそ、ロックン・ローラーとしてのエルヴィスの魅力を捉えていると思うのです。

リリースされたシングル盤のほうは、むしろ《冷たくしないで》のほうが、その後のエル
ヴィスにとっての重要なステップを捉えた曲なのではないかとぼくは思います。オーティ
ス・ブラックウェル(エルヴィスに歌ってもらいたかったオーティスは曲の権利の半分を
エルヴィスに譲ったため、クレジットはエルヴィスとの共作となっている)が作った《冷
たくしないで》は、ロックンロール、ドゥ・ワップ、カントリーをミックスしたような軽
快でポップな曲です。エルヴィスも、すぐに気に入ったと言われています(生涯に渡って
歌いつづけたのだから、間違いなく気に入っていた曲でしょう)。エルヴィスが、ただの
下品で熱狂的なだけのロックンローラーではないことを、この曲は証明しています。《冷
たくしないで》のようなポップな曲を歌いこなす力を持っていたからこそ、エルヴィスは
今日に到る大衆的な人気をもちえたとぼくは思うのです。

《 Hound Dog / Don't Be Cruel 》( Elvis Presley )
cover

Elvis Presley(vo, g)
Scotty Moore(elg), Bill Black(b), D.J.Fontana(ds), Shorty Long(p),
The Jordanaires(Gordon Stoker,Hoyt Hawkins,Neal Matthews and Hugh Jarrett)(cho)

Written  by: Jeryy Leiber / Mike Stoller(Hound Dog) 
             Otis Blackwell(Don't Be Cruel)
Produced by: Steve Sholes
Recorded   : July  2,1956
Released   : July 13,1956
Charts     : POP#1, R&B#1
Label      : RCA

Appears on :Elvis 56
1.Heartbreak Hotel, 2.My Baby Left Me, 3.Blue Suede Shoes, 4.So Glad You're Mine
5.Tutti Frutti, 6.One-Sided Love Affair, 7.Love Me, 8.Anyplace Is Paradise
9.Paralyzed, 10.Ready Teddy, 11.Too Much, 12.Hound Dog
13.Any Way You Want Me (That's How I Will Be), 14.Don't Be Cruel
15.Lawdy Miss Clawdy, 16.Shake, Rattle & Roll [Alternate Take 8]
17.I Want You, I Need You, I Love You, 18.Rip It Up
19.Heartbreak Hotel [Alternate Take], 20.I Got a Woman, 
21.I Was the One, 22.Money Honey


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