●ロックへの旅:イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト
    (ザ・ファイヴ・サテンズ:1956)

さてさて月に1回やってくる今回のロックへの旅は、ドゥ・ワップのオール・タイム・ベ
ストと言われている、ファイヴ・サテンズの《イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト》
という曲を紹介しましょう。この曲は、グループのメイン・ヴォーカリストのフレッド・
パリスが、ガール・フレンドとの甘い一夜を想いながら書いたと言われている切ないラヴ
・ソングです。ファイヴ・サテンズがこの曲をレコーディングしたのは、グループ結成の
翌年にあたる1955年。レコーディングは、経済的な事情でグループの地元であるコネティ
カット州のニュー・ヘヴンというところにある教会でレコーディングされたそうです。そ
してスタンダード・レコードというところから、グループの最初のシングルとして1956年
2月に発売されました。ヒットしたのは、同じ年にエンバーというレコード会社から再リ
リースされたシングルで、R&Bチャートで大ヒット(3位)を記録しています。

この曲はポップ・チャートでもヒットとなり、現在ではドゥ・ワップを代表する傑作とま
で言われていますが、当人達はこの曲についてもっと軽く考えていたのではないかと思わ
れるフシがあります。まず作者のパリスですが、この曲がヒットしたときはグループから
離れて兵役についていたそうです。しかもハリスが当時駐留していたのは、祖国から遠く
離れたわが日本。最初のシングルを出したその年に、グループから離れて兵役についてい
るなんて。アメリカの兵役制度も関係してはいるのでしょうが、もしかするとパリス自身
も、この曲がヒットするとは思っていなかったのかもしれません。レコード会社側も同様
で、ヒットしたのは(おそらく)音源を買い取ったエンバーが再発売したシングルだった
ことからも、最初のレコード会社はグループにあまり期待を寄せてはいなかったのではな
いかと想像できます。

この曲には、さらに興味深い部分があります。それは、この曲の曲調です。ぼくはこの曲
を初めて聴いたとき、「なんだこれは、内山田洋とクールファイヴではないか」と思いま
した。冒頭の「シュドゥ、シュビドゥ」というコーラス部分が、クールファイヴのヒット
曲《長崎は今日も雨だった》のコーラス「シュドゥビ、ドゥワー」と瓜二つだったからで
す。おそらく40歳以上の日本人は、みな同様の感想をもつのではないでしょうか。間奏の
サックスなんて、ムード歌謡そのものです。日本に駐留中の作者のパリスは、祖国でレコ
ーディングしたばかりのこの曲とガール・フレンド恋しさに、日夜、米軍キャンプ内のク
ラブでこの曲歌っていた。それを当時キャンプ周りをしていたキャバレー・バンド時代の
クールファイヴが聞いて、後の自分達の曲のコーラス部分に採用した。というのは勝手な
想像ですが、この曲が日本のムード歌謡に影響を与えているのは間違いないと思います。

そのようなムード歌謡的曲調の《イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト》ですが、基本
は”タタタ、タタタ”という3連ロッカ・バラードであり、そして間奏で出てくる「ドゥ
ワッ、ドゥドゥワ(ップ)」というそのものズバリのコーラスが示しているとおり、ドゥ
・ワップの傑作でもあることは間違いありません。フレッド・パリスの伸びやかなリード
・テナーで歌われる歌詞とメロディを聴いていると、やはりキュンと切なくなるような胸
にくるものがあります。ドリス・ディやパティ・ペイジの時代でもあったのどかな1950年
代に、この曲をラジオで聴いたアメリカ若者達にとっては、誰もが感じるであろう普遍的
な切ない気持ちを歌ったこの曲に、なおさら胸にくるものがあったのではないかと想像し
ます。そのような思い出が、いまでもアメリカのオールディーズ専門のラジオ番組でリク
エストの上位にランクされるというこの曲の人気を支えているのでしょう。

1950年代にティーン・エイジャーであった、われらがビーチ・ボーイズのメンバーも、上
述したような感情をこの曲にもっていたのかも知れません。ビーチ・ボーイズは、1976年
にリリースした久ぶりのブライアン・ウィルソンの全面プロデュースによる結成15周年ア
ルバム『15ビッグ・ワンズ』で、この曲をカヴァーしています。オリジナルの曲調を踏襲
したアレンジは、ブライアンによるもの。リード・ヴォーカルは、いま流行りの”ちょい
悪オヤジ”なんて遥か彼方にブッとぶロック界きってのプレイボーイのデニス・ウィルソ
ンがとっています。デニスがユーモアを交えながら、男臭くもセンチメンタルに歌うビー
チ・ボーイズ・ヴァージョンの《イン・ザ・スティル・オブ・ザ・ナイト》も、これまた
たまらないのです。オリジナルのファイヴ・サテンズ・ヴァージョンと聴く比べをしてみ
るのも、また面白いでしょう。

《 In The Still Of The Night 》( The Five Satins )
cover

The Five Satins
Fred Parris,Al Denby,Jim Freeman,Eddie Martin and Jessie Murphy(p)

Written  by: Fred Parris
Produced by: Fred Parris (maybe)
Recorded   : 1955
Released   : February, 1956 (re-released June,1956)
Charts     : POP#25, R&B#3
Label      : Ember

Appears on :Original Master Tapes Collection 1
1.In The Still Of The Night, 2.Wonderful Girl, 3.Oh Happy Day, 4.Moonlight And I, 
5.All Mine, 6.Weeping Willow, 7.When The Swallows Come Back To Capistrano,
8.Our Love Is Forever, 9.The Jones Girl, 10.Baby Face, 11.Rose Mary, 
12.Please Be Mine Tonight, 13.Skippity Doo, 14.Again, 
15.When Your Love Comes Along, 16.Sugar, 17.A Night To Remember, 18.Shadows,
19.Wishing Ring, 20.I've Lost, 21.Candlelight, 22.I'll Be Seeing You  


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