●『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』

ビーチ・ボーイズは、ビートルズやストーンズと同じ位に評価されてよいバンドなのだが
、いまだに”サーフィン・バンド”というイメージと偏見が多いようで、ぼくのまわりで
もその活動の全般にわたって聴いている人は意外と少ない。理由はなんとなくわかる。ビ
ートルズの場合、多様な音楽性はシングル曲にも表れているので、ベスト盤からも十分に
全容が伝わってくる。しかしビーチ・ボーイズの場合、ベスト盤では似たり寄ったりのシ
ングル・ヒット曲の寄せ集めになってしまうのだ。アルバムのみに収録された珠玉の名曲
や傑作が抜け落ちてしまうのである。本当は多様で物凄い音楽性を持っているグループな
のだが、それを正確に伝えるにはベスト盤の1枚や2枚では足りないのである。そこで『グ
ッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』だ。少し値段ははるが、このボックス・セット
はビーチ・ボーイズの多様な音楽性のトビラを初めて開ける人に最適なのである。

”マニア向け”などと『グッド・ヴァイブレーションズ・ボックス』は言われているが、
ビーチ・ボーイズ初心者に最適だとぼくは思っているのだ。このボックス・セットは、ベ
スト盤では知ることのできないビーチ・ボーイズの多様な音楽性を、ほぼ全般的に網羅し
ているのである。《ガールズ・オン・ザ・ビーチ》、《キス・ミー・ベイビー》、《レッ
ト・ヒム・ラン・ワイルド》などいくつかの傑作は落ちているが、それらの曲との出会い
はこのボックス・セットでビーチ・ボーイズの世界の全体概要を理解した後からでも遅く
はない。ディスク1から4までを聴けば、ビーチ・ボーイズというグループが、リーダー
のブライアン・ウィルソンを中心にしてどのような音楽を創ってきたのかがわかる。その
深遠な世界を持つ音楽が、単なる”サーフィン・バンド”などという言葉で片付けること
ができないことは、このボックスを聴けば誰にでもすぐに理解できると思うのである。

ディスク1は、サーフィン/ホット・ロッド・グループとしての、ビーチ・ボーイズの魅
力が詰まっている。テレビのバラエティ番組で”海”や”サーフィン”がとりあげられた
ときにBGMでかかるような、みんなが知っているビーチ・ボーイズの音楽はこの時代の
ものだ。ティーン・エイジャーの日常をテーマにした、軽快なロックンロールである。同
じ白人によるロックンロールでも、エルヴィスのような暴力的な匂いはない。少し乱暴だ
が、いかにもカリフォルニアの若者気質の軽快なロックンロールに、フォー・フレッシュ
マンの大きな影響だというハーモニー(50年代に流行したドゥ・ワップの香りもする)を
加えると、この時期のビーチ・ボーイズの音楽になる。しかし軽快な楽曲とは裏腹のメラ
ンコリックな部分もあり、そこに気がつくと一層魅力を増すのがこの時期の音楽だ。美し
すぎる名曲《プリーズ・レット・ミー・ワンダー》で、それを体感してほしい。

ディスク2は、90年代にビーチ・ボーイズの音楽が再発見され、ブライアン・ウィルソン
が若い世代にとって伝説となった時期の音源がならぶ。ブライアン初来日のコンサートの
オープニング・ナンバーとなった《リトル・ガール・アイ・ワンス・ニュー》から、軽快
なロックンロールや美しいバラードとは異なる妙な感じを実感できるはずだ。そして尋常
ではない美しさを持つ傑作アルバム『ペット・サウンズ』の収録曲を経て、このボックス
・セットでついに公式に陽の目をみた伝説の未発表アルバム『スマイル』の楽曲へとつな
がっていく。ディスク1だけがビーチ・ボーイズの世界と思っていた人が初めてこのディ
スクの楽曲を聴いたら、サーフィンなどとは全く関係ないあまりのイメージの違いにショ
ックを受けるのではないか。しかしブライアンの創り上げたスピリチュアルなこの時期の
音楽は、初めて聴く人にもかならずなんらかの刺激的な感情を与えるはずである。

それでもディスク1と2は、”サーフィン・バンド”あるいは『ペット・サウンズ』に代
表される伝説的なバンドとしての、ある程度世間に知られたビーチ・ボーイズの音楽であ
る。それらとは異なる世界もあることを、ディスク3と4およびボーナス・ディスクの曲
は伝えているのだ。実際ぼくは、このボックス・セットをきっかけに、驚くほど多様な音
楽性をもっているビーチ・ボーイズの音楽の深さを知ったのである。名盤『フレンズ』に
代表される穏やかな音楽、メンバー主体のヴォーカル曲など、サーフィンや『ペット・サ
ウンズ』だけではない魅力的な楽曲群が満載なのだ。それらが、アルバム単位と異なった
まとまりで聴けるので、よりビーチ・ボーイズの音楽の多様性がわかりやすくなっている
のである。ベストで聴けるような曲以外の必聴の曲は、下記青色部分だ。ぜひまとめて聴
いて、深遠なビーチ・ボーイズの音楽の世界へ足を踏み入れてみてほしい。

『 Good Vibrations: Thirty Years Of The Beach Boys 』( The Beach Boys )
cover

Disk1:
1.Surfin' U.S.A.[Demo Version], 2.Little Surfer Girl, 3.Surfin',
4.Surfin' [Rehearsal], 5.Their Hearts Were Full of Spring [Demo Version],
6.Surfin' Safari, 7.409, 8.Punchline [Instrumental], 9.Surfin' U.S.A.,
10.Shut Down, 11.Surfer Girl, 12.Little Deuce Coupe, 13.In My Room, 
14.Catch a Wave, 15.Surfer Moon, 16.Be True to Your School, 
17.Spirit of America, 18.Little Saint Nick, 19.Things We Did Last Summer,
20.Fun, Fun, Fun, 21.Don't Worry Baby, 22.Why Do Fools Fall in Love?, 
23.Warmth of the Sun, 24.I Get Around, 25.All Summer Long, 26.Little Honda,
27.Wendy, 28.Don't Back Down, 29.Do You Wanna Dance, 
30.When I Grow Up (To Be a Man), 31.Dance, Dance, Dance, 
32.Please Let Me Wonder, 33.She Knows Me Too Well, 34.Radio Station Jingles,
35.Hushabye {Plus Concert Promo} [Live]   

Disk2:
1.California Girls, 2.Help Me, Rhonda, 3.Then I Kissed Her
4.And Your Dream Comes True, 5.Little Girl I Once Knew [45 Version],
6.Barbara Ann [45 Version], 7.Ruby Baby, 8.Kona Coast [Radio Promo Spot] ,
9.Sloop John B, 10.Wouldn't It Be Nice, 11.You Still Believe in Me,
12.God Only Knows, 13.Hang on to Your Ego, 
14.I Just Wasn't Made for These Times, 15.Pet Sounds, 16.Caroline No,
17.Good Vibrations [45 Version], 18.Our Prayer, 
19.Heroes and Villains [Alternate Version], 20.Heroes and Villains (Sections),
21.Wonderful, 22.Cabin Essence, 23.Wind Chimes, 24.Heroes and Villains (Intro),
25.Do You Like Worms, 26.Vegetables, 27.I Love to Say Da Da, 28.Surf's Up
29.With Me Tonight

Disk3: 
1.Heroes and Villains [45 Version], 2.Darlin', 3.Wild Honey, 
4.Let the Wind Blow, 5.Can't Wait Too Long, 6.Cool, Cool Water,
7.Meant for You, 8.Friends, 9.Little Bird, 10.Busy Doin' Nothin',
11.Do It Again, 12.I Can Hear Music, 13.I Went to Sleep, 14.Time to Get Alone, 
15.Break Away, 16.Cotton Fields (The Cotton Song) [45 Version], 17.San Miguel,
18.Games Two Can Play, 19.I Just Got My Pay,
20.This Whole World, 21.Add Some Music to Your Day, 22.Forever, 23.Our Sweet Love,
24.H.E.L.P.Is on the Way, 25.4th of July, 26.Long Promised Road, 
27.Disney Girls (1957), 28.Surf's Up, 29.'Til I Die

Disk4:
1.Sail on Sailor, 2.California, 3.Trader, 4.Funky Pretty, 5.Fairy Tale Music,
6.You Need a Mess of Help to Stand Alone, 7.Marcella, 8.All This Is That,
9.Rock & Roll Music, 10.It's O.K., 11.Had to Phone Ya, 12.That Same Song,
13.It's Over Now, 14.Still I Dream of It, 15.Let Us Go on This Way, 
16.Night Was So Young, 17.I'll Bet He's Nice, 18.Airplane,
19.Come Go with Me, 20.Our Team, 21.Baby Blue, 22.Good Timin', 23.Goin' On,
24.Getcha Back, 25.Kokomo   

Disk5:
1.In My Room [Demo Version], 2.Radio Spot #1, 3.I Get Around [Track Only],
4.Radio Spot #2, 5.Dance, Dance, Dance [Tracking Session],
6.Hang on to Your Ego [Sessions], 7.God Only Knows [Tracking Session], 
8.Good Vibrations [Sessions], 9.Heroes and Villains [Track Only],
10.Cabin Essence [Track Only], 11.Surf's Up [Track Only], 12.Radio Spot #3, 
13.All Summer Long [Vocals], 14.Wendy [Vocals], 15.Hushabye [Vocals], 
16.When I Grow Up (To Be a Man) [Vocals], 17.Wouldn't It Be Nice [Vocals],
18.California Girls [Vocals], 19.Radio Spot #4,
20.Concert Intro/Surfin' U.S.A.[Live 1964], 21.Surfer Girl [Live 1964],
22.Be True to Your School [Live 1964], 23.Good Vibrations [Live 1966], 
24. Surfer Girl [Live in Hawaii Rehearsals 1967]

+ Bonus Disk

Disk6:
1.Bluebirds Over The Mountain, 2.Tears In The Morning, 3.Here Comes The Night,
4.Lady Linda, 5.Sumahama

The Beach Boys are
Brian Wilson, Dennis Wilson, Carl Wilson, Mike Love, Al Jardine,
Bluce Johnston, David Marks,
Blondie Chaplin, Ricky Fattar

Compilation Produced by Mark Linett, David Leaf & Andy Paley
Label : Capitol
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