●ロックへの旅:アイ・ウォント・ユー、アイ・ニード・ユー、アイ・ラヴ・ユー
    (エルヴィス・プレスリー:1956)

さてさて今回のロックへの旅は、4回目の登場となるエルヴィス・プレスリーです。曲目
は、メジャー・デビューとなったRCAからの2枚目のシングル《アイ・ウォント・ユー
、アイ・ニード・ユー、アイ・ラヴ・ユー》。1956年の5月に発売され、ちょうど50年前
の7月に全米1位を獲得した曲です。1956年のプレスリーとしては、《ハートブレイク・
ホテル》に続いて2回目の登場となります。何度も繰り返し言っておりますが、1956年の
チャートを見てみますと、この年は”プレスリーの年”であり、同時にロックンロールの
元年といっても過言ではありません。プレスリーの《ハートブレイク・ホテル》、リトル
・リチャードの《トゥッティ・フルッティ》、カール・パーキンスの《ブルー・スエード
・シューズ》、ジーン・ヴィンセントの《ビー・バップ・ア・ルーラ》など、毎月のよう
にロックンロールの傑作が生まれていたのですから、いやはやすごい年だったのですね。

そんな年にプレスリーが放った《アイ・ウォント・ユー、アイ・ニード・ユー、アイ・ラ
ヴ・ユー》は、ロックンロールというよりロッカ・バラード調の曲です。ところでこの曲
、今年はひょんなことからマスコミでとりあげられる機会が多かったのを覚えておいでで
しょうか。プレスリー・ファンを公言して憚らない我が国の総理大臣が、一番好きなプレ
スリーの曲として、この曲をあげていたからです。今年の総理のアメリカ訪問では、つい
にグレイス・ランド(プレスリーが住んでいた家)訪問が実現し、こともあろうに外交関
係までこの曲に例えるなど、いくらファンでもやりすぎではと感じられる場面も多々あり
ました。総理の外交パフォーマンスは?でしたが、総理はこの曲を好きな理由を尋ねられ
たとき「初めてラジオから流れてきたこの曲を聴いて、”何なんだこれは!”と思った」
と言っていました。ぼくには、この発言だけは納得できるリアルさがありました。

この総理の発言は、まさに《アイ・ウォント・ユー、アイ・ニード・ユー、アイ・ラヴ・
ユー》という曲におけるプレスリーのパフォーマンスの特徴を、うまく言い当てていると
思います。ぼくがこの曲を初めて聴いたときにいだいた感情も、似たようなものでした。
先にあげたように、曲調は甘めの”ダダダ、ダダダ”というロッカ・バラードです。しか
し、冒頭からプレスリーがいきなり「ホォォミ、クローズ」と迫ってきます。そのセクシ
ャルで猥雑な感じは、PTAが最近眉をひそめるという人気芸人レイザー・ラモンHGの
比ではありません。まさに「何なんだこれは!」です。当時のアメリカ南部などで、ロッ
クンロールを低俗かつ猥雑なものとして撲滅しようという動きがあったことはニュース映
像などで知られていますが、そのような規制を行いたくなるような脅威を大人社会が感じ
たというのも理解できる気がします。それほど、この曲のプレスリーは”強烈”です。

プレスリーは、《ハートブレイク・ホテル》で掴んだ自らの歌い方を、この曲でさらにイ
ンパクトのあるものに高めました。当時人気が頂点に達しようとしていたプレスリーは、
日ごとに高まっていく人気を実感して自信も深まっていたのでしょう。ふてぶてしささえ
感じるその歌い方は、プレスリーが、ただのメンフィスのアマチュア・シンガーからプロ
フェッショナルの歌手という域に達したことを実感させます。最初に”ハート”という言
葉が歌詞に出てくるところを、「ハァァアァァァ」と伸ばして歌うところや、曲のタイト
ル部分を歌うところの声質のコントロールのしかたなどに、デビューしてからプレスリー
が得たテクニックが凝縮されている気がします。おそらくプレスリーの全パフォーマンス
の中でも、《アイ・ウォント・ユー、アイ・ニード・ユー、アイ・ラヴ・ユー》は最高の
部類に入るのではないでしょうか。

また面白い事に、この曲からはプラターズの大ヒット曲《オンリー・ユー》のエコーが感
じられます。同じロッカ・バラードの曲という、共通項によるものでしょうか。この曲の
レコーディング時のプレスリーを含めた関係者の頭の中には、なんとなく《オンリー・ユ
ー》の存在がチラついていたような気がします。”ジャジャジャ、ジャジャジャ”となる
イントロのギター、ドゥ・ワップを想起させるバック・コーラス(サビを繰り返すところ
では、モロにドゥ・ワップ調となる)、そして何よりもプラターズのリード・シンガーの
トニー・ウィリアムスを彷彿とさせるプレスリーのエモーショナルな歌い方に、ぼくは《
オンリー・ユー》のエコーを聴きとってしまうのです。しかし《オンリー・ユー》よりも
百倍エモーショナルで、かつセクシャルなプレスリーの歌は、これからもこの曲を初めて
聴く人全てに「何なんだこれは!」を思わせずにはいられないでしょう。

《 I Want You, I Need You, I Love You 》( Elvis Presley )
cover

Elvis Presley(vo)
Scotty Moore(elg), Bill Black(b), D.J.Fontana(ds), 
Chet Atkins(g), Marvin Huges(p)
Gordon Stoker, Ben Spear & Brock Spear(cho)

Written  by: Maurice Mysels, Ira Kosloff
Produced by: Steve Sholes
Recorded   : April 11,1956
Released   : May,1956
Charts     : POP#1, R&B#3
Label      : RCA

Appears on :Elvis Presley
1.Blue Suede Shoes, 2.I'm Counting On You, 3.I Got A Woman, 
4.One-Sided Love Affair, 5.I Love You Because, 6.Just Because
7.Tutti Frutti, 8.Trying To Get You
9.I'm Gonna Sit Right Down And Cry (Over You), 10.I'll Never Let You Go
11.Blue Moon, 12.Money Honey

+ Bonus Track

13.Heartbreak Hotel, 14.I Was The One, 15.Lawdy Miss Clawdy
16.Shake, Rattle And Roll, 17.My Baby Left Me
18.I Want You, I Need You, I Love You

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