●今年もコルトレーンが話しかける

ロックの世界では、毎年12月近くになるとジョン・レノン周辺がにわかに騒がしくなる。
ジョンが凶弾に倒れて亡くなったのが12月なので、追悼ライヴなどの行事が行われるため
だ。ジャズの世界にも、命日近辺がにわかに騒がしくなる”ジョン”が一人いる。ジョン
・コルトレーンが、その人だ。コルトレーンが亡くなったのは、1967年7月17日。この日
、もしくは近辺の日にちになると、かつては各地のジャズ喫茶でコルトレーン特集が組ま
れていた。ぼくもコルトレーンの音楽にどっぷりとつかっていた時期があったので、一度
だけ東京にあるジャズ喫茶のコルトレーン特集に参加したことがある。お盆にご先祖様を
偲ぶように、命日に一日中コルトレーンの音楽を浴びて、コルトレーンを偲ぶわけだ。考
えてみると、これは非常に日本的な音楽(ジャズ)の聴き方のような気がするな。その後
遺症か。この時期になると、ときどき無性にコルトレーンが聴きたくなるのである。

ジョン・コルトレーンは、1950年代半ばから亡くなる1967年まで活躍したサックス奏者で
ある。50年代半ばにマイルス・デイヴィスのクインテットのサックス奏者として抜擢され
て注目を集め、マイルスのグループを辞めたあとは、自己のグループで音楽的な冒険を推
し進めたミュージシャンだ。その影響力はジャズに留まらず、バーズのロジャー・マッギ
ンやサンタナなど、ロック・ミュージシャンにも大きな影響を与えている。いまからちょ
うど40年前の1966年7月には、ちょうど同時期に来日していたビートルズと入れ替わるよ
うに来日している。このときの来日で、コルトレーンは全国で16回ものコンサートを連続
して行った。このことから、亡くなる前年の日本でのコルトレーンの人気が、いかに高か
ったかがわかるであろう。各地のジャズ喫茶が7月に行うコルトレーン特集も、このとき
のコルトレーンの圧倒的な印象に端を発しているのかも知れない。

では今日にいたるまで聴かれ続けてきているコルトレーンの音楽とは、いったいどのよう
な音楽なのか。この問いに簡潔に答えるのは、意外と難しい。この問いに答えるのが難し
いのならば、「コルトレーンの音楽のどこに惹かれるるのか」と自問してみよう。コルト
レーンの音楽は、プレスティジ、アトランティック、インパルスという各レコード会社の
所属時代に大別される。このうちぼくが最も惹かれるのは、圧倒的にインパルス時代の作
品だ。おそらく、多くのコルトレーン愛好家も同じだと想像する。インパルス時代のコル
トレーンの音楽は、時間とともに複雑かつパワフルなものに変化していく。音楽がもつエ
ネルギーはハンパではなく、何かをしながら気軽に聴ける音楽ではない。だからといって
集中して聴いたとしても簡単に全てを理解できるような類の音楽でもなく、とても緻密な
音楽といえる。そしてその音楽のエネルギーは、確実にぼくの魂を揺さぶるのだ。

しかし、たまには気軽にコルトレーンを聴きたい。でも暑い日中に、長くて複雑でウルサ
イのはヤダ。だからといってプレスティジの《コートにすみれを》や、『バラード』を昼
間から聴く気にはなれない。《マイ・フェィヴァリット・シングス》も、チャルメラみた
いでヤダ。やはりインパルス時代が聴きたい。そのようなワガママな気分のときもある(
どんなときだ!)。そんなときに、ぴったりなアルバムがかつてあった。日本コロンビア
がインパルス時代のオムニバス盤に分散収録されていた音源を一まとめにした、『グリー
ニングス(邦題:拾遺)』というアルバムだ。『ザ・ディフィニティヴ・ジャズ・シーン
』のヴォリューム1から3、『ニュー・ウェイヴ・イン・ジャズ』という4枚のオムニバ
ス・アルバムに分散収録されていた音源と、アーチー・シェップとの共演盤に1曲だけ収
録されていたコルトレーンの演奏を1枚に納めたアルバムであった(現在廃盤)。

このアルバムに連続収録された《ビッグ・ニック》、《ヴィリア》、《ディア・オールド
・ストックホルム》の3曲が良いのだ。収録年月日は異なるのに、『グリーニングス』で
続けて聴くとオリジナル・アルバムのように違和感がない。《ビッグ・ニック》なんて、
『デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン』のヴァージョンや、同日に収録された
『コルトレーン』の《ジ・インチ・ワーム》よりイイのである。『ジョン・コルトレーン
・アンド・ジョニー・ハートマン』と同日録音の《ヴィリア》は、歌手であるハートマン
とのレコーディングの影響か、演奏全体に歌うような軽やかさがある。コルトレーンの音
楽には、不思議なことにこのような軽やかな側面もあるのだ。そして《ディア・オールド
・ストックホルム》は、その後のコルトレーンが向かう世界をコンパクトにしたような演
奏だ。軽やかな側面さえ持つコルトレーンの音楽は、やはり深く傾聴に値する音楽である。

『 The Classic Quartet: Complete Impulse! Studio Recordings 』( John Coltrane )
cover
『Gleanings』は、
 こんなジャケット
cover
いままとめて
聴くにはこの
BOXセットで

Disk1:
1.Greensleeves, 2.It's Easy to Remember, 3.The Inch Worm, 4.Big Nick
5.Out of This World, 6.Soul Eyes, 7.Miles' Mode, 8.Tunji
9.Nancy (With the Laughing Face), 10.What's New?, 11.Up 'Gainst the Wall
12.Too Young to Go Steady, 13.All or Nothing at All, 14.I Wish I Knew

Disk2:
1.You Don't Know What Love Is, 2.Say It (Over and Over Again), 3.Vilia
4.After the Rain, 5.Dear Old Stockholm, 6.Your Lady, 7.Alabama [Takes 4 & 5]
8.Lonnie's Lament, 9.Drum Thing, 10.Wise One

Disk3:
1.Crescent, 2.Bessie's Blues, 3.Love Supreme, Pt.1: Acknowledgement,
4.Love Supreme, Pt.2: Resolution, 5.Love Supreme, Pt.3: Pursuance
6.Love Supreme, Pt.4: Psalm, 7.Nature Boy [First Version]
8.Nature Boy, 9.Feeling Good, 10.Chim Chim Cheree

Disk4:
1.Brazilia, 2.Song of Praise, 3.After The Crescent, 4.Dear Lord
5.One Down, One Up, 6.Welcome, 7.Last Blues

Disk5:
1.Transition, 
2.Suite: Pt.1, Prayer and Meditation: Day/Pt.2, Peace and After/Pt.3,
3.Living Space, 4.Dusk Dawn

Disk6:
1.Vigil, 2.Dearly Beloved, 3.Attaining, 4.Sun Ship, 5.Ascent, 6.Amen

Disk7:
1.Love, 2.Compassion, 3.Joy, 4.Consequences, 5.Serenity
6.Joy [Second Version]

Disk8:
1.Crescent [First Version], 2.Bessie's Blues [First Version, Incomplete]
3.Song of Praise [First Version], 
4.Love Supreme, Pt.2: Resolution [Alternate Take]
5.Feeling Good [Alternate Take], 6.Dear Lord [Breakdowns & Alternate Take]
7.Living Space [Breakdown & Alternate Take]

JOHN COLTRANE(ts,ss),McCOY TYNER(p), JIMMY GARRISON(b), ELVIN JONES(ds)
《Dear Old Stockholm》: ROY HAYNES(ds) 

Label : Impulse
※上記のイメージをクリックすると、Amazonにて購入できます