●ロックへの旅:ビー・バップ・ア・ルーラ
    (ジーン・ヴィンセント:1956)

リトル・リチャードの《トゥッティ・フルッティ》、カール・パーキンスの《ブルー・ス
エード・シューズ》と同じく、1956年に生まれたもうひとつのロックンロールの傑作が,
ジーン・ヴィンセントの《ビー・バップ・ア・ルーラ》です。この少し変わったタイトル
を持つ曲は、ヴィンセントがオートバイ事故で入院していた病院で創った曲と言われてい
ます(ちなみにタイトルは、「リトル・ルル」という数コマの連載マンガからとったと言
われています)。ヴィンセントと共に作者としてクレジットされているシェリフ・テック
ス・デイヴィスという人物はラジオのDJで、この時代によくあった”ラジオで曲をかけ
る代わりに印税の分け前にあずかる”ためにクレジットされているだけです。実際の共作
者は、ヴィンセントと一緒に病院にいた海兵隊員のドン・グレーヴスという人らしく、一
説によればグレーヴスが歌詞を、ヴィンセントが曲を担当したと言われています。

《ビー・バップ・ア・ルーラ》は、”ズン、ズン、ズン”という重たい4ビートに、エコ
ーのたっぷりかかったヴィンセントのヴォーカルが印象的な曲です。ミドルの部分は、ザ
・ドリフターズ(カトちゃんや志村けんのいたグループではありませんよ)の1953年のヒ
ット《マネー・ハニー》から明らかにインスパイアされています。そのためにドゥワップ
・ロックンロールなどという人もいるようですが、ぼくはそのような印象は全く受けませ
ん。むしろ、それまでのジャンプ・ブルースやブギウギをベースにしたロックン・ロール
(ビッグ・ジョー・ターナー、ファッツ・ドミノ、リトル・リチャードなど)、カントリ
ーをベースにしたロックンロール(エルヴィス、チャック・ベリー、カール・パーキンス
など)といったロックンロールを順に聴いてくると、サウンド的には確実に新しさがある
と感じます。

それをもっとも感じるのが、クリフ・ギャラップによるギター・プレイです。エコーのせ
いもあるかもしれませんが、ひとことでいうとヘヴィーで鋭いのです。とくに1回目のギ
ター・ソロが終わった後にヴィンセントの歌のバックでやっている”ドゥーン、ドン”の
繰り返しに注目です。このようなプレイは、後のジェフ・ベックのプレイそのものではな
いですか。ちなみにベックは、多くのファンのど肝を抜いたギャラップのトリビュート・
アルバム『クレージー・レッグス』を出していますが、ギャラップのギターを聴いている
と影響がよくわかります。同じ60年代のイギリス人ギタリストでも、ジョージ・ハリスン
はカール・パーキンス、キース・リチャーズはチャック・ベリー、ジェフ・ベックはクリ
フ・ギャラップというのが、それぞれのプレイへの影響を考えると面白いですね。ちなみ
にベックは、ギャラップのプレイをコピーするのは難しかったと語っています。

新しさとともにもうひとつ《ビー・バップ・ア・ルーラ》に感じるのが、ロックンロール
という音楽が本質的にもっている衝動性、暴力性といったいろいろな要素です。そのよう
な要素は、面白いことに曲自体にあるのではありません。例えばロックンロールの名曲を
TVのヴァラエティ番組で日本の歌手が歌っても、そのような要素は微塵も感じません。
それを感じることができるのは、多くの場合はレコードに刻まれたオリジナルのパフォー
マンスです。例えば、衝動性。《ビー・バップ・ア・ルーラ》は、ジョンとポールの2人
の元ビートルズが、揃ってカヴァーしています。なぜ2人ともカヴァーをしたのか。とく
にポールは、ジョンによるこの曲の定番カヴァー・ヴァージョンがあるのを知りながら、
なぜあえて歌おうと思ったのか。その理由は、「とにかくこの曲をやってみたい」という
彼等の中の衝動性がかき立てられたからではないでしょうか。

この衝動性は、この曲のオリジナル・パフォーマンスの中にも記録されています。ヴィン
セントのヴォーカルがまるでエクスタシーに達するように「ハフッ、ハフッ」となる部分
で、ドラムのディッキー・ハレルが”ダダダ、ダダダ”と曲を盛り上げていくのですが、
その部分で彼は「ギャー」と雄叫びをあげているのです。しかも2度も。おそらく演奏の
グルーヴ感のど真ん中にいたハレルは、まさに音楽がエクスタシーに達するところで叫ば
ずにはいられなかったに違いありません。《ミステリー・トレイン》のエルヴィスや《ト
ゥッティ・フルッティ》のリトル・リチャードとも違うその叫びは、この曲の持つ衝動性
を表すと同時に、ロックンロールの持つ暴力性と狂騒を強く感じさせるのです。ヴィンセ
ントの《ビー・バップ・ア・ルーラ》は、そのようなロックという音楽のもつ特徴的な要
素を最初に記録したレコードなのではないかと思います。

《 Be-Bop-A-Lula 》( GENE VINCENT and HIS BLUE CAPS )
cover

Gene Vincent(vo,elg) & His Blue Caps
Cliff Gallup(elg), Willie Williams(elg), Jack Neal(b), Dickie Harrell(ds)

Written  by: Gene Vincent & Sheriff Tex Davis
Produced by: Ken Nelson
Recorded   : May, 1956
Charts     : POP7
Label      : Capitol

Appears on :Bluejean Bop
1.Bluejean Bop, 2.Jezebel, 3.Who Slapped John?, 4.Ain't She Sweet?,
5.I Flipped, 6.Waltz Of The Wind, 7.Jump Back.Honey.Jump Back
8.Wedding Bells, 9.Jumps.Giggle&Shouts, 10.Up A Lazy River
11.Bop Street, 12. Pec O' My Beat

+ bonus track

13.Race With The Devil, 14.Be-Bop-A-Lula, 15.Woman Love, 16.Crazy Legs,
17.Gonna Back Up Baby, 18.Well I Knocked Bim Bam

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