●ロックへの旅:ブルー・スエード・シューズ
    (カール・パーキンス:1956)

アメリカにおいて、1956年という年はロックン・ロールが席巻した1年といえます。この
1年間だけで、ロックンロールの決定的名曲・名演が、どんなに少なくみつもっても3曲
は生まれています。その3曲は、リトル・リチャードの《トゥッティ・フルッティ》(少
なく見積もっているので1人1曲ですが、《ロング・トール・サリー》も捨てがたい)、
ジーン・ビンセントの《ビー・バップ・ア・ルーラ》、そして今回紹介するカール・パー
キンスの《ブルー・スエード・シューズ》です。エルヴィスによるリーバー&ストーラー
のペンによる名曲《ハウンド・ドッグ》も1956年のヒットですが、既にビッグ・ママ・ソ
ーントンによって発表されていたので除外します。エルヴィスを除いても、この3曲なの
です。この3曲がヒットチャートの上位に入ってくるのですから、1956年のロックンロー
ルの勢いはやはりすごかったと言えるでしょう。

その勢いは、アメリカから遠く離れたイギリスにも届いていたようです。ビートルズをは
じめ、後にアメリカのチャートを席巻するようになるミュージシャンは、みなこの当時の
ロックンロールに”ヤラレテ”います。イギリスのミュージシャンだけでなく、ボブ・デ
ィランやビーチ・ボーイズといったアメリカ勢をみても同様です。彼等の多くが、後に50
年代のロックンロール・カヴァーを制作しているのです。ロックンロールから大きく飛躍
したロックの歴史に残る傑作を創った人が殆どにもかかわらず、ロックンロールのカヴァ
ーを行ったという事実だけでも、当時10代だった彼らの心に50年代のロックンロールが与
えたインパクトがわかる気がします。それは言葉で言い表せるようなものではなく、文字
通り”ガツンと一発ヤラレテしまっている”と言えるでしょう。それでは、これらのロッ
クンロール時代において、カール・パーキンスはどのような存在だったのでしょうか。

「カールは、ぼくらのアイドルだった」、ポール・マッカートニーの言葉です。ビートル
ズでカール・パーキンスというとジョージのイメージが強いですが、みんな好きだったよ
うです。ポールは、ビートルズ時代に《シュア・トゥ・フォール》をレパートリーにして
おり、『タッグ・オブ・ウォー』では、パーキンス本人をゲストに迎えて《ゲット・イッ
ト》を制作しています。リンゴもソロ・アルバムで、ポールのプロデュースで《シュア・
トゥ・フォール》を歌っています。ビートルズ時代では、言うまでもなくカントリー・テ
イスト溢れる《ハニー・ドント》(ジョンが歌っていた時期もある)と《マッチボックス
》を歌っています。ジョンもまた、1969年9月13日にカナダのトロントで行われたロック
ンロール・リヴァイバル・フェスティヴァルで、エリック・クラプトンらを従えて《ブル
ー・スエード・シューズ》を歌っています。確かに、みんな好きだったようです。

おそらく若き日のビートルズにとって、ロックンロール時代におけるパーキンスの存在と
は、自分達の身近に感じられるヒーローのようなものだったのではないでしょうか。つま
り、自分がロックンローラーを気取ってみるときに、スタイルなどを真似てみたくなる憧
れの存在。エルヴィスほどの暴力性はないのだけど、なんとなく真似してみたくなる。そ
のような存在だったのではないかと想像するのです。《ブルー・スエード・シューズ》を
一聴すると、それが感覚的にわかるのです。パーキンスによるこの曲のオリジナル・ヴァ
ージョンは、”スマートなカッコよさ”があります。この曲の発表直後にエルヴィスがカ
ヴァーしますが、テンポも早く荒々しいエルヴィスのヴァージョンと比較すると、パーキ
ンスのオリジナル・ヴァージョンはとてもスマートにまとまっているのです。このスマー
トさこそが、若き日のビートルズの心を捉えたものと考えます。

ビートルズのなかでもっともパーキンスに熱を上げ(”カール・ハリスン”と名のったこ
ともある)、また親しかったのはジョージでしょう。ジョージが80年代に復活したのは、
パーキンスとのTVスペシャルがきっかけでした。パーキンスの葬儀にもジョージは参列
して、《ユア・トゥルー・ラヴ》を捧げています。ジョージにとってパーキンスは、永遠
のアイドルだったに違いありません。ジョージにとってパーキンスがそこまでの存在だっ
たと思われるのは、パーキンスがリード・ギタリスト(ヴォーカルを取りながら、リード
も弾く)だったからだと考えます。見事なギターも弾きこなすアイドルの姿に、若き日の
ジョージは”一発でヤラレタ”に違いありません。そのジョージが、「レコーディングの
クオリティもムードも完璧」と語ったのが《ブルー・スエード・シューズ》です。パーキ
ンスの”スマートでカッコイイ”ヴォーカルと、見事なギターに注目です。

《 Blue Suede Shoes 》( CARL PERKINS )
cover

Carl Perkins(vo,elg)
Jay Perkins(g), Clayton Perkins(b), W.S. Holland(ds)

Written  by: Carl Perkins
Produced by: Sam Phillips
Recorded   : February, 1956
Charts     : POP#3, R&B#1
Label      : SUN

Appears on :Original Sun Greatest Hits
1.Blue Suede Shoes, 2.Honey Don't, 3.Boppin' the Blues, 
4.Everybody's Trying to Be My Baby, 5.Movie Magg, 6.Sure to Fall,
7.All Mama's Children, 8.Perkins Wiggle, 9.Put Your Cat Clothes On,
10.Matchbox, 11.Your True Love, 12.Lend Me Your Comb ,13.Dixie Fried,
14.You Can Do No Wrong, 15.Glad All Over, 16.Gone, Gone, Gone

※上記のイメージをクリックすると、Amazonにて購入できます