●ロックへの旅:ロック・アイランド・ライン
    (ロニー・ドネガン:1956)

気づいている方もいると思いますが、この毎月末の「ロックへの旅」という連載の大きな
軸になっているのはビートルズです。しかしその理由は、”ビートルズは20世紀が生んだ
最高のロック・バンドである”といった一般的な歴史的認識によるものではありません。
あくまで、ぼく自身が初めて夢中になって聴いたロックがビートルズであるという、個人
的な体験によるものです。つまり「ロックへの旅」は、ビートルズの存在を大きな軸とし
て、ロックンロールが一つの大きな流れを形作っていくところから始り、ロックの成熟へ
向かう過程を時系列的に辿ってみるものです。そのような時系列的な聴き方をすることに
よって、普段聴いている曲が、また異なった魅力をみせてくれる場合があるのです。普段
すぐ近くにいるあの娘の、いままで知らなかった魅力にドキっとするような感じです。こ
れがあるので音楽を聴くのは止められません。

ということで今回は、ロニー・ドネガンという人を聴いてみたいと思います。ビートルズ
のファンならば、ロニー・ドネガンという名前を一度くらいは眼にしたことがあるのでは
ないかと思います。ロニー・ドネガンでピンとこなければ、スキッフルという言葉ならど
うでしょう。例えば、次のような文章を見たことがあるのではないでしょうか。「ジョン
は、学生時代にクォリー・メンというスキッフル・グループをやっていた」。どうでしょ
う。思い出したでしょうか。上記のような意味の文章は、ビートルズの伝記本や類似本に
必ず記載されているのではないかと思います。このスキッフルという音楽、ちゃんと聴い
たことがありますか?実を言うと、ぼくはちゃんと聴いたことがありませんでした。ぼく
にとってビートルズの音楽があればそれでよいのであり、ジョンがビートルズ結成以前に
やっていた音楽といっても、とくに興味の対象にはならなかったからです。

しかし、そこは「ロックの旅」です。旅のついでに、ひとつ聴いてみましょうかね。曲は
《ロック・アイランド・ライン》という曲です。「ビートルズ・アンソロジー」の本の中
に、ジョンが持っていたこの曲のレコード盤のレーベルの写真が掲載されています。資料
によると、ジョンはこの曲に熱心に耳を傾け、やがてはギターで演奏するようになったと
あります。どのような曲なのか、聴いてみることにしましょう。《ロック・アイランド・
ライン》という曲は、ギターとベースによる”ジャーン”という音で始ります。そこにト
ーキング・スタイル(ラップ・スタイルといったほうが伝わりやすいですかね)で、ドネ
ガンのヴォーカルが入ってきます。やがてドネガンは歌いだし、曲のテンポも次第に速く
なっていきます。それに合わせるかのように、ドネガンのヴォーカルも性急な感じになっ
ていくのです。

ドネガンのヴォーカルは力のこもったものですが、カラッと明るい歌い方です。しかし、
曲のタイトルから抱く印象とは異なり、曲を聴いた印象はロックンロールではなく、どち
らかというとカントリー・ソングのような印象です。しかし、ビートルズの中で、少なく
ともジョン・レノンはドネガンの音楽を熱心に聴き、実際に人前で演奏をしたこともあっ
たようです。これが、不思議です。この曲がヒットしていた当時、ジョンは15歳。なにが
ジョンの心を捉えたのでしょうか。それはひとえにこの曲の単調さにある気がします。イ
ギリスでスキッフルがブームとなったのは、その手軽さにあったと言われています。コー
ド進行の基本は、弾きやすいスリー・コードのスタイル。演奏も、ギター、ベースの代わ
りに茶箱に棒を立てて弦を張ったティー・チェスト・ベースと呼ばれる手作りの楽器、パ
ーカッションの代わりはウォッシュ・ボード(洗濯板)があればよかったのです。

つまりドネガンの音楽は、ギターをはじめて手にしたティーン・エイジャーが実際に演奏
してみるのに最適な音楽だったわけです。音楽そのものの魅力というよりも、音楽を実際
に自分で演奏できるところに大きな魅力があったのではないでしょうか。つまり日本でヴ
ェンチャーズやフォーク・ソングが流行ったのと同じ様な理由で、ドネガンの音楽は受け
入れられていたのだと推測します。ジョンのクォリー・メン時代のドネガンの曲のレパー
トリーは、《ロック・アイランド・ライン》のほかに、《ドント・ユー・ロック・ミー・
ダディ・オー》、《ラヴ・イズ・ストレンジ》だったそうです。バラード調の《ラヴ・イ
ズ・ストレンジ》以外は、性急な曲であるとことが面白いところです。《プッティン・オ
ン・ザ・スタイル》といったヒット曲ではなく、性急な曲をレパートリーとしていたとこ
ろに、既に心はロックンロールの方を向いていたジョンの指向が現れている気がします。



《 Rock Island Line 》( Lonnie Donegan )
cover

Lonnie Donegan(vo, g), Chris Barber(b), Beryl Bryden (washboard)

Charts     : POP#8
Label      : Decca

Appears on :Rock Island Line: The Singles Anthology 1955-1967
Disk1:
1.Rock Island Line, 2.John Henry, 3.Diggin' My Potatoes, 4.Bury My Body,
5.Lost John, 6.Stewball, 7.Bring a Little Water, Sylvie, 8.Dead or Alive,
9.Don't You Rock Me Daddy-O, 10.I'm Alabammy Bound, 11.Cumberland Gap,
12.Love Is Strange, 13.Gamblin' Man, 14.Puttin' on the Style,
15.My Dixie Darling, 16.I'm Just a Rolling Stone, 17.Jack O'Diamonds,
18.Ham 'n' Eggs, 19.Grand Coolie Dam, 20.Nobody Loves Like an Irishman,
21.Sally, Don't You Grieve, 22.Betty, Betty, Betty, 23.Lonesome Traveller,
24.Times Are Getting Hard, Boys, 
25.Lonnie's Skiffle Party, Pt. 1: Little Liza Jane/Puttin' on the Style/Ca,
26.Lonnie's Skiffle Party, Pt. 2: So Long/On Top of Old Smokey/Down in the,
27.Tom Dooley, 28.Rock o' My Soul

Disk2:
1.Does Your Chewing Gum Lose Its Flavour, 2.Aunt Rhody (The Old Grey Goose),
3.Fort Worth Jailm, 4.Whoa Buck (Whoa Back, Buck), 5.Battle of New Orleans,
6.Darling Corey, 7.Kevin Barry, 8.My Laggan Love, 9.Sal's Got a Sugar Lip,
10.Chesapeake Bay, 11.San Miguel, 12.Talking Guitar Blues, 
13.My Old Man's a Dustman, 14.Golden Vanity,
15.I Wanna Go Home (The Wreck of the John "B"), 16.Jimmy Brown the Newsboy,
17.Lorelei, 18.In All My Wildest Dreams, 19.Lively!, 
20.Black Cat (Cross My Path Today), 21.Virgin Mary, 22.Beyond the Sunset, 
23.(Bury Me) Beneath the Willow, 24.Leave My Woman Alone, 
25.Have a Drink on Me, 26.Seven Daffodils (Seven Golden Daffodils),
27.Michael, Row the Boat Ashore, 28.Lumbered, 29.Comancheros, 30.Ramblin' Round

Disk3:
1.Party's Over, 2.Over the Rainbow, 3.I'll Never Fall in Love Again,
4.Keep on the Sunny Side, 5.Pick a Bale of Cotton, 6.Steal Away, 7.Market Song,
8.Tit Bits, 9.Losing By a Hair, 10.Trumpet Sounds, 11.It Was a Very Good Year,
12.Rise Up, 13.Lemon Tree, 14.I've Gotta Gal So Fine, 
15.500 Miles Away from Home, 16.This Train, 17.Beans in My Ears,
18.It's a Long Road to Travel, 19.Fisherman's Luck, 20.There's a Big Wheel,
21.Get Out of My Life, 22.Won't You Tell Me, 23.Louisiana Man, 24.Bound for Zion,
25.World Cup Willie, 26.Where in the World Are We Going,
27.Auntie Maggie's Remedy, 28.(Ah) My Sweet Marie)


※上記のイメージをクリックすると、Amazonにて購入できます