本屋さんの音楽雑誌コーナーに行くと、最近は”大人系”ロック雑誌が目に付くようにな ってきた。表紙を飾っているのも、ビートルズ、ストーンズ、ツェッペリンなど、60年代 から70年代に活躍したバンドが目立つ。ようするに、これらのバンドの音楽を聴いて育っ た世代(おそらく40代から50代)をターゲットとした音楽雑誌が盛んなのである。おそら くこれらの年代の方々というのは、サラリーマンでも自営業の人でもそれなりの責任ある 立場についている人が殆どであろう。音楽を楽しむ時間といっても、会社の帰りや、休日 、家に帰ってからのほんの僅かな時間なのではないかと推測する。そのような僅かな時間 に昔懐かしいロックを楽しむのも悪くはないと思うのだが、それでは結局、懐古趣味的な 音楽の楽しみ方にしかならないような気がする。聴くだけではなく、バンドを復活して昔 のロックを演奏してみても同じことだ。それでは一時の楽しみしかないであろう。 子供時代と違って大人はお金だけはあるので、DVDの5.1サラウンドに囲まれてコン サート気分にひたって喜んでいる人もよく見かける。しかしそういう楽しみ方だけが、大 人のロックではない。大人なのだから、もう少し違った音楽の楽しみ方を考えてみたい。 音楽と一生付き合えるような”知の楽しみ”である。大人になった現在では様々な音楽ジ ャンルが成熟し、昔は知り得なかった数々の情報が明らかになってきている。名盤の裏側 をDVDにした”メイキングもの”などがそのような情報であろう。しかし、結局は他人 が調べたことなので、一度観てしまうと永続的な楽しみにはなり得ない。大人になったい まだからこそ考えることのできる、音楽の”知の楽しみ”とはなにか。その答えは音楽の 中にある。音楽は、大人になっても子供時代と変わらずに存在している。音楽がもつ情報 を自分の耳で聴き取ることによって、同じ音楽でも全く違った魅力がでてくるのである。 具体的な例をあげよう。例えば、現在来日中のローリング・ストーンズ。ローリング・ス トーンズの音楽のイメージを、頭の中で言葉にしてみてほしい。どのような言葉が頭の中 に浮かんできただろうか。「ロックンロール!」、「リズム・アンド・ブルース!」、意 外にそのような言葉しか浮かんでこないのではないだろうか。ストーンズそのものに対す るイメージも、「世界最強のロックンロール・バンド」など似たり寄ったりではないかと 想像する。これこそが、子供時代に読んでいた音楽雑誌などで植えつけられたイメージな のである。ストーンズの音楽は、マディ・ウォーターズやチャック・ベリーなど、ロック ンロールとリズム・アンド・ブルースを基底にしていることは間違いない。しかし実際に は、前述のイメージによって制限されていると思われる範囲よりも幅広いのである。それ を知ることによって、より深くストーンズの音楽の魅力を知ることができるはずなのだ。 例えば、ストーンズの音楽とモータウンのヒット曲の関係である。モータウンは、アメリ カのデトロイトという街にあったレコード会社である。その数々のヒット曲は、ビートル ズを初めとする60年代のブリティッシュ・インヴェイジョンに屈することのなかった魅力 的なものだ。ブラック・ミュージックとしてはあまりにもポップなそのヒット曲のアレン ジは、遠く我が日本の歌謡曲にまで影響をあたえているほどである。ストーンズのコアな ファンなら先刻ご承知であろうが、一般のロック・ファンには、ストーンズとチャック・ ベリーの関係はピンときても、ストーンズとモータウンの関係といってもピンとこないの ではないだろうか。しかしそのような日本のロック・ファンの感覚とは無関係に、ストー ンズとモータウンの音楽的関係は、チャック・ベリー、いやそれ以上といえるのである。 その関係は、双方の音楽を並べて聴くことによって誰にでも簡単に実感できるのだ。 ストーンズが取り上げたモータウン・ナンバーは、デビュー作に収録されたマーヴィン・ ゲイの《キャン・アイ・ゲット・ア・ウィットネス》をはじめ多数存在するが、ぼくが言 いたいのはそのようなことではない。キースが、モータウンのマーサ&ザ・ヴァンデラス の《ダンシング・イン・ザ・ストリート》から、《サティスファクション》のリフを思い ついたのは有名な話だ。他にはないのか。そのようなことを自分の耳で確かめてみるのが 、大人の音楽の楽しみ方だと思うのである。すると、ある、ある。フォー・トップスのア ノ曲をマイナー調にしてアレに使ったなとか、グラディス・ナイト&ザ・ピップスのアノ 曲のイントロは、60年代後半の代表曲のイントロそのまんまやんけとか、テンプスのアノ 曲のストリングスの雰囲気を、まんまアノ曲でパクっているなどなど。このように、聴く 視点を変えるだけで、昔聴いたロックのさらなる魅力がみえてくるのである。お試しあれ。