●ロックへの旅:ホワイ・ドゥ・フールズ・フォール・イン・ラヴ
    (フランキー・ライモン&ザ・ティーンエイジャーズ:1956)

フランキー・ライモン&ザ・ティーンエイジャーズの1956年4月のヒット《ホワイ・ドゥ
・フールズ・フォール・イン・ラヴ(邦題:恋はくせもの)》は、とにかくウキウキする
楽しい気分の曲です。しかし、”くせもの”というのは凄い邦題ですね。「くせものめ!
名を名乗れ!」みたいな映画のセリフを思い出してしまいます。そのせいか、さすがに最
近ではこの邦題は使用されないようで、《ホワイ・ドゥ・フールズ・フォール・イン・ラ
ヴ》と原題表記で記されることのほうが多いようです。ドゥ・ワップ初期の名曲と言われ
るだけあって、ティーンエイジャーズのオリジナル・ヴァージョンだけではなく、《リト
ル・ダーリン》のヒットを持つダイアモンズやゲール・ストームなどの同時代の競作もヒ
ット・チャートを賑わせました。わが日本では、子供番組のポンキッキーズで曲のコーラ
ス部分が使われていたので、聞いたことがあると思う人も多いかもしれません。

ぼくがこの曲をはじめて知ったのは、ジョニ・ミッチェルの傑作ライヴ・アルバム『シャ
ドウズ・アンド・ライト』に収録されている、ジョニとパースエイションズによるパフォ
ーマンスでした。黒人男性5人のパースエイションズというコーラス・グループは、パッ
ト・メセニーやジャコ・パストリアスといった当時のフュージョン・シーンのスター・プ
レイヤーを従えた、このときのジョニのツァーの前座を務めていました。ジョニによると
「たまたま、一緒に歌ってみたら、息がピッタリだった」ということで、ショーの終盤に
パースエイジョンズをステージに呼び戻してこの曲を歌っていたそうです。黒人コーラス
・グループのパースエイジョンズと白人女性シンガー・ソング・ライターのジョニ・ミッ
チェルの80年代における共通言語が、この《ホワイ・ドゥ・フールズ・フォール・イン・
ラヴ》だったということが、そのままこの曲の立場を物語っていると思います。

ジョニ・ミッチェル以外にも多くのカヴァーがあり、確か80年代初期にはダイアナ・ロス
によるカヴァーもヒットした記憶があります。われらがビーチ・ボーイズも、1964年のア
ルバム『シャット・ダウン・ヴォリューム・ツゥー』でフィル・スペクターばりのサウン
ド・プロダクションでカヴァーしています。モータウン社長のベリー・ゴーディは、この
曲を数々のモータウン・ナンバーの雛型の一つにしたと言われています。スター・ウォー
ズで有名なジョージ・ルーカス監督の初期の傑作「アメリカン・グラフティ」では、ナイ
ト・クルージングを楽しむ主人公の一人が、街角で金髪の美人に出会う場面で使われてい
たような(記憶なので、間違っていたらゴメンナサイ)。この曲が、これらの多くの人達
に取り上げられた理由は、やはりこの曲にそれだけの魅力があるからでしょう。それでは
、この曲の魅力とはいったいなんなのでしょうか。

ティーンエイジャーズは、黒人男性5人のグループです。リード・ヴォーカルをとったフ
ランキー・ライモンは、この曲がヒットした1956年4月の時点ではまだ13歳。他のメンバ
ーも15歳や16歳で、文字通りティーン・エイジャーのグループでした。13歳の男の子がヴ
ォーカルをとるなどというと現在ではちっとも珍しくありませんが、当時のヒット曲を歌
うグループでは知る限り他にいません。そのことを知っていてこの曲を聴くのと知らない
で聴くのでは大違いで、当時は女性が歌っているのではないかと思われたという伝説も理
解できるような気がします。しかもそのような声質で歌われるのが、「なぜ愚か者は恋に
落ちるのか、なぜ小鳥は楽しそうに歌うのか、なぜボクのハートはドキドキするのか、な
ぜか教えて?」というシンプルかつ詩的な歌詞を持つ、当時のブラック・ミュージックと
しては極めてポップな曲なのです。

この当時のブラック・ミュージックとしては斬新なポップ性こそがこの曲の魅力であり、
人々の心に大きな印象を与えている要因になっているとぼくは思うのです。当時の黒人コ
ーラスグループが歌っていた曲といえば、ゴスペル風か、ブルージーか、R&B風か、ム
ーディーなものばかりでした。この曲以前の似たようなテイストを持つドゥ・ワップとい
うと、コーズの《シュ・ブーン》やクロウズの《ジー》などが思い浮かびますが、この曲
の持つ斬新なポップ性には及びません。ラジオから流れてきたこの曲を初めて聴いた当時
の人々は、思わず耳をそばだてたのではないでしょうか。歌詞とメロディも、見事にシン
クロしています。しかも間奏では、思わず身体を揺すってしまうジャジーなサックス・ソ
ロまでついています。思わず耳をそばだてさせ、身体を揺すらされるような斬新なポップ
性は、いまもその魅力を失っていません。ほぼ完璧なポップ・シングルだと思います。

《 Why Do Fools Fall in Love? 》( Frankie Lymon & The Teenagers )
cover

Frankie Lymon(vo)
& The Teenagers (Joe Negroni, Herman Santiago, Jimmy Merchant & Sherman Garnes)

Written  by: Frankie Lymon, Herman Santiago, Jimmy Merchant & George Goldner
Produced by: George Goldner
Recorded   : 1955?
Released   : January, 1956
Charts     : R&B#1,POP#6
Label      : Gee

Appears on :The Very Best of Frankie Lymon & the Teenagers
1.Why Do Fools Fall in Love?, 2.Please Be Mine, 3.I Want You to Be My Girl
4.I'm Not a Know It All, 5.I Promise to Remember, 6.Who Can Explain?
7.ABC's of Love, 8.Share, 9.I'm Not a Juvenile Delinquent
10.Baby Baby, 11.Am I Fooling Myself Again, 12.Teenage Love
13.Paper Castles, 14.Out in the Cold Again, 15.Goody Goody
16.Little Bitty Pretty One

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